No.115 2009年5月発行

地上デジタル放送ネットワーク技術 特集号

※概要のみ公開しています。

巻頭言

  • 地上デジタル放送ネットワーク技術特集号に寄せて
    笹瀬 巌 / 慶應義塾大学理工学部 情報工学科 教授
    ↓概要

    概要
     テレビ放送は1953年に開始されてから半世紀が経過し,アナログ方式による白黒テレビからカラーテレビ,ハイビジョン,更にはデジタル放送へと著しい変革を遂げ,現在の私たちの生活に必要不可欠なメディアとなっている。2003年12月に東京・大阪・名古屋の3大都市圏で開始された地上波を用いたデジタルテレビ放送は2008年には固定受信機・ワンセグ携帯電話共に普及台数が4,000万台に達し,2011年の完全デジタル化に向けて着実に全国展開が進んでいる。

解説・報告

  • 地上デジタル放送と将来展望
    正源 和義 / システム 工学博士
    ↓概要

    概要
    2003年12月に本放送が始まった地上デジタル放送は固定受信機・ワンセグ携帯受信機共に普及台数が2008年に4,000万台を超えたが,更なる普及の加速が必要である。地上デジタル放送ネットワークの整備も2011年の完全デジタル化に向けて着実に全国展開が進んでいる。そのために,数多く必要となる中継局の設備整備のコスト削減が望まれている。本稿では,地上デジタル放送のサービスおよび全国展開に向けた国や放送事業者の取り組み,更に,地上デジタル放送の将来展望について述べる。
  • 地上デジタル放送の放送波中継技術 各種補償器技術
    澁谷 一彦 / システム
    ↓概要

    概要
     地上デジタル放送の放送波中継技術として,既に多くの放送波中継局で使用している各種補償器の概要について紹介する。補償器は回り込み・マルチパス・フェージング・同一チャンネル干渉など,さまざまな干渉妨害で劣化する放送信号の品質を改善するための装置であり,信頼性の高い放送波中継を実現するために重要な技術である。
  • 地上デジタル放送の中継局用電力増幅器
    九鬼 孝夫 / システム
    ↓概要

    概要
     日本の地上デジタル放送(ISDB-T)の変調方式にはOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)が採用されている。OFDMの信号は伝搬路のマルチパスには優れた特性を持つが,高周波電力増幅器の増幅特性(振幅および位相の入出力特性)の線形性には敏感で,線形性が悪いと容易に歪みが発生する。そのため,地上デジタル放送の中継局用電力増幅器には,非常に良好な線形増幅特性(低歪み特性)が必要である。一般に,電力増幅器の線形性を良くしようとすると電力効率が劣化するので,現実的には線形性と電力効率の両者を考慮する必要がある。ここでは,地上デジタル放送の中継局用の低歪み電力増幅器の技術と,新しい高周波電力増幅用デバイスを利用した中継局用電力増幅器について紹介する。

論 文

  • 回り込み波の変動と遅延広がり
    竹内 知明 / システム今村 浩一郎 / NHKエンジニアリングサービス濱住 啓之 / システム 工学博士澁谷 一彦 / システム
    ↓概要

    概要
     地上デジタル放送のSFN(Single Frequency Network)を放送波中継で実現するためには,送受信アンテナ間の結合による回り込みを抑制する必要がある。そのため,筆者らは回り込みキャンセラーの開発を行い,その有効性を示してきた。SFN放送波中継局を今後,設計・設置するために,実際の放送波中継局において回り込み波の伝搬特性を測定・把握し,回り込みキャンセラーに対する要求条件を明らかにすることが重要な課題となっている。本稿では,測定が可能な中継局設備で行った送受信アンテナ間結合量とその時間変動および回り込み波の遅延広がりについての測定と解析結果を報告する。
  • ISDB-T用アダプティブアレイの開発
    MMSEアダプティブアレイの放送波中継への応用
    竹内 知明 / システム木村 智 / 技術局送受信技術センター濱住 啓之 / システム澁谷 一彦 / システム
    ↓概要

