ホーム 研究内容 ニュース 刊行物 アクセス

研究内容紹介

1.9 地上放送伝送技術

 地上波によるSHV放送の実現に向け、次世代地上放送方式、大規模実験環境の構築、チャンネルプランおよび次世代のSFN(Single Frequency Network)技術などに関する研究開発を進めた。これらの研究の一部は、総務省の委託研究「地上テレビジョン放送の高度化技術に関する研究開発」および「高度化方式に対応したSFN方式による中継技術に関する研究開発」として、ソニー(株)、パナソニック(株)、東京理科大学、(株)NHKアイテックとともに受託し、連携して実施した。


次世代地上放送方式

 次世代地上放送の暫定的な仕様(暫定仕様)について、詳細設計や性能改善を進めた。2017年度は、LDPC符号の設計、階層伝送方式の検討、TMCC(Transmission and Multiplexing Configuration and Control)伝送方式の見直し等を行い、計算機シミュレーションにより伝送特性を評価した。
 LDPC符号については、暫定仕様のために2016年度に設計した符号長69,120ビット(Long符号)の符号の一部を再設計するとともに、符号長17,280ビット(Short符号)の符号を新規に設計した。符号化率が低い符号にはそれに適した構造(MET:Multi Edge Type)を用いた結果、Long符号・Short符号ともに全ての符号化率(2/16〜14/16)の符号についてATSC3.0と同等以上の性能であることを確認した(図1-12)。
 階層伝送方式については、伝送耐性の異なる2つの信号をマッピング後に合成して伝送する階層分割多重(LDM:Layered Division Multiplexing)の検討を行い(1)、信号の全帯域にLDMを適用する方式と、部分受信帯域のみにLDMを適用する方式を変復調装置に実装した。また、FDM(Frequency Division Multiplexing)方式の受信機における消費電力を削減することを目的とし、部分受信帯域(1.5MHz帯域幅)のみを受信し、サンプリングレートを1/4に低減した移動受信用復調装置を試作した。さらに、特性改善技術として、DSFBC(Differential Space Frequency Block Code)を適用したTMCC伝送方式と、周波数ダイバーシティ効果を高めるためにOFDMシンボルごとにセグメント単位で巡回シフトを行う周波数インターリーバーを実装した。
 さらに、2016年度に試作した変復調装置を用いて、室内実験と技研実験試験局での野外実験により、部分受信帯域の受信特性を評価した(2)。誤り訂正符号にLDPC符号を用いることに加え、部分受信の帯域幅を地上テレビジョン放送のワンセグの場合と比較して約3.5倍に拡大したことや、より長い時間インターリーブ長を選択できるようにしたことで、ワンセグと比較して所要電界強度で2.6dBの低減、または伝送効率では60%向上した(図1-13)。この暫定仕様の部分受信機能を、委託研究の伝送路符号化方式に反映させた。



図1-12 所要C/Nと伝送レートの関係


図1-13 暫定仕様とワンセグの所要電界強度の比較

次世代地上放送に向けた大規模実験環境の構築

 委託研究「地上テレビジョン放送の高度化技術に関する研究開発」および「高度化方式に対応したSFN方式による中継技術に関する研究開発」において、東京地区および名古屋地区の親局規模の実験試験局の環境整備を進めた。2017年度は、東京地区では実験試験局で使用する送信装置の設計および送信空中線の製作を、名古屋地区では親局規模の実験試験局と中継局規模の実験試験局の2局の設計および親局の送信空中線と中継局の送信装置の製作を実施した。
 両地区での大規模実験では、現行の地上テレビジョン放送より帯域幅を拡張した信号を用いる予定としている。帯域幅を拡張した信号における同一チャンネル混信の許容値と隣接チャンネル混信の許容値を室内実験により確認した。異なる15種類の地上テレビジョン放送受信機に対して、地上テレビジョン放送信号を希望波、帯域幅を拡張した信号を妨害波として入力し、希望波と妨害波の許容できる電力差を確認した(3)
 両地区の免許取得に向けた取り組みとして、各地域の地上デジタル放送技術連絡会を通じて、関係する放送事業者に実験試験局の送信諸元と地上テレビジョン放送への影響について事前に説明し、送信諸元の了承を得た(表1-2)。2018年秋の電波発射を目標に、所管する総合通信局へ実験試験局免許を申請した。


