石田 大輔
「二回り目」
5月21日(月)
日米通算100勝目をかけた現地21日のマリナーズ戦の登板から、ダルビッシュの登板はふた二回り目を迎えることになる。
1年生投手のダルビッシュが20日現在、8試合の登板で6勝1敗、防御率2、60をマークしていることは大きく違う日米野球環境の中で、適応能力の高さを示していることになるが、ダルビッシュの真のポテンシャルから考えれば、適応の段階はまだ70%ほどであろう。
もし、残りの30%がコンスタントに表現出来るようになれば、サイヤング賞も夢ではないと感じる。
しかし、ここから立ちはだかる大きな壁、乗り越えなければならない“真のメジャーの壁”が存在するのも事実だ。
一つ目が体調、コンディショニングの維持だ。
過密日程に加え、時差が存在し、場所により大きく気候が違う中で一年間をプレーすることは、じわじわと体力を奪っていく。
「俺、日本時代に体力的にきついなんて思ったことは一度もなかったけれど、ここに来たら、まず体調維持との戦いだよね。こいつらの体力は半端じゃないよ」
10年前、メジャー1年生、28歳だった松井秀喜の言葉だ。
6勝目を挙げた16日のアスレティックス戦をテレビで見た方ならば、ダルビッシュの投球フォームの変化に気付かれたと思う。
重心が高い、いわゆる立ち投げだった。
春のキャンプからメジャーの固いマウンドで投げてきたため、下半身に強い張りが出てきたのだろう。
多くの投手ならば、下半身が言うことを聞いてくれない時の結果は厳しいものになるが、ダルビッシュは下半身に負担の少ない立ち投げで対応し、結果まで残してしまった。
引き出しの多さと器用さを感じるが、何よりも高いポテンシャルを持つから出来る芸当だ。
ダルビッシュならば、体力面で過酷な米国の野球も乗り越えていけるかもしれない。
そう思えるマウンドだった。
さて、春のキャンプからここまで、ダルビッシュが向き合ってきたことは大半が自分との戦いだった。
己が表現出来るか、出来ないか。
その中で、ある程度の手応えはつかんできただろう。
しかし、これからは違うものが出てくる。
それが“二回り目”である。
対戦打者はスカウトから克明なデータをもらう。
イニング、カウント、状況別の詳細な配球データである。
それをもとにビデオで映像を何度も見る。
これが一般的な対処法となるが、これはあくまでも打者にとっては与えられたものに過ぎない。
打者にとって一番重要なものは各球種の軌道をバッターボックスに立ち、自分の目で見ることにある。
「まだ1試合だけだ」。
11日の対戦でダルビッシュに3打数無安打に抑えられたエンジェルスのアルバート・プーホルズの試合後のコメントだが、負け惜しみだけではない。
これには「これからの対戦を見ておけ」の強い意志が込められている。
打者にとって、二回り目の対戦は与えられたデータをバッターボックスに入って確認する作業だ。
だから、どうしても最初の対戦は投手有利となる。
しかし、二回り目となれば、打者たちは球種によって違うリリースポイントの位置を把握し、ボールの軌道をイメージできるようになる。
その上で用意された配球データがある。
打者の持つ情報量が増え、余裕が生まれる。
だが、それは投手とて同じことが言える。
「打者も僕のことをわかるかも知れませんが、僕も打者のことはわかるようになるわけですからね」
ちゃめっ気たっぷりの笑顔でこう語ったのは17年前、当時2
6歳のルーキー投手。
全米に旋風を巻き起こし、一年目にしてオールスターの先発投手陣にまで昇りつめた野茂英雄の言葉だ。
ダルビッシュ有、二回り目の投球に注目したい。
【著者】石田大輔
アメリカ在住10年以上のベースボールジャーナリスト。
野茂英雄投手のメジャー挑戦以降、すべての日本人メジャーリーガーの取材を行っている。
野球選手と同じ空気を吸うことを何より好む。
趣味は料理とゴルフ、そして車。