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ディレクター’sメモ

初回放送日:2018年12月14日(金)

ディレクター'sメモ

■いじめに悩む友達に、「どんな言葉をかけるか?」=「どう思いやるのか?」

「いじめられてツラい・・・」そう友達から打ち明けられたら、あなたならどんな言葉を返しますか?「相手に嫌だと言おう」「負けるな」「気にするな」・・・。100%心に届く言葉などあるわけはなく、“「つらいね」などの共感言葉”も、場合によっては、表面的なコミュニケーションで終わってしまう気もします・・・。

そこで今回は、川崎市立東菅(ひがしすげ)小学校6年2組さんの協力を得て、「友達がいじめられていることを知ったとき、どんな言葉を届けたら良いのか?」を考えました。
取り組みを通して、「いじめを受けた人は何を苦痛と感じ、どんな心の状態に追い込まれているのか」を知る。そして、その人が必要としている(であろう)コミュニケーションを考えることで、「他者への思いやりを育てる」ことがねらいでした。

■“マダ友”から届いた手紙に、子どもたちは・・・。

教材としたのは、NHKいじめを考えるキャンペーンの「マダ友プロジェクト(マダ友との手紙)」。これは、まだ出会っていないけれど、これから出会うかもしれない未来の友達(マダ友)に、いじめなどの悩みをつづった手紙を出し、それを専用サイトで読んだ人が返事を書き合う、というプロジェクト。教室の外の誰かとつながり、お互いに勇気を与え・与えられるという輪を広げていくことを目指しています。
 今回は、この「マダ友プロジェクト(マダ友との手紙)」に寄せられた、「悪口を言っている子を注意したら、その子のグループから仲間外れにされた」というRNさんの手紙を選ばせてもらい、東菅小学校の皆さんに返事を書いてもらうことにしました。

手紙を初めて目にした子どもたちの反応は・・・、意外なほど冷静。受け取った直後から、どの子も真剣な眼差しで読んでいたのが印象的でした。放課後、ある子にそのワケを聞いてみると・・・、

「(RNさんの手紙の内容は)分かるなって思いました」。

文脈や言葉遣いが整った教科書と違って、同じ小学6年生が書いた“生々しい”手紙。それだけに、身近な悩みとして受け止め、「自分も同じ経験をしたことがある」と自身を重ねる子もいました。「匿名の手紙に、どこまで真剣になってくれるだろうか」という心配もあったのですが、杞憂に終わりました。匿名だけど、確かにこの世に生きている人の手紙という“手触り”を、子どもたちは感じてくれているようでした。

■思いを届けるための、丁寧なステップ

さて、授業を始めるに当たって、渡邉先生は授業計画を作成してくれました。渡邉先生にはもっと複雑な「ねらい」があるのですが、先生の了解を得て、分かりやすくまとめさせていただきました。

授業進行渡邉先生のねらい
Step1 【RNさんの手紙を読み、“違和感のある言葉”を書き出し、話し合う】
●手紙を配布。
●それぞれが声に出して読む。その時“違和感のある”“引っかかった”言葉を強調する。
●“言葉”を厚紙に書き出し、黒板に貼る。


●全員分の厚紙を見ながら、「なぜ、その言葉を選んだのか」話し合う。



←手紙の中にあるキーワードを浮かび上がらせる。
←RNさんが抱える問題点を可視化する。書き出す文字の色や大きさは自由。

←話し合うことが目的にならないように。「RNさんの悩みの根本は何か?」を探す。
他者の意見・根拠となった体験を聞き、考えの幅を広げる。
Step2 【下書きをする】
●「RNさんの背中を、本当に支えることができる手紙を書こう」と伝え、下書き。

←この時点の考えを文字にして可視化。整理する。
Step3 【全員分の下書きを読んで、話し合う】
●冊子にまとめた全員分の下書きを、「RNさんの立場になって」黙読。
●気になった言葉があれば、線を引く。

●他の人の下書きから、“気になった言葉”を厚紙に書き出す。
●厚紙を黒板に貼り出し、それを見ながら「なぜ、その言葉を選んだのか」話し合う。

←「もしも、自分がRNさんだったら・・・」という立場に置き換えることで、RNさんに届くメッセージを絞っていく。

←他者の下書きから自分にはない視点やアイデアをもらい、考えの幅を広げる。
←他者との対話で、自分の考えをより明確にしていく。
Step4 【本番の返事を書く】
●「RNさんに届ける」手紙を書く。

←言葉遣いや漢字表記まで熟考し、これまでに培った思いを表現する。

最初に案を提示されたときは、「こんなにステップを踏むの!?」と驚きましたが、授業中に渡邉先生が子どもたちに頻繁にかける言葉から、丁寧に組むステップに込められた思いを知りました。 それは・・・、

「返事を書くだけで満足して終わりたくない。」
「人間には、顔も見たことのない人を想像して、時には、その人を救えるエネルギーがある。その力を、僕たちは信用したい。今回、僕がこのプロジェクトに参加したのは、そこへの挑戦です。そこに、君たちの力を貸してほしい。」


