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研究内容紹介

1.11 有線伝送技術

 8K番組の制作と素材伝送に適用可能な、IP(Internet Protocol)技術を用いた番組制作・素材伝送システムの研究と、8K番組をケーブルテレビで伝送するための複数搬送波伝送方式およびFTTH(Fiber to the Home)デジタルベースバンド伝送方式の研究を進めている。


IP技術を用いた番組制作・素材伝送システム

 番組制作や番組素材伝送にIP技術を導入することで、映像/音声/同期/制御などさまざまな形式の信号を、時間多重して共通のネットワークで低コストに伝送することができる。2017年度は、以下の3つの研究開発に取り組んだ。
 ①8K IP伝送による遠隔地での音声ミキシング実験
 従来の中継制作では、中継現場からの受信信号を放送局のマスタークロックに同期させる変換処理が必要であったが、IP技術を用いた番組制作システムでは、PTP(Precision Time Protocol)でクロック同期情報を送受信することによって、中継現場と放送局を同じクロックで運用することができる。2017 NHK杯国際フィギュアスケート競技大会において、大阪〜東京間の商用IP回線に8K映像パケット、128ch音声パケット、PTPパケットを時分割多重して伝送して、同期性能を検証した。その結果、PTPパケットのジッタが1マイクロ秒程度であれば、大阪の中継現場の音声を東京の放送センターでミキシングできることを確認した(1)。一方で、正常に時刻同期できない制作機器もあったため、今後は同期アルゴリズムの改善や、ネットワーク構成によって異なるPTPジッタの低減手法を検討する。
 ②軽圧縮8K信号IP伝送装置の開発
 番組制作に用いる8K番組素材は、高画質・低遅延で伝送することが要求される。しかし、大容量の非圧縮信号の伝送は回線コストが増大するため、8K信号を軽圧縮してIP伝送する装置を開発した。本装置は、非圧縮相当の高画質を維持しつつ低遅延で帯域を削減した伝送が可能となる。例えば、8K番組素材信号(4:2:2サンプリング、フレームレート60Hz、映像帯域40 Gb/s)を1/5に軽圧縮(圧縮後の映像帯域8Gb/s)した場合、汎用的な10Gbイーサネットの回線1本で伝送できる。室内実験の結果、軽圧縮した8K信号が高画質・低遅延で安定的に伝送可能なことを確認した(図1-18)。今後は、フィールドでの伝送実験やフレームレート120Hzへの対応、誤り訂正機能の実装(2)を行う。
 ③IP伝送方式変換装置の開発
 IP化した番組制作システムにおいて、伝送する信号のフォーマットや機器制御方式が異なる機器間での相互接続を実現するために、フォーマットや制御方式を変換する仕組みを開発し、変換装置を試作した。
 NHK内で回線マトリクスとして整備を進めているIPビデオルータ(以下IPVR)とIP番組制作システムの各機器は、伝送フォーマットや制御方式が異なる。今回試作した変換装置を用いて、IPVRと2017年度に技研で試作したIP番組制作システムの接続試験を行った。その結果、IP番組制作システムの制御装置からIPVRを制御できることや、IPVRの映像信号をIP番組制作システムへ伝送できることを確認した。



図1-18 軽圧縮8K IP伝送の室内実験

SHVケーブルテレビ伝送方式

 8K信号を分割して複数のチャンネルで伝送することにより、既存のケーブルテレビ施設でも配信できる複数搬送波伝送方式の研究開発を進めている。2017年度は、2016年度に開発した複数搬送波伝送方式対応の復調用LSIを搭載した小型受信装置を用いて、ケーブルテレビ商用回線を使った8K衛星放送の再放送実験を行った。その結果、再放送された8K信号を小型受信装置で安定して受信できることを確認した。また、日本ケーブルラボでの新4K・8K衛星放送の再放送運用仕様の実証実験案の要件取りまとめと、実験手順書の作成に寄与し、ケーブルテレビでの4K・8K再放送サービスの実現に向けて取り組んだ。


FTTHに適したデジタルベースバンド伝送方式

 FTTHによる放送の家庭への配信手段の1つとして、8Kやハイビジョンなどの多チャンネルのストリームをIPパケット化して時分割多重した10Gbps級のデジタルベースバンド伝送方式の検討を行っている。2017年度は、ベースバンド信号を伝送できない同軸ケーブルのみが敷設されているマンションを想定した、棟内伝送方式の基礎検討を行った。検討した棟内伝送方式は、視聴者からのリクエストに応じてIPパケットを選択してRF(Radio Frequency)信号に変換して伝送することにより、既設の同軸ケーブルで伝送する方式である。ケーブルテレビのインターネット通信で使用されているDOCSIS(Data Over Cable Service Interface Specifications)規格を利用し、周波数利用効率を改善する機能を追加した送受信装置を試作し、検討方式の有効性を確認した。また、既存のRF信号を伝送するFTTH施設において、デジタルベースバンド伝送方式へ段階的に移行するための技術の検討も進めた(3)


 

〔参考文献〕
(1) 河原木,小山,川本,北島,倉掛:“IPリモート制作における遠隔地との同期手法の検証,” 映情学技報,Vol.42, No.11, BCT2018-39, pp.5-8(2018)
(2) J. Kawamoto and T. Kurakake:“XOR-based FEC to Improve Burst-Loss Tolerance for 8K Ultra-High Definition TV over IP Transmission,” IEEE GLOBECOM2017, CSSMA. 4-05(2017)
(3) 楠,袴田,倉掛:“SCM信号と10Gbpsベースバンド信号のFTTH共存条件の検討,” 映情学技報,Vol.41, No.39, BCT2017-90, pp.45-48(2017)