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ディレクター’sメモ

初回放送日:2019年5月31日(金)

ディレクター'sメモ

■子どもたちは、ほとんど知らされていない!?
わたし「いじめがあったら、先生たちがチームを組んで対応することに決まっているんですが・・・」
子ども「え!そんなの全く知らない!」
わたし「学校は、いじめを受けた子が安心して教育を受けられるように措置することに決まっているんですが・・・」
子ども「聞いたことない!」

“とある取材現場”で繰り返された問答です。2013年にいじめ防止対策推進法ができてから、子どもを守るための仕組みは、濃淡はあるものの、全国で整えられてきました。しかし、肝心の子どもたち自身が仕組みの存在を知らない、というか知らされていない・・・。
特に問題だと思ったのが、「どう対応されるかが分からないから、相談できない」という声でした。せっかく「なんとかしたい!」と思っている大人とそのための仕組みがあるのに、それが子どもたちに伝わっていない。この課題に一石を投じる回を制作したいというのが、取材の第一歩でした。

■今回は、“体験型授業”はいかがでしょうか?
上記の課題に取り組む第一歩として、今回は、「番組を見て考える」という通常スタイルではなく、VTRの岩根中学校の活動を追体験する“体験型授業”をご提案したいと思っています。高橋みなみさんも「みなみの考え」で話してくれていますが、実際に相談先を調べ、時には相談先の人と顔を合わせて話をすることで、それぞれの「自分に合う相談先」を見つけることができるかも!?と考えるからです。
そのツールとして、「わたしのいじめ相談チャート」という教材をご用意しました。具体的な相談先を書き込むことができるようになっていて、最終的にはオリジナルの相談チャートができあがるようになっています。
例えば「学校の先生以外の人」と言っても、子どもによってはスクールカウンセラーが話しやすい子もいれば、保健室の先生、または事務の人が話しやすいという子もいるかもしれません。「自分の学校には、どんな人がいるのか?」「自分は、どの人なら相談できそうなのか?」具体的に調べて書き込むことで多くの発見があるだけでなく、イザと言うときの“避難先”が目に見えることで、子どもたちにも安心してもらえるのでは?と思っています。
さらに、チャートには、相談先の人に「どう対応してほしいのか?」を書くところもあります。子どもの希望は、まさに十人十色。この欄でそれぞれの希望を知るだけでなく、例えば「先生と子どもが、その問いについて一緒に考える」という時間があれば、子どもが望む対応を共有できると共に、信頼関係を築くきっかけにもなるかもしれません。
相談しやすい教室、学校、地域を作る一つのきっかけとして、今回の番組&「いじめ相談チャート」を利用していただけたらと願っています。

授業で「いじめ相談チャート」を作りませんか?
子どもそれぞれの「いじめ相談チャート」が作れる教材をご用意しました。番組の視聴と共に、ぜひご活用ください!
きょうざい「わたしのいじめ相談チャート」
岩根中学校生徒会のいじめ相談チャート

■次々と出てくる「相談するまでのハードル」
さて、今回VTR取材をさせていただいた木更津市立岩根中学校の生徒会。「相談しやすい学校にするために、何かしたい!」との熱い思いを持っていて、番組でご紹介した以外にも、様々な問題意識を持っていました。ここからは、番組では紹介できなかった「あるハードル」について触れたいと思います。

「チクったと思われるのが、怖い」
「相談するためにみんなから一人抜けたり、放課後に残ったりしていると、何か思われるんじゃないかと不安になる」
「相談しているってバレたら、恥ずかしい・・・」

子どもたちが口々に語ってくれた、相談する上での「心理的なハードル」。しかし、これらには共通点がありました。それは、「周りの目が気になる」ということ。根本には、いじめの相談をすることにマイナスイメージがあると改めて感じました。このマイナスイメージを変えていくことも、番組で紹介した取り組みと同時に解消していかなければならない課題だと、子どもたちの話を聞いて痛感しました。

■「チクりは、正義だ!」で伝えたいメッセージ
では、そのマイナスイメージをどう変えていくのか。一つのヒントが、取材時に、ある先生がおっしゃっていた「“チクりは、正義だ”という言葉を広めたいと思っている」という話でした。子どもたちの中にある「チクりは、卑怯だ」という価値観を、180度ひっくり返すために敢えて作った表現だそうですが、その詳しい考え方が、岩根中学校のいじめ防止対策基本方針(※NHKサイトを離れます)に書かれていますので、以下に紹介します。

