2019年05月31日 (金)【みえDE川柳】 お題:期待

天 今度こそできる気がする逆上がり/月日備人さん

吉崎先生 期待とは、普通は自分以外の他人に対して抱くものだが、この句は、自分自身に期待しているのだ。将来の自分とか一年後の自分に期待するのなら解(わか)るが、この句はそうではない。失敗した直後の自分自身の技に期待しているのだ。直前の逆上がりでヒントを掴(つか)んだのだろう。そしてその予感はたいてい当たる。いわゆる、コツを掴んだのだ。
 奇(く)しくも天地人の3句とも題の言葉である「期待」を句の中に読み込んでいなかった。どれも眼(め)の付け所(どころ)が良かった。

 

地 文庫本読むふりをして待つ知らせ/汐海 岬さん

吉崎先生 文庫本を読むふりをしているのは、たぶん父親なのだろう。母親は、気になりながらも皿洗いなどをしていて、皿の一枚も床に落として割ってしまったかも知れない。息子さんかお嬢さんからのメールを今か今かと待っている図。高校受験か大学受験、就職試験かも知れない。結果が気になるが、お父さんは泰然自若、取り乱したら父親の沽券(こけん)に関わる。文庫本を読むふりをして聞き耳を立てている。
 たった17音字で、これだけの事情が推察できる。「期待」が浮かびあがってくる。

 

人 個人差があるというけど飲んでみる/ほのぼのさん

吉崎先生 この句は題の言葉「期待」が入っていないが、「飲んでみる」で、その成果を期待していることが容易に解(わか)る。ダイエットに効果のある飲み物、あるいは中性脂肪やコレステロールを減らすという謳(うた)い文句のある飲み物なのだろう。
 個人差があると言うけど、の「けど」は「それでも」という意味。駄目で元々(もともと)、効いてくれたら儲(もう)けもの、という庶民のいじらしい気持ちが滲(にじ)み出ている。人情の機微をうまく詠んだ川柳は良い川柳である。

 

<入選>

過疎地でも夢は膨らむランドセル/夢香さん

子にはして孫にはしない高望み/フーマーさん

期待などしていないよと言う期待/にった みささん

留年という妙薬に期待する/淺川八重子さん

期待した子がそれなりに出世する/本城恵美さん

ポストインもう当選を待っている/かぐや姫さん

手のひらの間から見るクラス替え/ぢゅんころりんさん

母の日の期待以上のネックレス/松ぽっくりさん

期待したほどではないがボーナス日/葉ざくらさん

期待値が高まるジャムのいい匂い/比呂ちゃんさん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 「期待」は抽象名詞ですが、「する」を付ければ「期待する」という動詞になります。何らかの動作や心の動きを表す抽象名詞に「する」を付けた動詞を「する動詞」と言います。机やエアコンなどの具象名詞が課題だと、それを句の中に読み込まずに表現することは難しいですが、「する動詞」の場合は可能です。読み込まないぶん表現域が拡(ひろ)がります。
 ただし、句を読んでみて、その課題の言葉が浮かびあがってくることが必要です。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50


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