地上のデジタル放送についても,1999年までの規格化を目指して審議が進んでいます。一方,通信,コンピューター分野においても,マルチメディア化が進展しており,放送の融合の議論や,それに向けてのさまざまなトライアルがなされています。
現在私たちは,2l世紀を目前にして情報通信分野の変革に先導される社会の大変革の時代を迎えています。このようなときに,将来に向けて我々がどのように情報通信分野を切り開いてゆくのかということを,衆知を集め,広く議論することが大切であります。このため,昨年10月,当研究所が呼びかけて「デジタル放送/マルチメディアシンボジウム」を開催いたしました。
このシンポジウムは,6件の特別講演と4つのパネルディスカッションからなっています。特別講演では,放送・通信・コンピューター融合時代の放送の役割,欧米におけるマルチメディアサービスへの取り組み,民放におけるデジタル放送への取り組み,コンテンツ制作と人材育成,デジタル時代の標準化などについて,国際的な見地から広く議論を深めていただくため,日本,アメリカ,ヨーロッパからそれぞれ2件,いずれもその分野で指導的な立場におられる方々に講演をお願いしました。またパネルディスカッションでは,特別講演の中で議論されたテーマ,あるいはそれらに深く関連する課題について,さらに議論を深めていただきました。パネラーは,放送.通信,コンピューターあるいは映像,マルチメディアプロダクションなどの専門家,指導的立場の方々であり,大学,産業界からもご出席いたださました。いずれのご講演,ディスカッションも,時宜を得た貴重なものであり,当日シンボジウムに参加されなかった方々にも広くご利用いただければと思い,本号において技研R&D臨時増刊号の形で出版しました。
最後になりましたが,このシンポジウムを開催するにあたり,ご多忙中にも関わらず,講演やパネルディスカッションに参加いただくとともに,本号への講演内容の転載,出版をご快諾くださった特別講演者,パネラーの皆様,またシンポジウムに参加された多くの皆様に,心から感謝いたします。
放送,通信などの情報サービスは,送り手とネットワークと受け手という構成要素のそれぞれが,質,量,機能の面でさまざまな要素技術に支えられて大きく発展してきた。近年,デジタル化の流れの中で,コンピューターが非常に大きな役割を演じるようになってきており,放送,通信,コンピューターの近い部分が融合し,拡大していこうとしている。
このような融合時代における情報サービスは,質的には高画質.高音質へと進み,量的には多チャンネルで,扱う映像,音声,文字・データそれぞれが量的に増えている。機能的には,蓄積サービス,双方向サービス,移動サービスの発展が期待される。放送端末は,ホームテレビ,パーソナルテレビ,そして移動,携帯の3つのタイブに分かれていくと考えられ,このうち中間領域のパーソナルテレビが新しいコンセプトを有する情報端末として重要である。
融合時代の放送の役割は,多様なサービス,豊かなサービス,便利なサービスのコンテンツを充実して送っていくことにある。それを,高度な処理が可能なコンピューター技術をベースとして,効率的な制作情報処理,高度な画像音声処理,多様な情報収集に関わる技術の発展により実現していきたい。
デジタルマルチメディアは通信とコンピューターおよびテレビジョンの技術が融合することによってサービス提供が可能となる。そこでは,コンテンッの操作および管理,分配伝送方式,蓄積メディアへのアクセス,電子商取引および情報検索へのサポートが要素技術となる。インタラクティブメディアの展開のためのヨーロッパ連合ブロジェクトの研究開発,規格化,標準化の実績と今後の展開について講演された。
* 本稿は,英語で行われた講演をシンポジウム事務局の責任で和訳したものです。(訳:中村直義)
この2年間で,米国においては少なくとも部分的にはテレビ受信機やコンピューターなどに向けた「データ放送」をベースとした新しいサービスやシステムの開発に着実な進歩があった。それら新技術の多くがインターネットやインターネット関連技術の急速な発展の陰に隠れてはいたものの,「データ放送」を用いたニューメディアが次々と利用可能になっている。このようなニューメディアの開発に携わった放送事業者は,「データ放送」という新しい舞台において,将来に向けた貴重な経験を積んでいくことがでさる。
* 本稿は,英語で行われた講演をシンポジウム事務局の責任で和訳したものです。(訳:伊藤泰宏)
民間放送の立場からデジタル放送とそのサービスについての展望を示した。 日米英の動向を概観・分析し,高品質・多チャンネル・データの各サービスを包含した複合放送(マルチメディア放送)の可能性や,家庭内端末(テレビ)の方向性などに触れるとともに,デジタル放送時代に向けた民放各社の経営が変化を迫られていることを論じた。
本稿では米国におけるデジタルコンテンツ制作の状況を概観し,リニアなメディアとインタラクティブメディアの両方について,ディレクターやインタラクティブクリエーターの育成にデジタル技術が与える影響に関して言及する。
* 本稿は,英語で行われた講演をシンポジウム事務局の責任で和訳したものです(訳:比留間伸行)
