No.112 2008年11月

研究成果の番組応用技術 特集号

※概要のみ公開しています。

巻頭言

  • 画像処理研究成果の番組応用への期待
    小沢 慎治 / 愛知工科大学工学部情報メディア学科 教授
    ↓概要

    概要
    テレビジョン放送は動画像を伝送するものであり,用いられている技術は画像処理技術そのものであるといってもよい。もちろん,撮像素子,表示装置も重要であるが,システムとしては走査方式の発明に始まり,時間解像度を高めるためのインターレース方式,カラー放送のためのコンポジット信号方式,モニター上で空間解像度を高めるための内挿方式など数多くの技術を総合して現在のテレビジョン放送が成り立っている。また,動画像が符号としては膨大であるにもかかわらず,情報としては冗長であることに着目した画像圧縮技術は画像処理とデジタル回路技術の成果であり,デジタル放送はこれに支えられている。これらは放送システムを構築するための技術であり,コンピューターを用いたデジタル画像処理技術の立場で考えると,画像修復,画像符号化の技術と位置づけられる。

解説・報告

  • 多視点ハイビジョン映像生成システムの開発と番組利用
    冨山 仁博 / 人間・情報 岩舘 祐一 / 人間・情報
    ↓概要

    概要
      被写体を取り囲むように配置した複数のカメラ映像を切り替えて表示する多視点映像生成技術は,新しい映像制作手法として映画などで使用されている。放送番組の中では,特に,スポーツ番組に対して効果的な手法と考えられるが,設置に多大な労力を要することや映像送出に時間を要することなど,生放送で利用する際の課題がある。当所では,ハイビジョン映像を用いた多視点映像生成システムを試作し,スポーツの生中継番組で試験的に利用してきた。本システムは12台のカメラと収録・送出用の3台のPCで構成され,生中継でも使えるように運用性と即時性を重視して設計した。本稿では,試作した多視点ハイビジョン映像生成システムの機能と番組での利用例について解説する。
  • 超高速度CCDカラーカメラ
    丸山 裕孝 / 材料・デバイス、林田 哲哉 / 材料・デバイス、新井 俊希 / 材料・デバイス、米内 淳 / 材料・デバイス、北村 和也 / 材料・デバイス、江藤 剛治 / 近畿大学理工学部土木工学科(現,社会環境工学科)教授
    ↓概要

    概要
      最大撮影速度100万fps(frames per second:フレーム/秒)までの超高速度撮影が可能で,従来の高速撮像デバイスの約10倍の感度を持つ超高速度CCDと,それを用いた機動性に優れた小型超高速度カラーカメラの研究開発を進めている。開発した超高速度CCDは素子内の各画素の受光部にあたるフォトダイオードに映像を記録するメモリー(144フレーム分)を直結することで超高速度撮影を可能としたほか,フォトダイオードの面積を大きくすることで高い感度を実現した。超高速度CCDにカラーフィルターを装着し,小型で機動性に優れた感度の高い単板式の超高速度カラーカメラを試作した。その結果,従来の高速度カメラでは撮影不可能であった超高速現象の撮影,すなわち,これまでにない超スローモーション映像の再生が可能になり,スポーツ・科学・自然・教育などさまざまな放送番組での多様な演出や構成が可能となった。
  • アドリブシステムによるリアルタイムCGキャラクター制御
    浜口 斉周 / 人間・情報、道家 守 / NHKエンジニアリングサービス、金子 浩之 / 人間・情報、井上 誠喜 / 人間・情報
    ↓概要

    概要
      TVML(TV program Making Language)とTVML Playerのインタラクティブ再生機能を用いて,キーボードでCG(コンピューターグラフィックス)キャラクターをリアルタイムで動作させる“アドリブシステム”を開発した。アドリブシステムはリアルタイムで制御できるので,CGキャラクターと番組出演者は臨機応変に掛け合いをすることができる。また,スクリプトベースなので制作現場で直接,動作・演出を編集・修正することができる。更に,声優の声を用いてリアルタイムでCGキャラクターの口を動かし,リップシンクさせることができる。ノートPC(パソコン)1台で動作し,番組制作現場でも使いやすいコンパクトなシステムである。

論文

  • 野球投球軌跡表示システムの開発と他のスポーツへの応用
    高橋 正樹 / 人間・情報三須 俊枝 / 人間・情報藤井 真人 / 人間・情報合志 清一 / 人間・情報八木 伸行 / 人間・情報藤田 欣裕 / 研究主幹
    ↓概要

