踊りのない夏

“踊りのない夏”を取材する

藤原哲哉記者

新型コロナウイルスの影響で戦後初の全日程中止となった徳島の阿波おどり。日本を代表する夏祭りの1つで、期間中は徳島じゅうが熱気に包まれるという。阿波おどりとは、どんなものなのだろう。そして、徳島の人たちにとってどんな存在なんだろう。「踊りのない夏」、現場を歩いてみることにした。

“レジェンド”の追悼式~自然に踊り出す人たち。

四宮生重郎さん追悼式

 8月11日。阿波おどりに生涯をささげた、ある人物の一周忌の追悼式が徳島中央公園で開かれた。有名連「娯茶平」の連長も務めた、阿波おどりの名手、四宮生重郎さんだ。
 追悼式に湿っぽい雰囲気は無かった。ぞめきの音が聞こえてくると、参加者が1人、また1人と踊りだしたのだ。四宮さんが体現してきた誰もが自由に踊るという阿波おどりの原点を見た気がした。
 参加者の1人は、「(四宮さんに)お世話になったお礼をこめてどんなことがあってもと思って出てきた」と熱い思いを語ってくれた。
 蜂須賀まつり実行委員会の大西智城委員長は、「『ただ、よしこのに合わせてみんながにこにこ踊るのが、それが阿波おどりぞ』ということを(四宮さんは)いつも言っていました」とレジェンドを偲んだ。
 私は、「そうした思いがメンバーの方にも通じていくと思いますか?」と思わず聞いてみたら、大西委員長は「通じていくと思う」と即答してくれた。

“フォトモザイク”
~1万枚の写真に込められた“阿波おどり愛”

フォトモザイク

 翌日の12日。例年なら阿波おどりが始まる日。
 阿波おどり会館であるアート作品が公開されると聞いて取材に来た。江戸時代に描かれたびょうぶ絵をフォトモザイクで再現した作品だ。モザイクのピースとなったおよそ1万枚にのぼる写真はわずか1カ月ほどで集まったのだという。写真を寄せた人たちに思いを聞いてみた。地元の連に所属する藤原悦子さん。16歳から踊りを始めてもう半世紀を超えて阿波おどりに魅せられているという。藤原さんは、「55年間箱の中にあったという感じやけん。で、ここで日の目をみれたら、ちょっとええかなって思う」と語ってくれた。
 約300枚もの写真を寄せた人もいる。阿波おどり会館で公演している平島春香さんだ。平島さんは、「ああいっぱいこういう夏あったな、こういう夏もあったなってすごい思い出がいっぱいよみがえってきて、懐かしい写真とか、昔の写真がいっぱいあって、阿波おどりってこうだよっていうのを世界に発信できる場として、また、4日間阿波おどりが盛り上がればいいなと思ってます」と来年に向けた期待を口にした。
 中には海外から写真を寄せた人もいると知り、オンラインで取材を試みた。台湾阿波おどり推進協会で代表をつとめる王嘉宏さんだ。6年前に阿波おどりに出会ってから夢中になっているそうだ。王さんは、「阿波おどりの時期は夏。暑い天気の中で、着物を着て汗だくの姿で頑張って踊っているというのは、台湾にはないので阿波おどりを見てすごく感動しました」と尽きせぬ“阿波おどり愛”を語るのだった。
 阿波おどりが、世代をこえて世界の人々をつなげていることを実感した。

やはり、体験するしかない

藤原記者踊りに挑戦

 阿波おどりの魅力を少しでも理解するためには、やはり体験するしかないと思った。阿波おどりが中止になっても公演が行われていると聞いて取材した。舞台の上では笑顔で踊る踊り手たちがいた。そして踊り手の指導を受けながら観客席のみんなも踊り出す。とても楽しそうだ。
 観客の1人は、「すごい楽しかったです。女性もすごい華やかでしたし、男性もかっこよかったです」と興奮冷めやらぬ様子で語ってくれた。
 もちろん私も踊ってみた。でも初体験の私は・・・。手も足もぐちゃぐちゃ、情けない踊りになってしまった。でも、見よう見まねだったが、踊るとなぜか楽しく、自然に笑顔になることがよく分かった。

