2019年12月20日

【みえDE川柳】 お題:包む

天 羽衣で包む地球はデリケート/泡立草さん

吉崎先生 この句が言う「羽衣」とは何だろう? 羽衣と言えば「三保の松原の羽衣伝説」、天女の着る薄くて軽い頼りない衣を思い浮かべる。その羽衣で地球は包まれているのだから、ここで言う羽衣とは、大気圏の中の我々生き物が生息できる範囲、空気や酸素、水などが存在する範囲のことだと理解できる。
 先日、気候変動枠組み条約のCOP25が、スペインで開かれたが、これ以上地球の温暖化を放置すると、地球上の生き物は生きていけなくなるだろう。我々の生息できる範囲と環境は思ったよりデリケートなのだ。まるで、薄っぺらで頼りない羽衣に包まれているようなものだと、人類に警鐘を鳴らしているような壮大な一句。

 

地 包まれて恥ずかしがっている粗品/マリリン凡老さん

吉崎先生  「粗品が恥ずかしがっている」と、粗品を擬人化したところがお手柄。 立派なユーモア川柳になった。百均のレジのように、包まれることは先(ま)ずない粗品。 それなのに自分自身より高そうな包装紙に包まれて面食(めんく)らっている川柳。 また、「粗品」を他ならぬ作者と捉えても楽しい。作者は拍手に包まれているのかも知れない。
 リズムの良さも句意を生かしている。先ず「包まれて」と来て、 いきなり「恥ずかしがっている」とあるから、一瞬、拍手に包まれているヒーローとかヒロイン、 あるいは自己紹介の終わった新入社員かと思いきや、「粗品」と意外な所に落ち着かせている。 同じ内容でも、リズムに乗せると説得力と印象が強くなる。

 

人 包まれる度に私が消えていく/久実さん

吉崎先生 一読明快とは言えない句だが、「私が消える」のだから包まれるのも私だと解(わか)る。それを手掛(てが)かりに「私を包むもの」とは何かを想像すれば句の意味が解る仕立てである。
 私を包むものは、普通に考えれば「愛」だろう。作者は愛に包まれているのだ。しかし、「包まれる度」とあるから、それは愛を感じるさまざまな行為を指しているのだろう。私を応援してくれる、褒めてくれる、失敗をカバーしてくれる、落ちこんでいるときに抱き締めてくれる。それらは全て「愛に包まれていることによる行為」なのだ。それを「包まれる度に」と表現された。ありがたいのだが、その結果わたしの主体性が無くなっていくことを憂えているのだ。その心情を「私が消えていく」と詠んだのだと理解できる。

 

<入選>

新聞でくるっと朝市のさかな/松ぽっくりさん

凹むたび母のアルトに包まれる/麦乃さん

包みやすい形になっている両手/まゆゆさん

女子力を見せるチャンスのラッピング/しゃまさん

あなたの愛にすっかり包囲されている/水たまりさん

包んでも太っ腹とは言われない/アカエタカさん

ラッピングバスも素顔に戻りたい/颯爽さん

食べるのが面倒になる個包装/草かんむりさん

夕焼けに包まれ溶けていく疲れ/やんちゃんさん

ひとりぼっちの案山子を包むボタン雪/雪ん子さん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 「包む」という動詞を辞書で引くと、紙や布などで品物を包むという意味の他、愛情や雰囲気に包まれる、金品を贈るなど広い意味がありますね。それだけに川柳には持ってこいのお題なので、句会なのでも頻繁に出ています。それゆえ「チョコレートを包む」「母の愛に包まれる」などの、ありふれた発想ではなく、独自の着想を得られたかどうかが当落を分けることになります。「技巧は二の次」と言えば言い過ぎですが、いい着想であれば選者は立ち止まるものです。400句を超える応募を頂きましたが、あと一歩の句が多かったようです。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


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