No.117 2009年9月発行

’09技研公開 講演・研究発表 特集号2

※概要のみ公開しています。

巻頭言

  • 「いつでも,どこでも,もっと身近にNHK」に向けた技研の取り組み
    久保田啓一 放送技術研究所 所長
    ↓概要

    概要
     テレビジョンの歴史をごくごく簡単に振り返ってみたい。1図の1番上の線が非常に大きく見た日本のテレビの歴史である。その左の方の1926年は,高柳健次郎先生が初めてブラウン管に「イ」の字を映し出した年である。 そして,NHK技研は1930年に設立された。技研が設立された目的は,1940年に予定されていたが戦争のために中止になった「幻の東京オリンピック」でテレビ放送をするためであった。つまり,技研では設立当初からテレビの研究をやっていたということである。

講 演

  • テレビは未来への窓,豊かな臨場感を目指して
    岡野 文男 / 放送技術研究所研究主幹、工学博士
    ↓概要

    概要
     臨場感を高めるための映像技術として2つのことが考えられる。1つは質感を高めることであり,他の1つは映像を立体にすることである。  質感を高めるために当所では,大画面効果に関する主観評価の研究や走査線4,000本級のスーパーハイビジョンのカメラ・表示装置・録画装置の開発を進め,2009年技研公開では,フル解像度(3,300万画素)のカメラとディスプレーを展示している。スーパーハイビジョンの研究開発にあたっては国際連携を重視し,技術レベルの向上とともに国際標準化につながることを意識している。  映像の立体化に関しては,光学像を実際に作る像再生型立体テレビの研究を進めている。その1つであるインテグラル立体テレビは,自然光で,メガネ無しで寝ころんで見ることができ,また,疲れないという家庭向きの特性を有する。これを実現するためには,超高精細の撮像・表示技術が必要であり,ハードルは非常に高いが,超高精細のスーパーハイビジョンの技術をうまく使いながら研究を進めていきたい。
  • スーパーハイビジョンの伝送とWINDSを用いた衛星伝送実験の意義
    正源 和義 / 放送技術研究所研究主幹 システム、ABU(アジア・太平洋放送連合)技術委員会議長、工学博士
    ↓概要

    概要
      NHK技研では,将来の放送を目指してスーパーハイビジョン(SHV)の研究を行っている。SHVはハイビジョンの16倍の画素数を持つ走査線4,000本級の超高精細映像と22.2マルチチャンネル音響から成る超高臨場感映像・音響システムである。講演では,SHVの映像と音響を各家庭に届けるための放送メディアと伝送技術に関する研究状況について概観する。時と場所を選ばずに低コストでSHV放送を実現するためには,超広帯域の21GHz帯衛星放送が最も有力な手段である。2009年技研公開での超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS:Wideband InterNetworking engineering test and Demonstration Satellite)を用いたSHV伝送の概要と意義,更に,21GHz帯衛星放送の実用化に向けた取り組みについて述べる。

研究発表

  • スーパーハイビジョン用広ダイナミックレンジプロジェクター
    日下部裕一 / テレビ方式
    ↓概要

    概要
     我々はハイビジョンを超える将来の高質感・空間再現メディアの実現を目指して,スーパーハイビジョンシステムの研究・開発を行っている。スーパーハイビジョンはハイビジョンの16倍にあたる約3,300万画素(7,680×4,320画素)の解像度を持つ超高精細映像システムである。これまで,スーパーハイビジョンが持つ本来の解像度での表示を実現するために3,300万画素を持つ素子の開発を進めるとともに,画質を向上させるために広いダイナミックレンジを持つ広ダイナミックレンジプロジェクターの研究・開発を行ってきた。広ダイナミックレンジプロジェクターは通常のプロジェクターとは異なり,光を2回変調してから投射する2重変調方式である。本稿では,スーパーハイビジョンの現用の表示装置の概要と広ダイナミックレンジプロジェクターの構成と特徴を述べた後に,実際に開発したプロジェクターの基本性能やダイナミックレンジ,階調などの実験結果について報告する。
  • 波面補償を用いたホログラム記録技術
    石井 紀彦 / 表示・機能素子 博士(工学)
    ↓概要

    概要
     当所では次世代の高質感・空間再現メディアとして,スーパーハイビジョンや3次元立体映像などの研究を進めている。これらのメディアでは高速で膨大な量の映像信号データを取り扱うので,高速・高密度・大容量の記録装置が求められる。この要求に応える記録技術として,ホログラム記録技術が注目されている。ホログラム記録は記録媒体の厚みを厚くして,記録密度や容量を増大することができる3次元記録の1つである。これまでに商品化されている光ディスクのCD(CompactDisc),DVD(Digital Versatile Disc),BD(Blu-ray Disc)などではレーザー光を対物レンズで集光し,ビットの反射率の違いを利用して記録・再生を行っているが,ホログラム記録では光の干渉を利用して記録・再生を行う。ホログラムを多重記録することはホログラム記録での高密度化・大容量化の鍵であるが,光の干渉を利用しているので光の揺らぎなどの課題が生じる。今回,この課題を解決するために,適応的に光の波面を制御する波面補償技術をホログラム記録に適用し,信号品質を改善したので報告する。
  • メタデータと検索技術がテレビにもたらすもの
    佐野 雅規 / 人間・情報科学 博士(情報学)
    ↓概要