「ホンキの思い」と、それが具体化された「授業構成」。この両輪があってこそ、子どもたちの心に響く授業ができるのだと、改めて教えられました。

■ Step1~2 たくさん出された“正論”。だけど・・・。

いざ授業がスタートすると、子どもたちは「RNさんが置かれた状況」に次々と意見を出します。

「“うちら”って言葉は、おかしい。全員が同じ考えであるわけがない。」
「“一人ひとり違っていい”と、伝えてあげたい。」
「少数派が正しいこともある。嫌われる勇気を持って、言えばいい。」


どれも、大切にしたい考え方。こういった意見が尊重されることが理想的かもしれません。しかし、番組でも紹介した通り、かつてのいじめ体験を2人の児童が語ってくれた辺りから、「“正論”だけでは、足りないのでは?」と、子どもたちの中で自問自答が始まったように感じました。 私自身も、みんなのしっかりとした意見に驚きながらも、「仲間外れの渦中にいるRNさんに、どこまで届くだろうか?」という疑問がありました。RNさんが置かれているのは、一般的な正しさが通用せず、その集団独自の“正しさ”に支配された状況でしょうから・・・。

■ Step3 「ifの視点」立場を変えて、考える

子どもたちにとって最も大きな転機になったのが、Step3の「冊子にまとめられた全員分の下書きを読む」でした。しかも、「RNさんの立場で読む」。
印象的だったのは、子どもたちが何かを発見するかのような表情で読み、気になった言葉に線を引いていたことでした。番組で紹介した男の子以外にも、「送る側」から「送られる側」に立場を変えて、クラスメートや自分の下書きを読むことで、新たな考えを得ていました。
たとえば、「気になった言葉」として選ばれていたのは・・・、

「自分自身の心を大切にして、信用できる人に相談すること」
「悪口を言われている子も、(注意の言葉を)言ってくれて、うれしいと思ってる」


広く共通していたのは、アドバイスではなく、「自分を大切にしてほしい」「自分の行動を認めてあげてほしい」というメッセージ。ある男の子は、「自分たちが、RNさんを直接助けられるわけじゃない。じゃあ、どんなメッセージをもらうとうれしいのか?を考えた」と話してくれました。それぞれが、できる限りRNさんの立場を想像し、現実的なコミュニケーションに落とし込んだ結果だと感じました。

■ 「立場を変えて考える」ができるようになるヒント!?

それにしても、なぜ東菅小学校のみんなは、すんなり「RNさんの立場になる」ことができたのか。そこには、あくまで私の取材実感ですが、2つのヒントがあると感じました。

①問いかけ
 「このクラスでは、どうだろうか?」「〇〇さんなら、どうしただろうか?」・・・、渡邉先生は、とにかく問いかけが豊富。そのため、授業中、子どもたちは考え続けなければなりません。放課後には、みんな、ぐったり・・・。それでも、ある子は帰り際に「今日の渡邉先生の授業は、“神授業”だった。めっちゃ頭使った!」と、私に話してくれました。「大変だけど、考えるのが楽しい」そんな充実感を持っているようでした。
 さらに、渡邉先生は「あなたなら、できる?もしくは、する?」という問いも、よく投げかけます。例えば「いじめを見たら、止めたいです」といった意見を、その場だけの“美しい回答”で終わらせないためです。「自分なら、本当にできるのか?」「できないなら、どうするのか?」渡邉先生の問いをきっかけに、子どもたちはリアリティのある、より具体的な考えへと深めていっていました。

②「普段から」ifの視点を持ち続ける
渡邉先生は、そもそも「もしも、〇〇だったら・・・(ifの視点)」を大切にしています。取材として、別の授業も何度か見学させていただいたのですが、まさに「普段から」子どもたちは様々な立場で物事を考えていました。それは、授業だけではありません。1学期には「修学旅行の部屋分け」でも発揮されたそうで、仲間外れでつらい思いをする子がでないよう、クラス全員の立場になって考え抜いて決めていたとのことでした。
 普段から“練習”しているからこそ、イザというときに誰かの立場で考えることができる。一朝一夕にはいかないけれど、「積み重ねれば、できるようになる!」という希望も感じることができました。

■一生懸命考えてくれたから、「いろいろな光」になった

こうして書き上げてくれた、東菅小6年2組36人の返事。番組でご紹介できたのは、ほんの一部。みんなの返事を読んでいただければ分かるように、まさに「36通り」のメッセージをくれました。
これは、一人ひとりが真剣に「自分が、RNさんだったら・・・」と考えたからこそ、紋切り型のものにならず、“個性的な”返事が寄せられたのだと思います。
 これらが、高橋さんがスタジオで語ってくれた「箱の中に射す、いろいろな光」となってくれることを願っています。

「マダ友プロジェクト(マダ友との手紙)」に参加しませんか?
今回、教材として使用した「マダ友プロジェクト(マダ友との手紙)」は、すでに多くの学校などで利用されています。

詳細・参加方法は → マダ友プロジェクト
他の先生はどう使っている?授業活用例 → http://www.nhk.or.jp/ijimezero/madatomo/jugyo_index.html

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