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研究内容紹介

1.8 衛星放送伝送技術

 SHVの本格普及に向けて、12GHz帯衛星放送伝送方式の性能向上に取り組むとともに、21GHz帯衛星放送など次世代衛星放送システムの研究を進めている。


高度衛星放送伝送方式

 衛星伝送のさらなる大容量化を目的として、集合分割法に基づく64APSK(Amplitude Phase Shift Keying)符号化変調の研究を進めている。衛星中継器の非線形歪がある伝送路における性能改善手法として、非線形歪の特性と受信側のLMS(Least Mean Squares)アルゴリズムによる適応等化器の性能を考慮した64APSK符号化変調の設計を行った。64APSK変調の円周上の信号点数をパラメーターとし、64APSK伝送時の12GHz帯衛星中継器の最適動作点である出力バックオフ5dBの条件のもと、誤り訂正後の所要C/N(Carrier to Noise Ratio)が最もよくなる信号点数、信号点へのビット割当およびLDPC(Low-Density Parity-Check Code)符号を設計した。設計した64APSK符号化変調(提案手法)(1)は、白色雑音のみを考慮して最適化した従来手法に対して、出力バックオフ5dB時に約0.4 dB所要C/Nが改善することを計算機シミュレーションにより確認した(図1-10)。
 右旋・左旋両偏波の同時受信による伝送性能の劣化を軽減する、逆相合成アルゴリズムを備えた交差偏波干渉除去装置を試作した。交差偏波識別度が25dBの条件において、希望波の変調方式が32APSK(3/4)の場合、本干渉除去機能により所要C/Nが0.2dB改善することを確認した。



図1-10 64APSK符号化変調の伝送性能

高度放送衛星システム

 12GHz帯衛星放送の変調方式の多値化による大容量化を目的として、衛星送信出力の高出力化を検討している。高出力化した場合は、外国への電波の干渉を国際調整により合意したレベル以下とするために、衛星搭載アンテナのサイドローブを抑圧する必要がある。低サイドローブの衛星搭載用12GHz帯右旋・左旋円偏波共用反射鏡アンテナを実現するために、その給電部としてコルゲートホーンアンテナを選定し試作した。試作した給電部の放射パターンは設計値と一致し、300MHzの帯域幅において30dB以上の交差偏波識別度が得られた。今後、設計した給電部を基に非円形開口反射鏡を用いた2枚反射鏡アンテナを設計し、衛星搭載用アンテナの低サイドローブ化を進める。
 12GHz帯と21GHz帯の右旋・左旋円偏波による衛星放送を1つのアンテナで受信可能とする12/21GHz帯偏波共用給電部を設計した。給電部を4素子マイクロストリップアレーアンテナの多層構造とすることで、反射鏡の焦点に同時に配置可能とした(図1-11)。電圧定在波比は両周波数帯で1.1以下であり、給電部の設計値を用いて評価した開口径50cmオフセットパラボラアンテナの利得は、12GHz帯が34dBi以上、21GHz帯が38dBi以上であり、交差偏波識別度は25dB以上であった。
 12GHz帯4K8K衛星放送の受信システムから漏洩する左旋円偏波用中間周波数帯(2.2GHz〜3.2GHz)の微弱な信号を測定するために、漏洩信号と受信信号との相関演算により測定信号(漏洩信号)のC/Nを改善する方法を考案し、高精度に漏洩電力を測定できる測定装置の試作・評価を行った。相関出力信号を狭帯域バンドパスフィルターで帯域制限することにより、C/Nを40dB以上改善できることを試作により確認した。
 21GHz帯アレー給電反射鏡アンテナを用いた空間合成による衛星送信電力の高出力化のための給電部として、ホーンアンテナを回転対称に配置するシーケンシャルアレー構造を採用した3素子の部分モデルを試作した。隣接する素子の内部で反射する電波を低減することにより、30dB以上の交差偏波識別度が得られることを確認した。
 放送衛星BSAT-4a搭載の21GHz帯実験用中継器を利用した広帯域伝送実験および降雨減衰特性評価のために、開口径1.5mパラボラアンテナ(利得48dBi)と衛星自動追尾装置を組み合わせた21GHz帯受信設備を整備した。



図1-11 12/21GHz帯偏波共用給電アンテナの構造

 

〔参考文献〕
(1) 小泉,鈴木,小島,筋誡,田中:“衛星中継器特性を模擬した非線形伝送路における64APSK符号化変調設計の最適化に関する検討,” 信学総大,B-3-10(2018)