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研究内容紹介

3.1 コンテンツ提供基盤

 インターネットを活用して放送サービスをより身近で便利にする技術の研究を進めている。2017年度は、配信経路の違いや視聴端末の種類を意識せずにいつでも簡単にコンテンツを視聴できるようにするメディア統合プラットフォームの研究において、複数のメディアや事業者を想定したサービス設計などを進めた。また、IP配信における多様な視聴形態の実現と高レスポンス化の研究を実施した。さらに、2018年12月に開始される新4K8K衛星放送に向け、マルチメディアコンテンツの交換方式の策定など国内外の標準化に寄与した。


メディア統合プラットフォームの研究

 放送だけでなく、インターネット上のさまざまなメディアでテレビ番組が配信され、テレビ受信機以外のスマートフォンやタブレットなど各種端末での視聴が増加している。番組視聴方法の多様化が進む中で、ユーザーの状況に合った適切なメディアを自動選択して番組視聴を可能とするメディア統合プラットフォームの研究を進めている。
 メディア統合プラットフォームは、各メディアでの番組配信状況を把握管理するサーバーと、端末側で適切なメディアを自動選択するメディア統合エンジンから構成される。これまで試作・検証を進めてきたメディア統合エンジンと、その動作に必要となるソフトウエアコンポーネントを、携帯事業者と連携して市販のスマートフォンに試験的に実装し、家庭や屋外など、さまざまな状況に応じて適切な手段で番組を選択・視聴できる様子を技研公開2017で展示した(図3-1)。
 また、家庭内の視聴環境に合わせて、番組録画装置との連携や、スマートフォンからテレビでの視聴への円滑な移行が、メディア統合プラットフォームで実現可能なことを示した。
 実際の生活環境における放送とインターネットの受信品質を把握するため、携帯型の放送・通信受信状況測定端末を開発し、電車やバス、徒歩など、生活環境において測定実験を行った(1)。その結果を、グローバルプラットフォームに関するITU-RレポートBT. 2400に、配信モデルとともに反映した。
 2017年度は、メディア統合プラットフォームの各機能要素について、設計とその機能検証を進めた。まず、配信メディアによらずコンテンツを指定できるリンクの記述法とその生成手法を提案した。コンテンツが、放送とネット同時配信とVODで配信される実験環境を構築し、提案するリンクの生成・解決モデルの検証を行った(2)
 また、受信端末の要求に応じて番組の配信情報を提供する番組配信状況管理サーバーに関し、目的や対象が異なる複数のサーバーが連携して動作するモデルで実験システムを試作し、検証を行った(図3-2)。このモデルでは、全てのユーザーに共通な番組情報を処理するパブリックサーバー、番組録画機器などユーザーごとに異なる番組の情報を処理するプライベートサーバー、ショッピングモールや避難所など視聴できるエリアが限定される番組の情報を処理するアドホックサーバーを組み合わせることにより、ユーザーの生活スタイルや利用状況に応じた適切なコンテンツ視聴を実現する(3)
 さらに、番組配信状況管理サーバーについて、より現実的なサービス形態を考慮し、それぞれの番組を配信する事業者の番組配信情報を参照して配信状況を生成・応答するシステムのモデル検討と試作を行った(図3-3)。パブリック管理サーバーにゲートウェイ機能および同一コンテンツ特定機能を設けることにより、受信端末の要求に応じて複数の事業者サーバーから配信情報が取得可能であることを示した(4)
 メディア統合プラットフォームの有効性を確認するため、一般ユーザーによる評価実験を2017年12月に実施した。まず、1,000名によるウェブアンケートを実施し、視聴している動画のジャンル、利用機器、視聴メディア、動画情報の他者との共有方法を調査・把握した。その結果を基に、試作システムを使って被験者50名による評価実験を実施し、番組を選択・視聴するまでの所要時間の大幅な減少や、メディア統合プラットフォームに対する高い利用要望を確認することができた。



図3-1 メディア統合プラットフォームの実機実装例


図3-2 複数サーバーの連携モデル例


図3-3 複数事業者サーバーでの番組解決モデル例

多視点ストリーミング技術

 新たなユーザー体験の提供に向けた動画配信技術として、多視点ロボットカメラの映像をネット配信し、PCやスマホのウェブブラウザーでスムーズに視点を切り替えながら視聴できる、多視点ストリーミング技術を開発した。各視点の高画質なカメラ映像に加え、全視点の映像をサムネイルとして1画面に収めた視点選択操作用の映像をMPEG-DASH(MPEG Dynamic Adaptive Streaming over HTTP)形式で配信し、視聴者の操作に応じて、2種類の映像を切り替えて使用することで、効率的な配信とスムーズな視点の切り替えを可能とした。
 また、複数カメラ映像のライブストリーミングを行う配信システムと、ウェブ標準技術のJavaScript、CSSにより実装した視聴アプリケーションによる実験システムを試作し、PCやスマホのウェブブラウザー上のタッチ操作に合わせてスムーズに視点を切り替えられることを確認した(5)。技研公開2017では、9台の多視点ロボットカメラ映像で動作する試作システムを展示した(図3-4)。



