No.107 2008年1月発行

素材伝送システム 特集号

※概要のみ公開しています。

巻頭言

  • 素材伝送システム特集号に寄せて
    大槻 知明 / 慶應義塾大学理工学部情報工学科 准教授
    ↓概要

    概要
    近年,インターネットの普及や通信・放送のデジタル化に伴い,放送と通信の融合が急速に進展している。これは,すべての情報をデジタル情報として一元的に扱うことができるようになってきたことが大きい。放送・通信ともに,ユーザーが望む有益な情報を提供することが,その大きな目標である。「いつでも」,「どこでも」,「誰でも」,「何でも」をキーワードとして,これまでさまざまな研究・開発が進められてきた。また,放送・通信の融合,インターネットの普及に伴い,「どんなメディアを通しても」といった新たなキーワードも加わった。これらのキーワードは,これからも重要であり続けるだろう。これらに加えて,今後の重要なキーワードとして,人間の感性に直結する「美しい画像」をあげたい。誰もがさまざまなコンテンツを,より精細な美しい画像で見たいと思うだろう。NHK放送技術研究所で開発されたハイビジョンやスーパーハイビジョンの画像を見れば,その美しさ,繊細さに心を奪われる。「美しい画像」に対する人間の欲求は,近年のディスプレーの開発・売り上げの伸びを見ても明らかである。「美しい画像」に対する欲求は,今後も電機業界の牽引(けんいん)役であり続け,また,これからの放送・通信の研究・開発も牽引していくであろう。

解説・報告

  • ミリ波素材伝送技術の歴史と展望
    野本 俊裕 / システム
    ↓概要

    概要
    ミリ波を使ったハイビジョンの素材伝送技術の開発の歴史は古く,1980年代にさかのぼる。当時は,アナログの全盛期であり情報量の多いハイビジョン信号を伝送するためにはミリ波が不可欠であった。しかし,1990年代半ばになるとデジタル信号の圧縮符号化技術の急速な進展により伝送帯域の狭いマイクロ波帯でもハイビジョンが伝送できるようになり,マイクロ波帯の素材伝送装置が多用されるようになっていった。その一方で,デジタル圧縮に伴う符号化遅延は大きな問題であり,低遅延映像の伝送が可能なミリ波が再びクローズアップされるようになってきている。ミリ波の伝送容量は大きく,将来のスーパーハイビジョン伝送も期待される。そこで,本稿ではミリ波素材伝送技術の歴史と今後の展望について簡単に述べる。
  • MIMO伝送技術とミリ波モバイルカメラへの応用
    鈴木 慎一 / システム、中川 孝之 / システム、池田 哲臣 / システム
    ↓概要

    概要
    当所では無線素材回線の容量の拡大および高信頼性を確保する技術の研究を進めている。これらを両立させるためには,複数の送受信アンテナを用いてダイバーシティ効果(複数の送信アンテナまたは受信アンテナを用いる方式で,干渉除去を行うことにより得られる復調後の誤りを低減する効果。)を得るMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)伝送技術が有効である。本稿では,MIMO伝送技術と移動伝送に適したOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式を組み合わせた伝送方式について,その変調方式や伝送特性などを解説するとともに,ミリ波を用いたワイヤレスカメラ(ミリ波モバイルカメラ)へのMIMO伝送技術の応用について述べる。

論 文

  • スタジオにおけるミリ波帯電波伝搬特性
    中川 孝之 / システム、池田 哲臣 / システム
    ↓概要

    概要
    TVスタジオでの本格利用も可能なハイビジョンワイヤレスカメラの伝送方式の検討を行うために,50,100および150坪級のスタジオにおいて55GHz帯の遅延プロファイルを測定し,レイトレーシング法による計算機シミュレーションと,併せて行ったスタジオのサイズとr.m.s.(rootmean square:2乗平均)遅延スプレッドの解析結果について述べる。次に,見通し環境でのアンテナ間隔とMIMOチャンネル特性について計算機シミュレーションにより解析を行い,スタジオのような閉空間で反射波が受信される環境では,直接波のみが受信される場合と比較してMIMOの伝送特性が大幅に改善されることを示す。
  • 到来方向推定を用いた自動追尾受信装置
    光山 和彦 / システム、 鴨田 浩和 / システム、 池田 哲臣 / システム
    ↓概要

