幼児期の終わりまでに育ってほしい姿 ~親はどう関わるか~

すくすく子育て
2019年3月9日 放送

変わりはじめた幼児教育。そのキーワードのひとつが、国から示された指針である「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」です。この変化の中で、家でできることはあるの? 親は子どもとどう関わればいいの? そんな疑問について、専門家にじっくりうかがいます。

専門家:
大豆生田啓友(玉川大学 教授/乳幼児教育学)
宮里暁美(お茶の水女子大学 教授/保育学)

幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿

幼稚園・保育園・認定こども園で、共通の目標を掲げた教育が、2018年度からはじまっています。「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」は、5歳児後半の子どもの育ちの方向性を、次の10項目で示したものです。

  • 健康な心と体
  • 自立心
  • 協同性
  • 道徳性・規範意識の芽生え
  • 社会生活との関わり
  • 思考力の芽生え
  • 自然との関わり・生命尊重
  • 数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚
  • 言葉による伝え合い
  • 豊かな感性と表現

※「10の姿」は方向性であり、到達目標ではありません。
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幼児期の終わりまでに育ってほしい姿 ~今 幼児教育が変わろうとしている

現場では「10の姿」を意識した幼児教育がはじまっている

「10の姿」は、もともと幼児教育のポイントとされていたものが、わかりやすく、まとめられたものです。幼稚園・保育園・認定こども園などの幼児教育の現場では、「10の姿」を意識して、あらためて保育をつくっていくことがはじまってきたところだと思います。
(宮里暁美さん)


幼児教育の現場では「10の姿」をどう生かしているの?

幼児教育の現場では、「10の姿」をどう取り入れているのでしょうか。ある認定こども園の年長クラスの様子を見せていただきました。

卒園を前にしたこの時期、園の先生は「10の姿」の「社会生活との関わり」をもう少し伸ばしたいと考えて、子どもたちに「まち探検」を提案しました。

はじめに訪ねたのはお米屋さんです。

子どもたちは自分たちで考えていた質問を、お店の方に聞いていきます。ここで先生が意識していたのは、「10の姿」の「思考力の芽生え」や「言葉での伝え合い」です。

続いて、金物屋さんを訪ねます。

ここでは、子どもたちがおもしろがったものを買って帰ることにしました。子どもたちは折り畳み式のもの差しに興味を持ったようです。

園に戻ると、先生は「これは、折り畳むことができるもの差しで、長さを測るものです」と、子どもたちに使い方を教えました。

すると、子どもたちはいろいろなところの長さを測って、紙に記録していきます。子どもたちの関心が「数量」へとつながったのです。

まち探検に使った地図に興味を持って、地図記号を書きはじめる子もいます。「図形や標識」への関心につながったようです。

園の先生が「まち探検」のようなきっかけを作ることで、子ども自身がおもしろいことを見つけて、興味をさまざまに広げていきました。このような活動を繰り返すことで「10の姿」が育っていくのです。


子どもの興味・関心をよく見て、より広がるように

園の先生の役割は、とても大事になります。まず、子どもたちが何に興味・関心を持っているのか、よく見ています。そして、興味・関心が広がるように、子どもたちに提案していくのです。今回の例では「まち探検」をきっかけに、子どもたちがそれぞれでおもしろいと感じたことに興味を広げ、その中に「10の姿」のいろいろな要素を見ることができました。社会生活との関わりをはじめ、数量や図形への関心など、あらゆることにつながっています。このように子どもたちの興味・関心を広げていくことは、園の先生ならではのプロの仕事だと思います。
(大豆生田啓友さん)


10の姿を育てるために、親は子どもや園とどう関わればいいの?

「10の姿」を育てるために、親はどのように子どもと関わっていけばよいのか気になります。幼稚園や保育園の先生のように関わるのは難しいと感じます。10の姿は、園の先生向けのもので、全面的に園に任せるのがよいのでしょうか。子どもとの関わり方、園との関わり方をどう考えたらいいのでしょうか?
(3歳5か月と1歳6か月の女の子をもつママより)

家庭では意識し過ぎないでいい

回答:大豆生田啓友さん

10の姿を育むために、園だからこそできる部分があります。例えば、子どもたち同士が刺激を与え合い、興味・関心を広げることなどです。ですので、家庭では10の姿を意識し過ぎる必要はありません。子どもとの関わり方で、いくつかの点に気をつけるとよいでしょう。

子どもとの関わり方で、どんな点に気をつければよいのですか?