図3-4 多視点ストリーミングの視聴画面(画面のスワイプによって視点を切り替え)

サーバーサイドレンダリング技術

 高度な映像処理が必要な360度映像などのコンテンツを、テレビのようにCPUやメモリーに制限がある端末でも視聴できる、サーバーサイドレンダリング技術を開発した。
 テレビのリモコン操作情報をクラウド上のサーバーに送信し、操作情報に応じてサーバー上で描画処理した映像をWebRTC(Web Real-Time Communication)技術によって低遅延でテレビに伝送することで、コンテンツのインタラクティブなテレビ視聴を可能とした。
 本技術の実験システムを試作し、リモコン操作からテレビ上で応答が確認できるまでの時間を計測した結果、描画映像の解像度等を調整することで、0.1秒以下の応答時間を実現できることを確認した(6)。技研公開2017では、360度カメラを用いた試作システムを展示した(図3-5)。



図3-5 サーバーサイドレンダリング技術による360度映像のテレビ視聴

動画配信の伝送レート制御技術

 視聴端末のアクセス数が増加しても、安定した品質でライブ動画配信を継続するための技術として、配信サーバーの混雑状況に応じて動画の伝送レートをきめ細かく制御する技術の開発を進めた。2017年度は、2016年度までに開発した伝送レート制御技術をライブ映像入力に対応させた。本方式を実装した配信システムをクラウドサーバー環境で試作し、インターネットを介してライブ映像を試作システムへ入力して動作検証を行った。その結果、視聴端末数が増加して配信サーバーに混雑が生じる状況においても、本方式を適用しない場合に比べ、画質変動を抑制し安定した品質で視聴できることを確認した(7)


テレビ向け動画配信普及に向けた取り組み

 ハイブリッドキャストをはじめ、テレビ向け動画配信の普及に向けた取り組みを進めた(8)。2016年度までに、技研で開発した動画視聴プレーヤーを(一社)IPTVフォーラムのMPEG-DASH相互運用性検討会に提供し、「dashNX」という名称で同検討会会員向けに公開を開始した。
 2017年度は、本プレーヤーが総務省の実証事業等による多数の放送事業者の4K配信実験や、大規模商用サービスで活用されるなど、実用化の実績を挙げた。
 また、IPTVフォーラムのVOD運用規定に則した機能のテレビ受信機への確実な実装と動作の共通化を図るため、同規定への適合性を判定する動作検証環境を整備し、同フォーラム内で公開した。


SHVマルチメディア放送と放送通信連携システムの標準化活動

 2018年12月1日に本放送が開始される新4K8K衛星放送に向け、マルチメディアコンテンツ交換方式や文字符号化方式における異体字セレクタに関して、ARIB規格の策定・改定に寄与した。また、放送通信連携システムに関するITU-RレポートBT. 2267の改定に対して、セカンドスクリーンのユースケースと端末連携動作に関する追記に寄与した。
 ABU技術委員会において、デジタルテレビにおける字幕の要求条件勧告の策定を推進するとともに、放送におけるマルチメディア方式、CAS方式、セキュリティーに関する内外最新動向について報告し、日本の放送方式とハイブリッドキャストの認知度向上を図った。


 

〔参考文献〕
(1) H. Endo, S. Taguchi, K. Matsumura, K. Fujisawa and K. Kai:“Broadcast and Broadband Reception Quality Field Experiment to Validate the Effectiveness of Media-Unifying Platform,” IEEE BMSB, 8C-1(2017)
(2) 田口,遠藤,竹内,藤澤,加井:“メディア統合プラットフォームにおけるリンク生成手法・記述法の検討,” 映情学年次,11C-4(2017)
(3) 遠藤,田口,竹内,藤澤,加井:“メディア統合型配信状況管理システムの提案,” 映情学年次,15C-2(2017)
(4) 田口,遠藤,竹内,藤澤,加井:“メディア統合型配信状況管理システムにおける複数事業者サーバ連携モデル,” 映情学冬大,15C-4(2017)
(5) 関口,池谷,黒住,西村:“MPEG-DASHを用いた多視点映像ストリーミング方式の検討,” 映情学年大,22D-1(2017)
(6) 大西,藤澤,松村:“WebRTCを用いた放送連動サーバサイドレンダリングの試作,” 信学ソ大,B-6-8(2017)
(7) 黒住,田中,西村,山本:“配信サーバの混雑状況に応じたビットレート制御によるライブ動画配信システムの動作検証,” 映情学年大,12C-3(2017)
(8) 西村:“テレビ向けネット動画配信を支える技術〜MPEG-DASHとMSE/EME〜,” 映情学会誌,Vol. 71, No. 6, 2017, pp.792-796(2017)