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研究内容紹介

6.2 次世代記録技術

多値記録ホログラムメモリー

 8K映像の長期保存には、超大容量・高転送速度のアーカイブ用記録システムの実現が求められている。この要求に応える記録技術として、ホログラムメモリーの研究開発を進めている。2017年度は、多値記録を実現するための要素技術として、機械学習に基づく再生データの復号技術と、誤り訂正符号技術の開発を進めるとともに、多値数4に適した変調方式として、振幅変調による多値記録再生技術の開発に取り組んだ。
 ホログラムメモリーでは、暗点と明点からなるシンボル画素を2次元に配列したページデータを、レーザー光により記録再生する。ページデータが一種の画像であることに着目し、畳み込みニューラルネットワークによる復号技術を開発した(図6-6)。変調方式の規則とともにレンズ収差などの光学系の誤り要因を事前に機械学習させることで、再生データのビット誤りを低減する(1)。これにより、従来の2値変調方式のデータを閾値で判定した場合に対して、60%のビット誤りの低減を確認した。
 多値数4の誤り訂正符号では、2値の場合と比べ高い訂正能力が必要となることから、多値ホログラムメモリーに特化した空間結合LDPC(低密度検査行列)符号を開発した(2)。本符号の性能をシミュレーションにより検証し、訂正前のページデータのビット誤り率が1.3×10−2以下であれば誤り訂正可能であることを確認した。
 多値数4のページデータを作成する技術として、9シンボルのうち3シンボルに3種の輝度レベルの明点を割り当てる10:9変調符号を開発した。3シンボルのいずれかに基準輝点を設ける本方式では、媒体への記録再生時に生じる輝度むらに対して高い耐性を有する特徴がある。この方式を用いてホログラムメモリー光学系により記録再生したところ、空間結合LDPC符号により訂正可能なビット誤り率で再生できることを確認した。



図6-6 畳み込みニューラルネットワークによる復号

微小磁区高速記録デバイス

 可動部がなく高い信頼性が期待できる高速磁気記録デバイスの実現を目指して、磁性細線中の微小磁区の高速移動特性を利用した記録デバイスの開発を進めている。2017年度は記録した磁区をさらに高速駆動する要素技術の開発を進めた。
 2016年度までに、磁区の高速駆動が可能なデバイスとして、コバルト(Co)/パラジウム(Pd)多層膜の中間にルテニウム(Ru)極薄層を挿入して高速駆動の妨げとなる磁化を低減する人工格子構造を採用し、磁区の駆動速度1m/sを実現した。2017年度は、さらなる高速化に向けた新たな材料として、コバルト/テルビウム(Tb)多層膜の作製・評価に着手した(3)。テルビウムは、コバルトと逆方向に弱く磁化される性質があり、これらを積層化した多層膜では正味の磁化がコバルトとテルビウムの磁化の差となり、磁化のさらなる低減が可能となる。さらにこのコバルト/テルビウム多層膜に白金(Pt)薄膜を積層した磁性細線構造において、白金に起因するスピンホール効果を利用(図6-7(a))することにより、磁区駆動速度を大幅に向上できることを見いだした。特にPt(3nm)/[Co(0.3nm)/Tb(0.6nm)]5周期の構造の磁性細線において、昨年の10倍以上となる15m/sを達成した。
 あわせて、微小磁区の高速駆動に向けた要素技術として、磁性細線中の磁区を形成・検出するために使用する磁気ヘッドの信号処理系の広帯域化を進めた。磁区を高速駆動する場合、これまでの直流アンプではその磁化方向変化を追従検出することが困難であった。そこで新たにハードディスク用ヘッドプリアンプを磁気ヘッドの入出力部に直列接続し、記録時の電流磁界の精密制御と、約1.6GHzまでの高周波信号を低ノイズで捉える性能とを兼ね備えた記録・再生評価部を試作した。また、磁気光学カー効果顕微鏡を用いて駆動中の磁区移動の様子をリアルタイムに検出できる評価装置を開発し、駆動磁区の形状評価を可能にするとともに(図6-7(b))、駆動速度の評価を進めた。
 磁性細線中の磁区駆動のさらなる高速化に向け、磁性体中の磁化の動的過程を表すLLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式を用いたシミュレーションにより磁界印加による磁区駆動アシスト効果を調査した。その結果、パルス電流印加と同時に磁性細線の面内方向の成分のみを持つ局所静磁界を磁壁近傍へ印加することで、従来のパルス電流のみの駆動方法に比べて、約2倍の速度で駆動できることを明らかにした(4)



図6-7 (a)スピンホール効果による磁区駆動アシストのイメージ図と(b)試作した磁性細線における磁区駆動の様子

 

〔参考文献〕
(1) Y. Katano, T. Muroi, N. Kinoshita and N. Ishii:“Image Recognition Demodulation Using Convolutional Neural Network for Holographic Data Storage,” Tech. Dig. ISOM’17, Tu-G-04, pp.35-36(2017)
(2) N. Ishii, Y. Katano, T. Muroi and N. Kinoshita:“Spatially coupled low-density parity-check error correction for holographic data storage,” Jpn. J. Appl. Phys., 56,pp.09NA03-1-09NA03-4(2017)
(3) M. Okuda, M. Kawana, Y. Miyamoto and N. Ishii:“Precise Control of Current Driven Domain Wall Motion by Diphasic Current Pulses,” MMM 2017, EC-08, pp.449-450(2017)
(4) M. Kawana, M. Okuda, Y. Miyamoto and N. Ishii:“Estimation on current-driven domain wall motion in magnetic nanowire by use of magnetic field assist,” TMRC 2017, DP-11, pp.175-176(2017)