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研究内容紹介

6.2 記録技術

多値記録ホログラムメモリーの研究

 8K映像を長期保存するための超大容量・高転送速度のアーカイブ用記録システムが求められている。この要求に応える記録技術として、多値記録によるホログラムメモリーの研究開発を進めている。2018年度は、多値数4の振幅多値記録に有効なクロストーク低減手法と、機械学習に基づく再生データの復調技術に取り組んだ。
 振幅4値記録のホログラムメモリーでは、4種類の輝度を持つシンボル画素が二次元に配列したページデータをレーザー光により記録再生する。ページデータを再生する際、ノイズが原因で記録時と異なるシンボル画素の輝度値になると、再生情報に誤りが生じる。特に大きなノイズ要因はシンボル画素間の光の漏れ込み(クロストーク)である。そこでシンボル画素を小さくし、かつシンボル画素間に黒のシンボル画素を挿入(見かけ上の開口率を小さく)することでクロストークの低減を試みた(図6-7)。提案手法で構成したページデータを用いて記録再生実験をしたところ、再生信号の誤り率を完全に訂正可能な値にまで低減できることを確認した(1)
 再生データの復調技術については、これまでに、畳み込みニューラルネットワークによる復調方式を開発し、2値記録での有用性を確認した。2018年度は、本方式を振幅4値記録へ適用することを目指して、数値シミュレーションにより検討を行った。その結果、変調ブロックを構成する3×3シンボル画素を畳み込みニューラルネットワークで復調したところ、従来の硬判定(一つの閾値で0,1の判定を行う)と比べて復調誤りが1/4になることを確認できた。また、周辺部からのノイズの影響を勘案し、変調ブロックを5×5シンボル画素へと大きくして冗長度を増やすことにより、さらに硬判定から約1/10まで復調誤りを抑制できることを確認した(2)
 また、2015年度に試作したホログラムメモリープロトタイプドライブを用いて、多重露光による振幅多値記録の基礎実験を進めた。
 この研究の一部は、(株)日立エルジーデータストレージと共同で実施した。



図6-7 シンボル画素間クロストークを低減するためのページ構成

微小磁区並列デバイスの研究

 可動部がなく高い信頼性が期待できる高速磁気記録デバイスの実現を目指して、磁性細線中に微小磁区を形成しその高速移動特性を利用した、微小磁区記録デバイスの研究開発を進めている。2018年度は磁区を正確に形成するため、記録素子を磁性細線上に一体化形成するプロセス技術を開発した。また磁区形成に必要な電流を削減できる新しい記録手法の検討を進めた。
 記録素子を磁性細線上に一体化形成するには、基板上に、位置合わせマーカー層(①)、磁性細線層(②)、層間絶縁層(③)、記録素子層(④)、電極層(⑤)の5層構造にする必要がある。デバイスの試作には、各層を位置ずれなくパターン形成し、薄膜堆積および不要部の剥離を繰り返して積層する方法を採用した。このうち、比較的大きな構造である①、③、および⑤は大面積を均一に露光できるレーザー描画装置で、極微細なパターンである②、および④は電子線描画装置を利用して形成した。各層は交互に両装置を利用して形成されるため、独自の位置合わせマーカーを使用し、磁性細線および記録素子の位置ずれを40nm以下に抑制した。
 磁性体中の磁化の動的過程を表すLLG (Landau–Lifshitz–Gilbert)方程式を用いて記録素子に流す電流による磁区形成過程をシミュレーションにより解析した。その結果、記録素子として導線1本に電流を流すことで発生する磁界により磁区を記録した場合、生成される磁区のエッジの極性のふらつきが大きく、安定しないことが分かった。この課題を解決するため、記録素子を2本並列に並べて逆方向に電流を流すことで生成される急激な磁場変化を利用した記録手法を考案した(図6-8)(3)。これにより、高速かつ安定な磁区の記録と、記録素子1本あたりの電流密度を半減する見込みを得た。



図6-8 記録素子1本もしくは2本の場合に形成される磁区の違い

トポロジカル表面状態を用いるスピン軌道トルク磁気メモリの創製

 国立研究開発法人 科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業「トポロジカル材料科学に基づく革新的機能を有する材料・デバイスの創出」において、トポロジカル絶縁体の磁気メモリーへの適用に関する研究を、東京工業大学、東京大学と共同で受託した。トポロジカル絶縁体は、内部は絶縁体であるものの、表面にはスピンの揃った電流が流れ、強いスピントルク(回転させる力)を発生できる新材料である。トポロジカル絶縁体の一つである特別な結晶方位のビスマスアンチモン(BiSb)を磁性細線に接合することにより、磁性細線の磁区駆動に必要な電力を1/100程度に大幅に改善できることが期待される。2018年度は、このビスマスアンチモンと磁性材料を良好に接合する手法について調査を行った。

 

〔参考文献〕
(1) T. Muroi, Y. Katano, N. Kinoshita and N. Ishii: “Superimposed Spatial Guard Interval on Data Page for Reducing Inter-Symbol Interference in Amplitude Multi-Level Recording Holographic Memory,” Tech. Dig. ISOM ’18, Mo-C-03, 2018, pp.13-14 (2018).
(2) Y. Katano, T. Muroi, N. Kinoshita and N. Ishii:“Demodulation of Multi-Level Data using Convolutional Neural Network in Holographic Data Storage,”2018 International Conference on Digital Image Computing: Techniques and Applications (DICTA), IEEE Xplore, pp.728-729 (2018).
(3) 川那ほか: “局所磁界アシストによる磁壁電流駆動シミュレーション,” 日本磁気学会第42回学術講演会講演予稿集, 11pPS-30, p.58(2018).