表1-2 実験試験局の送信諸元

チャンネルプラン

 現行の地上テレビジョン放送と同じUHF帯を利用した地上SHV放送の実現に向け、2016年度から技術局と共同でチャンネルプランを検討している。2017年度は、地上SHV放送用の新規チャンネルと、新規チャンネルの捻出に伴う地上テレビジョン放送のリパック先チャンネルの検討を進めた。チャンネルの利用可否を判定する選定基準を見直すとともに、計算ポイント数を増やすことで、リパック規模の見積もり精度を向上させた。


次世代のSFN技術

 2016年度に開発した再多重化装置は、OFDM変調装置の入力信号となるXMI(eXtensible Modulator Interface)形式の信号を出力する機能を有しており、SFNを実現するために、XMIパケットに多重された各送信所の送信タイミング情報に従い、変調装置の信号出力タイミングを制御することができる。
 2017年度は、熊本県人吉地区で光IP回線を使ってXMIパケットを伝送し、SFNエリアを構成する実験を実施した。人吉実験試験局に設置した再多重化装置から出力されるXMIパケットを光IP回線で水上実験試験局に配信し、人吉局、水上局の変調装置で生成されたOFDM信号を同じ周波数(UHF 46ch)で2局から送信した。2局の電波が到来する地点に受信点を設置し、SFN環境下で誤りなく映像伝送できることを確認するとともに、2局の電波の到来時間差を観測することにより、送信タイミングの制御機能の動作を確認した(図1-14)。
 SFNエリアにおいて複数の送信局から電波が到来することに起因する伝送特性の劣化を低減させる目的で、時空間符号化技術を適用したSFN技術(符号化SFN)の研究を進めた。地上デジタル放送でSFNを構築しているエリアで取得した伝搬路特性を用いて計算機シミュレーションを行い、従来のSFNで伝送特性が劣化する場合でも符号化SFN技術を適用することで、最大で4.8dB程度伝送特性を改善できることが確認できた(図1-15)(4)



図1-14 SFN伝送実験の系統図


図1-15 符号化SFNと従来SFNの伝送特性の比較

国際連携

 ITU-R WP6A(地上放送)会合では、UHDTV野外伝送実験レポートの作成を進めている。2017年度は、不均一コンスタレーションを用いた地上伝送実験およびSFN環境下で8KをHEVC/H. 265で圧縮して伝送した実験について、情報の追加を提案した。
 次世代地上放送に向けた研究の一環として、移動通信システムの標準化を行う3GPP(3rd Generation Partnership Project)に登録し、5Gの標準化動向調査を開始したほか、EBU(European Broadcasting Union)と連携して、5Gシステムの放送利用に関する検討を開始した。
 韓国KBS、ETRIを訪問し、2017年5月31日に放送を開始した地上4K放送の状況や将来のモバイルサービスに関する調査を実施した。
 世界の放送事業者が集まるFOBTV(Future of Broadcast Television)では緊急警報放送に関するアンケートを実施・集計し、4月のNAB Show、9月のIBC2017で開催された会合で結果を報告した。
 DiBEG(Digital Broadcasting Experts Group)活動の一環として、ブラジルの規格化組織であるSBTVD-Forumと次世代地上放送に向けた意見交換を実施した。


 

〔参考文献〕
(1) 佐藤,宮坂,朝倉,蔀,白井,成清,竹内,中村,村山,岡野,土田,中原:“次世代地上放送に向けたLDMの適用に関する一検討,” 映情学技報,Vol. 41, No. 6, BCT2017-34, pp.45-48(2017)
(2) 宮坂,竹内,中村,土田:“次世代地上放送暫定仕様における部分受信の評価,” 映情学冬大,14C-3(2017)
(3) 白井,佐藤,成清,岡野,土田:“次世代地上放送暫定仕様の信号帯域幅拡張に関する検討,” 映情学技報,Vol.42, No.11, BCT 2018-48, pp.43-46(2018)
(4) 佐藤,蔀,竹内,岡野,土田:“時空間符号化を適用したSFN方式の伝送特性評価,” 映情学技報,Vol. 41, No. 43, BCT2017-93, pp.37-42(2017)