夕闇の中の阿波おどり

四宮賀代さんの街角阿波おどり.jpg

 その日の夜。徳島市内のある街角に、浴衣姿で集まる人たちを見かけた。暗闇でひっそりと始まった阿波おどり。先頭をいくのは、女踊りの名手、四宮賀代さんだ。四宮さんは、「夕涼みに来たんです。夕涼みがてら、だれか一人三味線持ってきてるわ、浮かれて踊り出すじゃないって」と笑顔で語った。
 やがて、形にとらわれない自由な踊りが始まった。
 楽しさにつられて、見ていた人たちも円の中で踊り始めた。
 思わず私もつられて円の中へ。夢中になって踊ってしまった。こんな自由な踊りだと思わず、すごい楽しかった。
 四宮賀代さんは、「阿波おどりって、たぶんみんな一緒なんですけど、浮き世を忘れるっていうんですよ。こんな暗いコロナのことも忘れて、この一時だけは本当に阿波おどりに没頭できる、これがいいところだと思います」と締めくくった。

 「踊りのない夏」に出会った、それぞれの阿波おどり。徳島の人たちがなぜ熱くなるのか。私にも少しだけ、阿波おどりの魅力が理解できたような気がした。

 来年こそ、街じゅうを熱気に包む阿波おどりが開催できますように。そして、その現場をぜひ取材したい。そんな思いを強くした取材だった。

阿波おどりの新PR動画 公開

日本を代表する夏祭りの1つ徳島市の阿波おどりは、例年お盆の時期に市内中心部で行われていますが、新型コロナウイルスの影響で、ことしは戦後初めて全日程が中止されることになりました。阿波おどりがない異例のこの夏、徳島市は、来年の開催に向けた機運を高めようとPR動画を新たに制作し、インターネット上で公開しています。動画はおよそ1分間で、さまざまな踊り手グループが踊りを繰り広げる過去の阿波おどりの様子が紹介されています。また、国内外から訪れた観光客たちの阿波おどりへの思いも合わせて紹介されていて、“踊る阿呆”と“見る阿呆”が共に楽しむ阿波おどりの魅力を伝えています。動画の最後は「来年はきっと阿波おどり」と締めくくられ、来年の開催を願う思いが込められています。動画は、徳島市や阿波おどり実行委員会のホームページから見ることができるほか、お盆期間中はJR徳島駅や大型商業施設などでも上映しているということです。徳島市の内藤市長は「動画を通してみんなで一緒に徳島の夏を盛り上げ、阿波おどりへの情熱を途切れさせることなく来年へつないでいきたい」と話しています。

お盆休みで阿波おどり追加公演

徳島市の阿波おどり会館では県内で新型コロナウイルスの感染者が増えたため、8月3日から阿波おどりの定期公演を午前11時と午後2時の1日2回に減らして対応してきました。しかし、お盆休みを利用して来館する人に阿波おどりを楽しんでもらおうと12日から15日まで定期公演の回数を増やし、午前11時、午後1時、午後3時の1日3回、公演を行っています。これにあわせて阿波おどり会館では観覧席を指定席にしてグループごとに観客どうしの間隔をあけているほか、入り口で検温と手指の消毒を徹底しています。12日は3回の公演であわせて140人ほどが来館し、専属の踊り手による華やかな踊りを楽しんだり、「ぞめき」にあわせて自分の席で踊ったりしていました。観客の女性は「女性は華やかで男性はかっこよくすごい楽しかったです。コロナが終息したらぜひまた来たいです」と話していました。阿波おどり会館専属連連長の堀内直人さんは「世代ごとの踊りの違いを見て楽しんだり、阿波おどりを踊れるおもしろさを感じて欲しい」と話していました。

阿波踊りのフォトモザイク展

このフォトモザイクアートは阿波踊りのない夏を盛り上げようと徳島市の阿波おどり会館が全国から阿波踊りの写真を募集し、制作しました。作品は縦1.8メートル、横2.5メートルの2枚のパネルからなり、県内外から集まった9975枚の写真を組み合わせて江戸時代末期に描かれた「阿波盆踊図屏風」が表現されています。パネルに近づくと県内をはじめ台湾やアメリカなど世界中の阿波踊りファンから寄せられた写真を1枚1枚楽しむことができます。また、阿波おどり会館のホームページには、写真とともにメッセージも掲載され、「来年は盛り上がりたい」とか「少しでも阿波踊りを共有したい」といった阿波踊りへの熱い思いが寄せられています。阿波おどり会館の篠原彩奈さんは「50年から60年前の懐かしい写真もあるので阿波おどりの思い出話を家族でしてもらいたい」と話していました。モザイクアートは阿波おどり会館の2階ギャラリーで展示されています。