    概要
     昨今の目覚ましいIT(Information Technology:情報技術)の発展と,放送と通信の融合を機に,さまざまな手段を介して大量の映像コンテンツに容易にアクセスできる環境が整いつつある。このような状況においては,従来のテレビが持っていた役割も少しずつ変化していくと考えられる。我々は1つの方向性として,メタデータと検索技術を利用し,視聴者の多様な関心を満たすことができるテレビの新しい視聴スタイル「CurioView(キュリオビュー)」を提案している。本稿では,これまでに検討してきた機能やサービス要件に基づき,テレビだけでなくPCなど他メディアにも展開可能な柔軟で汎用性・拡張性を高めたアーキテクチャーについて報告する。特に,サービスを実現するために核となるメタデータ生成と検索処理について詳細に述べる。更に,アーキテクチャーに基づいて試作したシステムについて報告する。
  • 高齢者にもより聞き取りやすい放送音声サービスのための研究
    小森 智康 / 人間・情報科学
    ↓概要

    概要
     高齢の視聴者の方から放送番組に対して,「背景音がうるさくてセリフが聞き取れない」,「アナウンサーの声が早口でわからない」といった苦情が寄せられることがある。当所では,急速に進む高齢化社会を見据え,番組制作現場と連携してこの課題に取り組んでいる。  高齢になると視力や筋力が衰えるのと同様に,個人差はあるものの誰でも聴力が衰える。番組音声の制作現場では,不特定多数の視聴者を想定し,演出や技術的調整に十分な配慮をしているが,高齢者の一部の方にとっては,必ずしも最適な発話速度やミキシングバランスになっていないことが考えられる。  我々はこれまでに,放送の音声をゆっくりにする話速変換技術を組み込んだラジオ・テレビの実用化や,背景音を小さくしてナレーションなどを聞き取りやすくした番組音声をデジタル放送の副音声を利用して試験的に放送する試みを行ってきた。しかし,これまでの取り組みだけでは十分とは言えず,より聞き取りやすい放送サービスを実現するためには,高齢者の音声や背景音の聞き取り能力を多面的に調査研究する必要がある。  現在,最小可聴限の加齢による上昇の調査データとラウドネス(音の大きさ)を客観的に測定する方法を利用して,高齢者の方にとって背景音のレベルが適正になるように音声ミクサーが調整するための番組制作支援用の機器の研究開発を行っている。更に,両耳で聞く場合には周囲の音から注目する人の声を聞き分けやすいという人の能力に着目し,音声と背景音をそれぞれ異なる方向のスピーカーから再生して,背景音の演出効果と音声の聞き取りやすさを両立させるための研究を行っている。  以下,2章と3章では,これまでの研究成果である話速変換技術の開発と高齢者に音声を聞き取りやすくするために背景音を単純に小さくする方法に関する検討結果について述べる。4章と5章では,これまでの研究では不十分であった高齢者の聴力を反映した,より聞き取りやすい放送を実現するための支援機器の開発と背景音から音声を聞き分ける高齢者の能力に関する基礎的な調査結果について述べる。6章では,将来展望について報告し,まとめる。

研究所の動き

  • IPネットワークを利用した中継伝送技術 ↓概要

    概要
    光ファイバーの普及が進み,手軽に高速のIPネットワークが利用できるようになった。IPネットワークには,専用回線のように高価ではあるが伝送帯域が保証されているものと,他の利用者との共用回線のように安価で手軽に利用できるが伝送帯域が保証されていないものとがある。そこで,伝送帯域が保証されていないネットワークを利用しても,高画質な映像を長時間途切れることなく安定して伝送するための研究を進めている。

発明と考案

  • 代表静止映像自動生成装置 ↓概要

    概要
     本発明は,観客などが大勢いるイベントを中継している放送用映像から,そのイベントを代表するような静止映像を自動生成する装置に関する技術である。具体的には,イベントに注目している観客や報道関係者が写真を撮影する際に多発するフラッシュの量を利用して,代表静止映像を出力する。
  • デジタルデータ記録波面補正装置及びデジタルデータ記録波面補正方法 ↓概要

    概要
     本発明は,ホログラム記録装置における波面の揺らぎを抑制し,記録特性を向上させるための技術である。本発明を適用することで,光学系の微小な振動や空気のじょう乱に弱かったホログラム記録装置を安定化させることができるとともに記録密度の向上が実現できる。