「いじめについて相談することや通報することは適切な行為であり、決して卑怯な行為ではない。いじめを受けて苦しんでいる生徒を救うだけでなく、いじめを行っている生徒をも救う行為である。」ということを学校教育活動全体を通して生徒に伝えていきます。

私が特に興味を持ったのは、いじめの相談や通報が「決して卑怯な行為ではない」。そして、「いじめを行っている生徒をも救う行為である」という部分です。例えば、街で誰かが傷つけられていたら警察などに通報するのは当然のことなのに、いじめの通報はなぜか卑怯なことだとされてしまう。まず、この価値観がおかしいとはっきりと断言していること。さらに、相談や通報が、被害者だけでなく、いじめをしている人をも、その過ちから救える行為であると書かれていることに、私は一筋の希望を感じました。この価値観が広まれば、いじめの相談・通報に対する子どもたちの受け取り方が、大きく変わっていくと思ったからです。
岩根中学校の先生は、「この考え方を、子どもたちにどう伝えるのかが課題です」とおっしゃっていました。相談や通報への価値観を変えていく取り組み、みなさんはどう思われるでしょうか?

■明日から変えられること
一方で、子どもたちからは「価値観が変わるまで待ってられないよ!」というツッコミが聞こえてきそうです(汗)そこで、周りの目を極力気にせずに相談できるようになるために、取材で見つけた、明日からでも先生(大人)にやってもらえそうなことのヒントを書かせてもらいます。

①「相談するための部屋に入りやすくしてほしい」
番組VTRでは、直接話をすることで、スクールカウンセラーや相談員に対する信頼感が子どもたちに生まれたことが分かりました。しかし、依然として、イザと言うときに相談室に入っていくのは、「友達に見られるのが怖い」との理由で強い抵抗感があるとも話してくれました。
そこで、みんなから出たのが「相談室を、日ごろから出入りできる場にしてほしい」との声でした。ちょっと息を抜きたいとき、昼寝したいとき、遊びたいときに、いろんな人が出入りできるようになれば、イザと言うときに部屋に入っても、周りを気にしなくていいというのです。それを聞いたある先生が「じゃあ、昼休みにその部屋で、生徒有志のミニコンサートとかやる?」と提案したところ、子どもたちも大賛成のようでした。

②「相談しやすい“チャンス”を作ってほしい」
もう一つのヒントは、岩根中学校ですでに行われている、スクールカウンセラーによる「全員面談」という取り組みです。これは、文字通り、スクールカウンセラーが全校生徒一人一人と顔を合わせて話をするもので、誰もが面談するので周りの目を気にする必要はありません。年に一度という少ない機会は課題だそうですが、大人が相談を待つのではなく、子どもの悩みに積極的に耳を傾けるという点において、大きなヒントになるのではと思いました。

■大人の“真剣さ”が、相談のハードルを下げる
今回の取材の終わりに、生徒会のメンバーに「取り組みを通して、相談するハードルはどうなったのか?」「そして、その理由は?」と質問させてもらいました。多くの生徒が、様々な選択肢の相談先が見つかったことや、どう対応してくれるのかが分かったことで、相談のハードルが下がったと話してくれました。そんな中、一人の男子生徒が興味深いことを言ってくれました。

「不安は少しあるけど、先生や他の人たちがあそこまで真剣に語ってくれて、自分的にはすごく(相談に)行きやすくなった」

相談体制や対応の仕方も気になるけれど、聞き取りなどをする中で、大人がいじめに真剣に取り組もうとしている姿が、何より相談のハードルを下げたと言うのです。この言葉は、私たち大人にとっても“救い”になると感じました。万全の体制や仕組みをすぐに作れなくても、とにかくまずは、子どもたちと「真剣に」考えてみる。そのこと自体が、子どもたちとの信頼を作り、イザと言うときの相談につながるかもしれない・・・。
私自身にとっても、取材を通して「真剣に」いじめについて考える大切さを、改めて考えさせてくれる言葉となりました。

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NHK「いじめをノックアウト」まで


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