デジタル放送やマルチメディアが今後どのような形でユーザーに受け入れられていくのかは,その国際的な規格化/標準化の進展にも依存する。本稿はマルチメディア符号化の国際的標準化組織MPEGでリーダーを務められたレオナルド・キャリオーネ博士から,MPEG-1,MPEG-2,DAVICなど,これまでに関わってこられた(正式な手続さを踏んだ)国際標準化の流れ,デファクトに進められるコンビューター関連標準に対する見方,MPEG-7,FIPAなど今後の標準化の方向,などについてビデオでご講演いただいたものをまとめたものである。特にマルチメディア時代の標準化については,(a)末端のに相互運用性をもたらすこと,(b)知的所有権を適切に管理すること,(c)情報検索のための新しいエージェントパラダイムで技術開発を進める必要があること,などの重要性が強調されている。
* 本稿は,英語で行われたビデオ講演をシンポジウム事務局の責任で和訳したものです(訳:小林和正)
| 座長 | 羽鳥 光俊 | 束京大字教授 |
| パネリスト | 真藤 豊 | 日本デジタル放送サービス(株) |
| 西 和彦 | (株)アスキー | |
| 西澤 台次 | 日本放送協会 | |
| 平井 正孝 | 日本電信電話(株) | |
| 前川 英樹 | (株)束京放送 |
放送のデジタル化にはアナログからデジタルへという単なる伝送方法の変更で
なく,デジタル放送の可能性を引き出せる新しいサービス形態が期待されている。
このために,通信やコンピューターとの連携やインテリジェントでトータルな受信環境の堤供などを目指したさまざまな検討が行われている。
しかし,高品質な映像・音声サービス,高機能サービスが期待される一方,事業としての存立性やどのようなサービスが受容されるかといった点については未知の部分も残されている。
すでにデジタル多チャンネル放送が開始されているCS放送のほか,高度化を目指して基盤整備を進めるネットワークや日ごとに高性能化するパーソナルコンピューターも放送と垂要なかかわりをもってくる。これら各メディアにおける新しい技術的試み,サービスの受容性についての予測,それらをもとにしたサービス導入の戦略について議論し,21世紀に向けたメディア状況を探った。
| 座長 | 森谷 正規 | 放送大学 教授 |
| パネリスト | 櫛木 好明 | 松下電器産業(株) |
| 中島 義充 | 三菱電機(株) | |
| 西田 豊明 | 奈良先端科学技術大学院大学 教授 | |
| 古川 享 | マイクロソフト(株) | |
| 柳町 昭夫 | 日本放送協会 |
デジタル放送・マルチメディア時代の多様なサービスを誰もが享受できるようにするには,高画質,多チャンネル,インタラクティブという,これまでにない高機能を,幼児から年輩者までの全世代の誰もるホーム端末が必要となる。 これまでのマルチメディアサービスは,どちらかというと技術的可能性が優先されたシステムが多く,ユーザーの趣向を十分に反映しつつ,しかも誰もが容易に使えるサービス,端末を提供してさたは必ずしもいえない面があった。 2000年頃打ち上げ予定の放送衛星によるデジタル放送が検討されている今,現在の放送受信機より使い勝手がよく,高機能なマルチメディアサービス・受信端末とは何かについて考える好機である。 誰もが容易に使え,かつ高機能な,21世紀のデジタル放送・マルチメディア時代のホーム端末のイメージについて,放送・コンピューター・通信分野の専門家の方々による議論を行った。
| 座長 | 安田 靖彦 | 早稲田大学 教授 |
| パネリスト | 関 祥行 | (株)フジテレビジョン |
| 村上 仁己 | KDD(株) | |
| 安田 浩 | 東京大学 教授 | |
| 山田 宰 | 日本放送協会 | |
| 山田 敏之 | ソニー(株) |
デジタル技術の急進的な進展により,放送メディアのデジタル化という新たな転換期を迎えている。これまで放送を含む電気通信技術の規格策定については,国際電気通信連合(ITU)などを中心に標準化活動が行われ,国際的な合意に基づくいわゆるデジュール(de jure) 標準が主流となっていた。
一方,コンピューターの世界は市場がリードしており,デファクト(de facto)規格が主流である。さらに近年,放送,通信,コンピューターが融合する中でのデジタル化を受けて,すでにMPEGやDAVICなどメディア横断的な標準化が進んでいる。
このようなマルチメディア時代における技術進歩に対応するには,民間ベースのフォーラムやデファクト標準化グループなどでの作業を含めて,標準化をどのように行うべきかが問われている。技術の開発をユーザーオリエンテッドにすべさという観点から.サービスを受ける視聴者の利便性を最優先しながら,放送事業者,受信機メーカーなどにも望まれる標準化をどのように実現するか,さらに,将来の技術革新と放送視聴形態の変化を予測して.どのように柔軟性と拡張性を確保するのかなどを,放送,通信に関係する専門家により議論し,国際標準を含めて,今後のデファクト/デジュール規格標準化推進のプロセスを探った。
| 座長 | 中嶋 正之 | 東京工業大学 教授 |
| パネリスト | 榎並 和雅 | 日本放送協会 |
| 大口 孝之 | フリーランス映像クリエーター | |
| 名和 小太郎 | 関西大学 教授 | |
| 西岡 貞一 | 凸版印刷(株) | |
| 吉田 健治 | 東京造形大学 助教授 |
多チャンネル時代に入り,コンテンツ制作の重要性が認識されている。本パネル討論では,多チャンネルにふさわしいコンテンツとは何か,コンテンツ制作者をいかに育成し確保するかを中心に,デジタル時代の著作権の問題,効率的なコンテンツ制作システム,新しい形の表現メディア・伝達メディアを実現する最新技術などについて,ビデオ作品の紹介も含め,活発に議論がなされた。