結論を教える・無理という否定・誰かとの比較

回答:宮里暁美さん

まず、結論を教えてしまうことです。子どもは、いろいろなことをやりたがったり、不思議だと感じたりしています。大人から見ればわかりきったことでも、子どもに結論をすぐに教えるのではなく、子どもが疑問を持ち、自分でいろいろと試す時間を大事にしてください。
次に、子どもに「あなたには無理」と言ってしまうことです。例えば、子どもが「走るのが速くなったよ!」と言って、よろこんで走っている姿を見せてくれることがあります。でも、それほど速くないときもあるでしょう。そんなとき、子どもに「速く走るのは無理だよ」と言ってしまうより、「速いね!」と言ってあげたほうが、子どもはもっと走りたくなると思います。
最後に、いちばん気をつけたいポイントが、子どもを誰かと比較することです。いつも誰かと比較されている子どもは、何か自信が持てないように思えます。

その子への否定・厳しいしつけ・つらいお勉強

回答:大豆生田啓友さん

まずは、子どもの存在そのものへの否定です。それでは子どもがつらくなってしまいます。
次に、厳しいしつけです。しつけは「厳しくする」ものだと思っている方がいますが、子どもを怒ってばかりでは、むしろしつけが身につきません。子どもができたことをしっかり「褒める」ほうが、しつけになる場合が多いのです。
最後に、つらいお勉強を続けることです。つらいことが続くと、子どもが学ばなくなることがあります。子どもにとって楽しいことが、学びの出発点になると考えてみましょう。

主体的で対話的で深い学び

回答:大豆生田啓友さん

10の姿が示された法令の中で「主体的で対話的で深い学び」がうたわれています。自分から「やりたい」と思って取り組む主体性。人と関わり協力しながら対話的に物事を進めること。そして、学びの中で「わかった!」「できた!」と感じて、さらに興味を広げるような深い学び。これらのことが大事になってきます。


保護者は、園や園の先生とどう関わっていけばよいのでしょうか。ある認定こども園の様子を見せていただきました。

この園では、子どもが園でどんなことに興味を持ち、どう成長しているのか、保護者に知ってもらうための工夫をしています。

例えば、年長クラスの先生は、子どもの活動の様子をこまめに写真や動画で撮影します。毎日夕方には、写真に文章をそえた活動記録を、クラスの入り口に貼り出すのです。保護者は、この記録からいろいろなことを知ることができます。

先生も、保護者とできるだけ話をして、家での子どもの様子を知りたがっています。子どもの興味・関心が、家でのできごとをきっかけに、園で広がることもあるのです。

先生は園での様子を保護者に伝え、保護者は家庭での様子を先生に伝える。そのことで、園の先生と子どもの関係も、保護者と子どもの関係も豊かになる循環ができるのです。


園と家庭とのコミュニケーションで、子どもが安心して育つ

子ども自身が楽しかったことを、園と家庭で循環できると、園と保護者の関係もよい状態になります。例えば、家庭で楽しく経験したことが、園でのごっご遊びにつながることがあります。園で作った絵本を、家に持ち帰って続きを作るようなこともあります。こうして、園と家庭がコミュニケーションして、子どもの様子を伝え合っていると、子どもたちが安心して育つことができるのです。
(宮里暁美さん)

子どもの活動の「見える化」がはじまっている

多くの幼児教育や保育の現場では、この園のような写真を使った活動記録がはじめられています。これをドキュメンテーションやポートフォリオといいます。園で、子どもたちがどんなことを学んで、どんな活動に夢中なのかを「見える化」して、保護者に伝えようとしているのです。
(大豆生田啓友さん)


子どもの可能性・選択肢を広げるために、親としてできることは?

