安全で信頼できる放送・通信連携サービスの高度化を目指し、確実なサービス提供に利用できる暗号・セキュリティー技術の研究を進めた。
■クラウド活用のための暗号アルゴリズム
視聴者の嗜好に応じた個別のサービスを行うためには、視聴者の情報を事業者に送る必要がある。さらに、視聴者が予期しない新しいサービスに出会うためには、より多くの事業者に情報を提供する必要がある。このとき、視聴者の情報をクラウドサーバー上に保管し、さまざまな事業者が情報にアクセスできれば効率的であるが、視聴者の個人情報を保護するため、情報を閲覧できる事業者を制限することが求められる。そこで、事業者の属性に応じて情報の閲覧権限を指定することができる属性ベース暗号の研究を進めた。視聴者端末で行う暗号化処理の負荷を抑えるために、処理を分割しクラウドサーバーが一端を担うことができる暗号方式を開発した(1)(2)(3)。さらに、事業者が閲覧できるデータを必要なデータだけに絞り込むため、暗号化したまま検索することが可能な暗号方式を開発した(4)。
また、2015年度までに開発した属性ベース暗号を有料放送サービスに利用する時に、視聴者が自宅外でも有料放送を視聴できるアクセス制御方式を開発した(5)。
■暗号アルゴリズムの軽量化
さまざまなIoT(Internet of Things)機器がインターネットに接続される際に、安全で確実な情報伝達ができる共通鍵暗号の研究を進めた。処理性能の低いCPUしか持たない機器からの情報であっても安全に秘匿するため、軽量な共通鍵暗号を開発した。
■不正利用者追跡暗号技術
受信機に装備される暗号用の復号鍵の不正コピーを防ぐ対策として、不正コピーされた復号鍵を特定できる暗号の研究を進めた。使われた復号鍵を特定するためには、各受信機で異なる復号鍵を持ち、復号鍵に対応する海賊版受信機をテストしてその鍵を割り出す必要があるが、海賊版受信機にテストの実施が検知されると、受信機の動作を止めてテストを妨害することが可能になってしまう。この対策として、実サービスとテストが区別できないようなコンテンツ配信方法を提案した(6)。
■サイバーセキュリティー強化に関する調査研究
放送局におけるサイバーセキュリティーに関する調査研究を開始した。サイバー攻撃技術の事例調査を通じて、放送局に対するサイバー攻撃のリスクを分析した。また、国内外の放送業界におけるサイバーセキュリティーの動向を調査した。
〔参考文献〕 | |
(1) | N. Attrapadung, G. Hanaoka, K. Ogawa, G. Ohtake, H. Watanabe, and S. Yamada: “Attribute-Based Encryption for Range Attributes,” SCN2016, pp.42-61 (2016). |
(2) | 大竹,R. Safavi-Naini, and L. Zhang, “委託可能な属性ベース暗号の実装評価,” 電子情報通信学会ISEC研究会,Vol.116, No.129, ISEC2016-30, pp.129-136 (2016). |
(3) | G. Ohtake, R. Safavi-Naini, and L. Zhang, “Outsourcing Scheme of ABE Encryption Secure against Malicious Adversary,” ICISSP2017, pp.71-82 (2017). |
(4) | 大竹,R. Safavi-Naini, and L. Zhang, “検証可能な属性ベース検索可能暗号の効率化に関する検討,” 電子情報通信学会ISEC研究会, Vol.116, No.505, ISEC 2016-119, pp.195-202 (2017). |
(5) | 小川,田村,花岡: “関数型暗号を使って放送を便利にしよう,” Symposium on Cryptography and Information Security (SCIS) 2017, 4F2-3 (2017). |
(6) | K. Ogawa, G. Hanaoka, and H. Imai, “How to Make Traitor Tracing Schemes Secure against a Content Comparison Attack in Actual Services,” IEICE Trans. Fundamentals, Vol.E100-A, No.1, pp34-49 (2017). |