2018年03月30日 (金)【みえDE川柳】 お題:卒業

天 成績に触れず卒業ほめてやる/まさしさん

吉崎先生 一見、なんでもないような川柳。気負いがなくて自然体で詠んでいるからだろう。
 「卒業おめでとう」などと、卒業そのものを称(たた)えたり、主席で卒業したとか、逆にギリギリの成績で卒業したという川柳は見かけるが、「成績に触れず」と、さりげなく詠まれた句は記憶にない。この句の良いところは正(まさ)にその「成績に触れず」の導入部である。それだけで、成績は芳しくはなかったけど頑張った子供、その親、もしくは教師の表情が浮かんできそうな川柳になった。

 

地 卒業をさせて教師もほっとする/アラレさん

吉崎先生 ほとんどの句は、卒業する本人か、本人の親の立場で詠んだ句であった。この句は卒業まで勉強以外にも根気よく面倒を見てきた教師の立場で詠んでいる。自分のことであれば、「ほっとする」といった心の状態などは直接的には言わず、句の言外でにおわせて読者に共感してもらうものなのだが、ここでは教師の気持ちを思いやって敢(あ)えて「ほっとする」と言い切っている。最後まで気を抜けなかった卒業式も無事に済んだ。その教師の達成感と虚脱感の入り交じった「ほっとする」なのだ。

 

人 答辞より送辞がちょっとだけ上手い/水たまりさん

吉崎先生 在校生が読むのが送辞、卒業生が読むのが答辞である。さて、どうして答辞より送辞のほうが上手だと言えるのか? 察するに、答辞はもう卒業生に敬意を表して、文章も読み方も生徒に任せる。しかし、答辞は在校生が読むもの。落ち度がないよう先生がチェックすることも十分考えられる。作者も、たぶんそれに気づかれたのだろう。
 この句の作者が卒業生の保護者なのか教師なのか分からない。どちらにしても、「ちょっとだけ上手い」と、比較してみせたところが、この句のお手柄である。

 

<入選>

分校の卒業式は猫も来る/福村まことさん

卒業式初めて校歌噛みしめる/あーさままさん

卒業ができず留年続く恋/汐海岬さん

婚活をやっと卒業出来ました/よっちゃんさん

通学の電車今日までありがとう/祥一郎さん

卒業を待って打ち切る手内職/あそかさん

春なのに卒業できぬ花粉症/やんちゃんさん

善人を卒業すれば跳べるはず/デコやんさん

長いドラマの幕開けだった卒業日/ワン吉さん

戒名を貰い卒業する浮き世/ゆきちさん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 「卒業」は時節に沿ったいい題だったと思います。婚活や人生の卒業など、発想の幅を広げると、楽しい、あるいは面白い句も浮かんでくるでしょう。それでいいのですが、やはり「卒業の本家本元」は学校の卒業です。一人で何句でも投句できるのですから、こういう場合は、先(ま)ず本物の卒業を詠んでください。それから、それ以外の卒業に挑戦したらいいでしょう。三才に選ばれた句がすべて「本物の卒業」の句であったのも、偶然ではないと思います。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50


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