    概要
    野球中継で利用可能な投球軌跡表示システム(B-Motion)を開発した。ボールの動特性・画像特性を考慮した物体(オブジェクト)抽出処理および位置予測処理により,ボール領域を確実に追跡し,軌跡を準リアルタイムで描画する。また,ボール位置の補間機能を備えており,左バッター領域などボールを追跡するときに障害となる領域が存在していても連続した滑らかな軌跡が表示できる。本システムは通常の放送用カメラの映像を入力としているので,撮影機材を新たに追加する必要はない。また,事前のキャリブレーション作業も不要であり,運用性に優れているので,NHKのプロ野球中継において,5シーズンにわたり恒常的に利用されている。更に,機能を拡張して,ボウリング中継でのボール軌跡表示やゴルフ中継でのティーショット・パット軌跡表示にも対応した。
  • 複数移動ロボットカメラによるバーチャル撮影システム
    武藤 一利 / 人間・情報柳澤 斉 / 人間・情報津田 貴生 / 放送技術局コンテンツ技術センター井上 誠喜 / 人間・情報
    ↓概要

    概要
    実際のカメラマンのカメラ操作と同じように動く移動ロボットカメラと,CG装置を組み合わせた高精度映像合成システムを開発し,現在,2台の移動ロボットカメラを用いた番組制作を行っている。カメラ2台を運用し,実写の映像にCGを合成する場合には,2台のロボットカメラの位置検出誤差が加算されて映像に違和感を与える可能性がある。自然な合成を行うためには,位置検出精度をこれまで以上に向上させる必要がある。従来,移動ロボットカメラの位置検出は移動する際の車輪の回転数を用いて行っていたが,車輪の空転やスリップにより誤差が生じる場合があった。今回,CG用の座標系の原点に対応する基準点をスタジオ内であらかじめマーキングしておき,この1点を移動ロボットカメラで撮影するだけで位置の校正が高精度にできるキャリブレーション手法を開発した。

研究所の動き

  • フレキシブルディスプレーの研究 ↓概要

    概要
    薄くて軽く,持ち運びに便利なフレキシブルディスプレーは,将来のユースフル・ユニバーサル放送サービスの視聴に適したディスプレーである。技研では,有機EL(Electroluminescence)とフィルム液晶という2つのタイプのフレキシブルディスプレーとこれらに内蔵する駆動素子として有機TFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスター)の研究を進めている。
  • 薄型光ディスク ↓概要

    概要
    ハイビジョン番組のアーカイブのような大容量データの長期保存には,磁気テープや光ディスクが適している。技研では,放送局用の高画質なハイビジョン番組を光ディスクに記録するために,記録再生の高速化と大容量化を可能にする0.1mm厚の基板の薄型光ディスクの研究を進めている。

発明と考案

  • 番組制作システム,番組制作端末,番組制作管理サーバー,番組制作プログラム,及び番組制作管理プログラム ↓概要

    概要
    本発明は,エンドユーザーが簡単に,映像コンテンツを制作し,インターネット上に公開するためのシステム“TV4U”に関する要素技術である。制作ユーザーは映像コンテンツを台本の形で制作・公開し,視聴ユーザーは公開されている台本をダウンロードし,視聴端末で映像を生成し,視聴することを特徴とする。テキストで書かれた台本がインターネット上を流通するだけなので,(1)管理サーバーで台本からメタデータを自動的に作成できる,(2)流通データ量が小さい,(3)視聴側で映像コンテンツのカスタマイズができるなどの特徴を持つ。
  • 映像オブジェクトの軌跡画像合成装置,映像オブジェクトの軌跡画像表示装置およびそのプログラム ↓概要

    概要
    本発明は,特定の位置から打たれたボールを追尾しながら撮影したカメラ(ボールフォローカメラ)の映像上にそのボールの軌跡を重ねて表示する技術である。複数台のカメラを必要とせず,姿勢情報(カメラパラメーター)が計測可能なカメラ1台のみで動作するので運用性は優れている。また,ボール位置を3次元空間上で予測する機能を備えており,手動操作を伴わずに軌跡を描画できる。この技術はゴルフ中継番組におけるティーショットの軌跡表示等に利用可能である。