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研究内容紹介

1.10 番組素材伝送技術(FPU)

 SHVによる緊急報道やスポーツ中継などのライブ放送を目指して、マイクロ波帯と1.2/2.3GHz帯を使った映像・音声素材の無線伝送装置(FPU:Field Pick-up Unit)の研究開発を進めている。


マイクロ波帯FPU

 SHV映像信号を、ハイビジョン用の現行FPUの伝送距離と同じ50km伝送できるマイクロ波帯(6/6.4/7/10/10.5/13GHz帯)FPUの研究開発と標準化活動を進めた。
 伝送容量拡大のために、偏波MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)と超多値OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)技術に加え(1)、2017年度は、FFTサイズを2,048ポイントから4倍の8,192ポイントに拡大することにより、ガードインターバルに対する有効シンボル長の割合を高くした。また、所要C/Nを低減するため、誤り訂正のLDPC符号に加え、不均一コンスタレーションの導入やOFDMパイロット信号レベルの最適化(2)、ビットインターリーブの改善を行った。これらの改善により、最大伝送容量は現行FPUの55Mbpsと比べて5.7倍の312Mbpsとなり、現行FPUと同一の所要C/Nという条件では3.6倍の200Mbpsの伝送容量を達成した(図1-16)。
 ARIBにおいて、上記技術を反映したARIB STD-B71「超高精細度テレビジョン放送番組素材伝送用可搬形マイクロ波帯OFDM方式デジタル無線伝送システム」の新規策定に貢献した。



図1-16 マイクロ波帯FPUの伝送容量と所要C/N

1.2/2.3GHz帯FPU

 1.2/2.3GHz帯を使ってSHV移動中継を実現するため、TDD(Time Division Duplex)方式による適応送信制御MIMOシステムの研究開発を進めている。
 2017年度は、伝送レートを拡大する機能改善に取り組んだ。移動局から基地局へSHV映像信号を伝送する上り回線について、OFDMのキャリアシンボル当たりに伝送できる情報量を14ビットから16ビットに拡大するとともに、基地局から制御情報を送る下り回線に対する上り回線の時間比率を高めることにより、最大約140Mbpsの無線伝送を可能にした。さらに、ロードレース中継で伝送エリアを拡大するため、多数のアンテナから受信品質の良い4本のアンテナを選択して復調する複数基地局対応機能の開発を進めた。
 変動する伝送路の品質に対して、伝送誤りが発生しないように誤り訂正符号の符号化率を適応的に制御するレートマッチング技術では、誤り訂正符号化率の変動に応じて8K映像の符号化ビットレートを制御する機能を試作システムに実装した。可変レートのHEVC/H.265コーデックと接続して、50Mbpsから140Mbpsの範囲で変動するレートでSHV映像信号を伝送できることを確認した。
 試作システム(図1-17)を用いて、NHK技研周辺と都市部でのマラソンを想定したコースで野外伝送実験を実施した。伝搬路状況に応じて多重するMIMOストリーム数や変調方式、誤り訂正符号化率を動的に切り替える適応送信制御MIMOシステムの移動伝送特性を評価するとともに、可変レート8Kコーデックと接続して100Mbps以上のSHV映像信号の移動伝送を実証した(3)
 この研究の一部は総務省の委託研究「次世代映像素材伝送の実現に向けた高効率周波数利用技術に関する研究開発」を受託して実施した。



図1-17 適応送信制御MIMOシステムの試作装置

 

〔参考文献〕
(1) 村瀬,鴨田,澁谷,居相,濱住:“マイクロ波帯4K・8K用FPUの開発,” 映情学年次大,32E-1(2017)
(2) 村瀬,鴨田,澁谷,居相,今村,濱住:“マイクロ波帯4K・8K用FPU OFDMパイロットレベルの検討,” 映情学技報,Vol.42,No.5,BCT2018-34, pp.41-44(2018)
(3) 光山,鵜澤,伊藤,居相:“適応送信制御4×4 TDD-SVD-MIMOシステムの野外伝送実験,” 映情学技報,Vol. 41, No. 35, BCT2017-84, pp.13-16(2017)