    概要
     地上デジタル放送の放送波中継を実現するためには,伝搬路によって生じる受信信号の劣化を中継局で改善する必要がある。特に,中継局は見通しの良い山頂に設置されることが多く,親局以外の地理的に離れた場所にある送信局からの電波を受信する可能性があるので,同一チャンネル干渉を考慮する必要がある。本稿では,地上デジタル放送の放送波中継局用のMMSE(Minimum Mean-Squared Error)アダプティブアレイを用いた同一チャンネル干渉除去技術について述べる。提案法では,アレイ合成信号と既知信号との差で定義される誤差を最小化するための基準信号としてSP(Scattered Pilot:スキャッタードパイロット)信号を用いる。受信データシンボルは内挿補間した最適重みを用いてキャリヤーごとに合成し,干渉波をキャンセルする。計算機シミュレーションおよび室内実験を行い提案法の有効性を示す。
  • 地上デジタル放送の放送波中継のための合成-比較-選択に基づく最ゆう判定指向型アダプティブアレイ
    竹内 知明 / システム成清 善一 / システム横畑 和典 / システム今村 浩一郎 / NHKエンジニアリングサービス濱住 啓之 / システム 工学博士澁谷 一彦 / システム
    ↓概要

    概要
     地上デジタル放送の放送波中継局における同一チャンネル干渉対策として,筆者らはMMSE(Minimum Mean-Squared Error)アダプティブアレイを用いた干渉除去技術の適用を検討している。しかし,日本の地上デジタル放送のISDB-T(Integrated Service Digital Broadcasting-Terrestrial)方式において,SP信号を参照信号とする従来の重み制御アルゴリズムでは,SP信号の受信タイミングが希望波と一致もしくは近接しているISDB-T方式の干渉波を除去できないという問題があった。本稿では,干渉波がISDB-T方式である場合には,希望波と干渉波のSP信号の受信タイミングにかかかわらず干渉除去が可能なISDB-T用アダプティブアレイの合成-比較-選択に基づく最ゆう判定指向型重み制御アルゴリズムを提案する。計算機シミュレーションおよび試作機を用いた野外実験を行い,提案法の有効性と地上デジタル放送の放送波中継局に最ゆう判定指向型アダプティブアレイが適用可能であることを示す。

研究所の動き

  • 高齢者に適した音響再生 ↓概要

    概要
     高齢の視聴者の方から,「背景音がうるさくてセリフが聞き取れない」,「アナウンサーの声が早口でわからない」といった苦情が寄せられることがある。高齢の視聴者の方にも,音声は聞き取りやすく,同時に,放送番組の持つ臨場感も体感していただけるテレビ音声放送サービスの実現を目指し,放送現場と連携して「高齢者に適した音響再生」の研究を進めている。
  • 新しいマイクの研究開発 ↓概要

    概要
    当所では,これまでのマイクロホンでは収音できなかった音や,雑音に埋もれてとらえることの難しい音の収音を目指して,新しいマイクロホンの研究開発を行っている。その中から,非常に高い周波数の音を高品質に収音できる超広帯域マイクロホンと,周囲の騒音や雑音が多い環境下でも目的音をクリアに収音できるリアキャンセルマイクロホンを紹介する。

発明と考案

  • 受信装置および中継装置 ↓概要

    概要
     本発明は,OFDM方式を用いた地上デジタル放送波に混入した同一チャンネル干渉波をアダプティブアレイを用いて除去する技術に関するものである。地上デジタル放送波にはSP(スキャッタードパイロット)信号と呼ばれる既知の参照信号が挿入されている。本発明では,SP信号以外のキャリヤーシンボルに対しても判定と選択処理を行い,参照信号を生成する。生成した参照信号を用いて,すべてのキャリヤーシンボルに対してアダプティブ処理を行い,高い精度で同一チャンネル干渉波の除去を可能とする。
  • OFDM信号合成用受信装置および中継装置 ↓概要

    概要
     本発明は,地上デジタル放送波に混入した同一チャンネル干渉波の除去技術に関するもので,主アンテナを希望波の到来方向に,補助アンテナを干渉波の到来方向に向けて電波を受信する。複数のアンテナを希望波の到来方向に向けて設置するリニアアレイアンテナシステムでは除去が困難であった主アンテナの後方から干渉波が到来するような場合でも干渉波の除去が可能となる。