子どもの可能性や選択肢を、できるだけ広げてあげたいと考えています。そのために、親は何ができるのでしょうか? 家でできることなどがあれば知りたいです。
(4歳7か月の女の子と1歳10か月の男の子をもつパパより)

一緒におもしろがる・季節を感じる・のんびりする

回答:宮里暁美さん

親子で「一緒に」がキーワードだと思います。
まずは、親子で一緒におもしろがること。例えば、子どもが地図の記号が好きであれば、一緒に記号を調べたり、子どもが虫好きなら、一緒に虫探しをしたり。子どもがおもしろがっていることを、親も楽しんでみてください。
次に、一緒に季節を感じること。子育ては、子どものことに集中し過ぎると、行き詰まることもあります。そんなとき、自然や季節の変化に触れると、親子で一緒に、同じ立場で、心を動かすことができます。「雪が降っているね」「月がきれいだね」のように、一緒に季節を感じてみましょう。
最後に、家庭でのんびりすること。親が家でのんびりしていると、子どもは話しかけやすいと思います。のんびりすることが、子どもとの対話につながることもあるのです。

ふだんの生活を大事に・親子で楽しむ趣味・絵本の読み聞かせ

回答:大豆生田啓友さん

親は、子どもの可能性を広げるためには、何かをさせないといけないと考えがちです。でも、ふだんの生活の中にも大事なことはたくさんあります。例えば、お手伝いや、だっこのようなスキンシップなどです。
親子で楽しむ趣味を持つのもよいでしょう。このとき、親が好きなこと、子どもが好きなこと、それぞれ主体性を生かすようにします。例えば、子どもが好きではじめたことでも、もう一歩深くやりたいときに、大人の趣味を生かすのもいいでしょう。
最後に、絵本の読み聞かせです。親子のいい時間にもなり、いろいろな題材の絵本が子どもの興味や関心のきっかけになります。例えば、虫の絵本をきっかけに、親子で虫探しに出かけることもあるでしょう。

子どもにいろいろな経験をさせてあげたくても、子どもが興味を持たないときはどうしたらいいでしょう?

子どもが楽しいと思うところからはじめる

回答:大豆生田啓友さん

子どもにとって無理がないことが大事です。子どもが楽しいと思うところからはじめましょう。例えば、子どもを海に連れて行ったとき、はじめから水に入れる必要はありません。子どもが砂に興味を示していれば、砂遊びからはじめればよいと思います。


幼稚園から家に帰るとわがままになる。どうしたらいい?

長男が、幼稚園から帰ってくるとわがままになります。「あれも嫌、これも嫌」と言って、いろいろな要求をしてきます。どこまで子どものわがままを聞いていいのか悩んでいます。
(4歳11か月の男の子と1歳10か月の女の子をもつママより)

甘えるやりとりで交渉力も身についていく

回答:宮里暁美さん

子どものわがままは、親に甘えたい気持ちの表れだと思います。
例えば、子どもが甘えてくるとき、何回も「だっこをして」とねだってくることがあります。だっこしておろした後も、「もう1回だっこ」とねだってくる。実は、そのやりとりの中で、子どもは交渉力を身につけていきます。
子どもたちの中には、「わがままはこのぐらいでやめておこう」と言える子がいます。おそらく、親に甘える中で、「いい加減にしなさい」と言われたり、「もう1回おまけだよ」と言われたり、そのようなやりとりを楽しんでいるのかもしれません。

甘えを受け止めてもらえることが、外での頑張る力になる

回答:大豆生田啓友さん

子どもにとって園は「社会」です。その場所で、ときには自分にとって難しいことを、どう乗り越えようかと葛藤しています。家に帰ってくるころには、とても疲れているはずです。そして、家がほっとできる場所だからこそ、甘えが出てくるのです。そこで甘えを受け止めてもらえることが、外での頑張る力になります。

親の気持ちをちゃんと伝えることも必要

回答:大豆生田啓友さん

子どものわがままに、親が付き合いきれないこともあります。そんなときは、親の「嫌だと思う気持ち」を、子どもに伝えることも必要です。「わがままで、人が嫌な気持ちになることもある」と、子どもが知ることも大事なことです。


パパ・ママへのメッセージ

「主体的」は「その子らしさ」でもある

これからの幼児教育を話す中で「主体的」という言葉が何度も出てきました。「主体的」は「その子らしさ」と言い換えることもできます。子どもたちそれぞれのペースや興味・関心など、その子らしさが大事にされていく中で、人は自分の世界を広げていくことができると思います。
(大豆生田啓友さん)

子どもの気持ちになって「感じる」

不思議だと考えたり、おもしろいと思ったり、美しいと感動したり。そのように何かを「感じる」ことが人間にとって本当にいいものだと思います。その感性が育つのが、幼児期だと思います。親も子どもの気持ちになって、子どもと一緒にいろいろなことを「感じる」ことを味わえるとよいですね。
(宮里暁美さん)

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです