ホーム 研究内容 ニュース 刊行物 アクセス

研究内容紹介

6.3 次世代表示技術

フレキシブル有機ELディスプレーの長寿命化・高色純度化

 フレキシブル有機ELディスプレーの実現に向けては、有機ELデバイス(Organic Light-Emitting Diode:OLED)の電子注入層に用いられるアルカリ金属等の活性な材料が水分や酸素に弱く、プラスチックフィルムなどのフレキシブル基板を使用する際の寿命が最大の課題となっている。そこで当所では、アルカリ金属等を使わず、酸素・水分に強いOLED(逆構造OLED)の開発に取り組んでいる。2017年度は、フレキシブルOLEDの長寿命化を目指し、逆構造OLEDの低温作製技術の開発を進めた。これまでの逆構造OLEDでは、電子注入層として400℃の高温熱処理が必要な酸化亜鉛を用いており、耐熱性が十分でない汎用のプラスチック基板への適用が困難であった。今回、電子注入層に120℃で低温形成可能なスズ化合物を混合した酸化亜鉛ナノ粒子を用いることで、輝度半減寿命が1万時間以上の実用的な逆構造OLEDを実現し、フィルム基板へ適用できる見通しを得た(1)
 OLEDの発光層として、リン光材料を用いることで高い発光効率が得られることは知られていたが、一方で長寿命化のための材料設計指針は系統的に理解されていなかった。今回、発光に寄与する電荷輸送の担い手である発光層ホスト材料に、類似の分子構造を持つ熱活性化遅延蛍光材料を使い、その寿命特性を比較・解析することにより、長寿命化に適したホスト材料の設計指針を探索した。その結果、分子サイズの小さい熱活性化遅延蛍光材料を用いることで、長寿命なデバイスを実現できることが分かった(2)
 また、有機ELディスプレーでスーパーハイビジョンの広い色再現範囲を実現するためには、省電力で高色純度な緑色OLEDの開発が求められる。今回、発光材料として網目状に広がった剛直な分子構造を持つ白金錯体を用い、上部電極から光を取り出すトップエミッション構造を採用することで、色純度をx-y色度座標(0.18, 0.74)まで改善した緑色OLEDを実現した(3)(図6-8)。



図6-8 開発した有機ELデバイスの色度図とスペクトル図

有機ELディスプレーの高画質・低消費電力駆動技術

 シート型ディスプレーの高画質・低消費電力化を目指して、高移動度酸化物TFTの性能向上や駆動・信号処理技術の研究開発を進めている。2017年度は、酸化物TFTの短チャネル化技術を開発した。TFT用の酸化物半導体にはIGTO(In-Ga-Sn-O)を使用し、水素注入処理を施すことによりTFTのチャネルの一部が導体化することを見いだした。この現象を利用することでTFTの短チャネル化を実現した(4)。本手法によりチャネル長は最小で1.4µmまで短縮できること確認した。この短チャネル化技術の開発は、株式会社神戸製鋼所と共同で実施した。
 有機ELディスプレーの画質向上を目指した信号処理技術として、HDR表示時の駆動電力・表示輝度の制御手法を新たに検討し、シミュレーションによる効果の検証を進めた。平均輝度が高いHDR映像を有機ELディスプレーで表示する場合、従来技術では、電力制限のために信号レベルに対して一律に輝度を抑制するため、暗部の階調が劣化する課題があった。今回、暗部・明部の階調表現を維持しながら駆動電力を抑制する手法を考案し、評価画像で有効性を確認した(5)


大画面フレキシブルディスプレーを目指した塗布型デバイス

 将来の薄くて軽く、柔軟で丸めることができる大画面のフレキシブルディスプレー実現を目指して、パネル製造に大規模な真空装置が不要な塗布型プロセスにより作製できる酸化物TFT、および量子ドット(Quantum Dot:QD)を用いた電界発光素子(QD-LED)の研究開発を進めている。
 塗布型酸化物TFTでは、溶液プロセスの利点を生かし、より簡便にTFTを作製する手法を開発した。従来、微細なTFTの作製には、フォトリソグラフィーといった感光性有機材料を組み合わせた複雑な手法が用いられてきた。今回、直接的な光反応で酸化物半導体をパターン化する手法を開発し、作製プロセスを簡略化することに成功した。作製したTFTは、従来の手法と同等のデバイス性能を示した(6)。本成果は、安価な大画面ディスプレーの実現に有効な手法と考えられる。
 QD-LEDは、数ナノ〜十数ナノメートル程度の半導体微粒子を用いた発光デバイスであり、粒子サイズの制御により発光スペクトルの波長や半値幅を制御できる特徴を有する。2017年度は、低毒性量子ドット材料である硫化亜鉛―硫化銀インジウム固溶体(ZAIS)を用いたQD-LEDの試作に取り組んだ。ZAIS量子ドットは、粒径に加え元素組成比を制御することで発光波長を変化させることができる。赤色発光のZAIS量子ドットを用いたQD-LEDでは,発光開始電圧2.4Vで外部量子効率1.9%を実現した(7)。ZAISを用いたQD-LEDの研究は、名古屋大学、大阪大学と共同で実施した。


 

〔参考文献〕
(1) T. Sasaki, H. Fukagawa, T. Shimizu, Y. Fujisaki and T. Yamamoto:“Improved operational stability of inverted organic light-emitting diodes using Sn-doped zinc oxide nanoparticles as an electron injection layer,” Proceedings of the EuroDisplay 2017.
(2) H. Fukagawa, T. Shimizu, Y. Iwasaki and T. Yamamoto:“Operational lifetimes of organic light-emitting diodes dminated by Forster resonance energy transfer,” Scientific Reports, DOI:10.1038/s41598-017-02033-3(2017)
(3) T. Oono, Y. Iwasaki, T. Hatakeyama, T. Shimizu and H. Fukagawa:“Demonstration of Efficient Green OLEDs with High Color Purity,” SID Digest, pp.853-856(2017)
(4) M. Nakata, M. Ochi, H. Tsuji, T. Takei, M. Miyakawa, Y. Fujisaki, H. Goto, T. Kugimiya and T. Yamamoto:“Fabrication of a Short-Channel Oxide TFT Utilizing the Resistance-Reduction Phenomenon in In-Ga-Sn-O,” SID 2017 Digest, pp.1227-1230(2017)
(5) T. Yamamoto, T. Okada, T. Usui and Y. Fujisaki:“Picture Level Control Method for Super Large-Area Display,” IDW’17 VHF6-1, pp.1028-1031(2017)
(6) M. Miyakawa, M. Nakata, H. Tsuji and Y. Fujisaki:“Direct Photoreactive Patterning Method for Fabricating Aqueous Solution-Processed IGZO TFTs,” IDW’17 AMD3-2, pp.336-339(2017)
(7) 本村,都築,亀山,鳥本,上松,桑畑,山本:“ZnS-AgInS2を用いた低毒性量子ドットEL素子の作製,” 映情学年次大,32C-1(2017)