阿波踊りの名手 四宮さん追悼式

四宮生重郎さんは有名連の「娯茶平」の連長を務め、3年前からは誰でも自由に踊りに参加できる「蜂須賀まつり」を始めるなど長年、阿波踊りの普及に取り組んできましたが、去年、91歳で亡くなりました。11日は、四宮さんの一周忌を前に蜂須賀まつり実行委員会が追悼式を行い、徳島中央公園の「蜂須賀まつり記念碑」の前には100人ほどが集まりました。式では記念碑の前に迎え火がたかれ、蜂須賀まつり実行委員会の大西智城委員長が「こんなにもたくさんの人が来てくれるとは夢にも思わずとてもうれしいです」とあいさつしました。このあと会場には「ぞめき」の音が鳴り響き、一部の参加者が四宮さんをしのんで迎え火の前で阿波踊りを踊りました。参加者は「お世話になった四宮さんにお礼をするため何があっても参加したいとの気持ちで来ました」と話していました。蜂須賀まつり実行委員会の大西委員長は「生重郎さんの言葉を思い出しながら迎え火をたきました。生重郎さんの思いはこれからも受け継がれていくと思う」と話していました。

阿波おどりのちょうちんで活気を

新型コロナウイルスの影響で阿波おどりが中止となった徳島市では、商店街を少しでも活気づけようと、阿波おどりで使うちょうちんの飾りつけが行われています。日本を代表する夏祭りの1つ、徳島市の阿波おどりは、例年お盆の時期に市内中心部で行われ、毎年100万人を超える観光客が訪れます。
しかし、ことしは新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、戦後初めてすべての日程の中止が決まりました。こうした中、阿波おどり実行委員会では街を少しでも活気づけようと、阿波おどりで使うちょうちんを無料で貸し出して、商店街などに飾りつけてもらうことにしていて、両国本町商店街にあるお茶の専門店「三好園」では、9日朝から家族総出でちょうちんを取りつけました。
店の人たちは脚立に上って、赤や黄色の鮮やかなちょうちんを店の軒先につり下げ、およそ20個のちょうちんが飾りつけられると立ち止まって写真撮影をする人もいました。「三好園」の黒川耕助社長は、「最近明るいニュースが少ないので少しでも気持ちが明るくなればと思って飾りつけました。阿波おどりがないのは寂しいですが、来年は開催できたらいいなと思います」と話していました。

“踊りのない夏” 廃業検討の可能性3割の衝撃

NHKニュースWEB ビジネス特集にも掲載

“毎年お盆に行われる、日本を代表する夏祭りの1つ、阿波おどり。美しくしなやかな女踊りに、豪快で躍動感あふれる男踊り。そんな「踊る阿呆」を一目見ようと、全国から大勢の「見る阿呆」が詰めかけ、徳島の街は年に1度、興奮と熱気に包まれます。ところが、この徳島市の阿波おどりが、ことしは新型コロナウイルスの影響で、戦後初めて中止となったのです。“踊りのない夏”。それは、地域経済に深刻な影を落としています。
(徳島放送局 阿波おどり取材班記者 宮原豪一 六田悠一 荻原芽生)

阿波おどり中止による経済影響 宿泊施設アンケート

阿波おどり中止による経済影響 宿泊施設アンケート

日本を代表する夏祭りの1つ、徳島市の阿波おどりがことしは新型コロナウイルスの感染拡大で、戦後初めて中止が決まりました。NHK徳島放送局と公益財団法人徳島経済研究所では、阿波おどりの中止がもたらす徳島経済への影響の全体像を浮き彫りにするとともに、今後の持続的な発展に向けた建設的な提言等に役立ててていくため、徳島市周辺の11の市と町にある166の宿泊施設を対象にしたアンケート調査を実施しました。(回答件数:64件・回答率38.6%)

《キャンセルによる損失額・ことしの予約状況》

キャンセルによる損失額・ことしの予約状況

阿波おどり中止が発表されてから寄せられた
キャンセル者数はのべ1万2628人
キャンセルによる損失額は少なくとも約2億450万円に。

キャンセルによる損失額・ことしの予約状況

例年の客室稼働率の平均・・・84%(毎年、満室になる施設も多数)⇔これに対し、今年の予約状況の平均は16.6%にとどまる。

徳島経済研究所・元木秀章 上席研究員

徳島経済研究所・元木秀章 上席研究員

2億円というのは阿波おどりの期間中という限られた期間にしては非常に大きな数字だと感じている。またお盆の時期でもあるため、宿泊単価の高い時期のキャンセルになり、宿泊施設にとってはダブルのショックになっている。阿波おどりは広い産業に関わるため、調査は氷山の一角で、地域経済への影響はより深刻になるおそれがある。

《廃業を検討する可能性》

廃業を検討する可能性があるかどうか
廃業を検討する可能性があるかどうか

3割の施設が
「廃業を検討する可能性がある」と回答。

徳島経済研究所・元木秀章 上席研究員

そのきっかけについては、半数が「新型コロナウイルスと阿波おどり中止の両方」と回答。

徳島経済研究所・元木秀章 上席研究員

徳島経済研究所・元木秀章 上席研究員

3割というのは非常に大きな数字で、結果を見て大きな衝撃を受けた。新型コロナウイルスの影響がある中で、さらに阿波踊りの時期という需要もなくなることにより、宿泊施設は“廃業”という非常に重い決断を考えざるを得ないところまで追い込まれている。廃業が相次いだ場合、感染が終息して阿波おどりを再開できたとしても、観光客を受け入れられなくなるおそれがある。来年以降を見据え、スピード感を持った対策が必要だ。

《公的支援について》

廃業を検討する可能性があるかどうか
公的支援は十分か

県や市町村による公的支援について、
8割超の施設が「不十分」と回答。

求める支援策、対策
求める支援策、対策
徳島経済研究所・元木秀章 上席研究員

※最も多いのが「阿波おどりに依存しない観光政策」次いで「県外客誘致」 ⇔マイクロツーリズムに力を入れた公的支援が多い中、「県内需要喚起」を望む声は比較的少ない。

徳島経済研究所・元木秀章 上席研究員

徳島経済研究所・元木秀章 上席研究員

“8割の施設が公的支援が不十分と感じている”という結果は、現金収入が絶たれている宿泊施設が多い中で目先の支援がまだまだ行き届いていないことを示している。主に地元の県民を対象とした宿泊補助などのマイクロツーリズムの推進策では人気の観光地や宿泊施設に需要が偏り、恩恵を受けない施設があることに注意が必要だ。小規模施設を中心に、実態を丁寧に観察し、さまざまな視点からの支援が望まれる。

《自由記述(抜粋)》

このままの状態が続くと、経営の続行は不可能となる可能性が大である。従来から経営環境が厳しい中、従前の売上に対して7割にしか戻らないとすると、中途半端な対応では2年後、3年後、生き残る企業は県外大手のチェーンホテルのみとなってしまうと考えています。

県外ナンバーの車は傷つけられるのではと言う問い合わせがあり徳島県のイメージはよくありません。収束後も悪いイメージが残り観光客が来なくなるのではと心配しております。

キャンセルの損失額はごく一部のものです。本当に先が見えず不安な毎日です。

『県内の人に限り、宿泊料金を割り引く』といった助成もあるようですが、これは『風光明媚な立地や温泉がある。または普段は敷居が高い高級リゾートホテル』などには有効であると思いますが、当方のような街中の小さな宿ではそれもあまり期待できないと思われます。

県は県外客をシャットアウトするのであれば休業要請を出しそれに対してしっかりと支援するべきだと思う。

今年の阿波おどりが中止となりましたが、それらに替わる集客イベントが必要だ。これをきっかけに従来の阿波おどりを見直し、全県下で年間を通じて集客できる、楽しめる、参加できるイベントに形を変えていく検討も必要と思います。

特に徳島県は県外ナンバーへの差別について全国ニュースとなってしまい、イメージが悪化しています。差別を受けていながらも戦っている医療従事者に対してキャンペーンを企画すれば今度は良いイメージを全国に発信できます。

そろそろ考えていた閉店が早まりそうです。

コロナウイルスを恐れてなにもできないというのではなく供に共存できるように今できる事を国や県の給付金や融資を活用していこうと思っています。

【調査結果概要】

  • 回答先所在地
  • 客室規模、収容規模
  • 収容規模