    概要
    高品質の映像素材を無線伝送するマイクロ波帯FPU(Field Pickup Unit)は固定伝送に限らず,ワイヤレスカメラなどの移動中継でも利用されている。しかしながら,800MHz帯に比べて大きな伝搬損を伴う。この伝搬損を補う有効な方法の1つが利得の高い指向性アンテナを用いた追尾受信方式である。筆者らは,アンテナのビーム制御を電子的に行うフェーズドアレイアンテナに電波到来方向推定を組み合わせた自動追尾受信装置をマイクロ波帯FPUの受信高周波部として用いる方式を提案する。
    本稿では電波到来方向推定法の原理について述べ,室内実験で伝搬路条件を変えた場合の推定誤差の検証を行う。次に,試作した装置の追尾受信性能を野外実験で評価する。最後に,実際の番組中継で使用した実例をあげる。
  • 放送素材伝送用展開型メッシュ反射鏡アンテナの設計
    中澤 進 / システム、 小郷 直人 / システム、 田中 祥次 / システム、 正源 和義 / システム、 野本 俊裕 / システム
    ↓概要

    概要
    FPU(Field Pickup Unit:中継用伝送装置)を緊急・災害報道に使用する場合には機動性に富んでいることが望まれる。従来の金属製パラボラアンテナに替わり,反射鏡面材料を金属メッシュとし,傘のように折り畳み・展開が可能な構造とすることが有効な手段である。筆者らは,展開型メッシュ反射鏡アンテナを提案する。本稿では,展開型メッシュ反射鏡の設計を行い,反射鏡面分割数と利得低下の関係などを評価し,メッシュ反射鏡面を実用化する上での設計指針を示す。

研究所の動き

  • 翻訳パレット ~効率的で品質の良い翻訳作業のために~ ↓概要

    概要
    NHKでは海外向けサービス「NHKワールド」・国内向けの2か国語放送・携帯向け外国語ニュースサービスなどのために,毎日多くの外国語番組を制作している。これらの番組の原稿は,一般に,日本語で書かれた原稿を翻訳者が翻訳して作成している。技研では,このような翻訳作業を効率的に,かつ,品質よく行うためのコンピューターによる支援技術の研究を進めている。
  • 頭部伝達関数 ~手軽に楽しめる高臨場感音響を目指して~ ↓概要

    概要
    技研では高臨場感音響の研究を進めている。まるでその場にいるかのような高い臨場感を感じてもらうためには,人が音を知覚する仕組みをうまく利用する必要がある。今回は,人の知覚の仕組みをとらえた技術「頭部伝達関数」について紹介する。

発明と考案

  • メッシュ展開アンテナおよび格子状メッシュ反射鏡面の製造方法 ↓概要

    概要
    本発明は,電波反射面として金属の細線で形成したメッシュ材料を用いて,収納・展開することができる展開型メッシュ反射鏡アンテナおよびメッシュ反射鏡面の製造方法に関する技術である。収納・展開することができる携行用アンテナをFPUなどで用いるためには,反射鏡面が損傷した際には交換が容易に行える構造が望ましい。本発明によるメッシュアンテナはメッシュ反射鏡面のみの交換が容易で,反射鏡面を交換したときに簡単な調整でパラボラ形状を再現できるという特徴がある。
  • 電波到来方向推定装置及びそれを用いたアレーアンテナシステム ↓概要

    概要
    本発明はOFDM方式の信号に対して適用するもので,電波の到来方向を推定し,その方向にアンテナビームを向けるアレイアンテナシステムに関するものである。マルチパスが存在する伝搬環境においても,少ないアンテナ素子数で,高い精度の電波到来方向の推定が可能となる。