長谷川 滋利
長谷川滋利のメジャーリーグ通信〈23〉ダルビッシュ投手の登板について
4月29日(日)
「ダルビッシュ投手大丈夫かぁ?」とみなさんも心配したと思われる最初の試合のときは、初回から明らかに調子はよくなかったように見えました。
緊張感からなのか、メジャーのボールにまだ慣れていないからなのか、とにかく思い通りにコントロールできなかったように見えました。
私は一番の原因はボールの違いだと思います。
日本のボールと、アメリカのボールは明らかに違いがあります。ボールの大きさはアメリカの方が大きく感じますが、ただそれはあまり問題にはなりません。
一番の問題は滑りやすいということです。
私が何も違和感じずに投げれるようになるにはおよそ1年かかりました。
現在、ダルビッシュ投手はロージンバックを左の腕につけて、汗と混ぜ合わせています。
ロージンは汗と混ざると滑り止めの効果をよりよくします。
ただ、それではなかなか十分ではありません。
私からのアドバイスとしてはむずかしいことですが、とにかくボールが滑るということを意識しすぎないことですね。
滑ったら滑ったらでしかたがないと考えることです。
滑るという意識を持ち過ぎるとそのイメージで投げてしまいます。
1試合目に関しては、ダルビッシュ投手はそのようなイメージで投げているように見えました。
特にスライダー、カーブなどの曲げたい球は強いスピンをかけようとするのではなく、曲がりは悪くてもよいコース・高さに投げようとすればいいと思います。
キレのいい球よりもコースに決まる方がメジャーでは抑えることが出来るからです。
メジャー2戦目の登板は5回2/3、9安打2失点1自責点、4三振5四死球で、その試合も本人が納得できる投球はできませんでした。
ただ、前回に比べて工夫しているところも見られました。
環境もボールも違うメジャーの2戦目で完璧を求めるのは無理な話です。
この日の試合は、最初の登板での力が空回りした投球とは対照的に、かなり力を抜いて投げていました。
というか何か軟投派のピッチャーの投球のようになっていました。
それは一試合目からの反省の現れなのでしょうが、フォーシーム・ファーストボールはもう少し腕を振った方がよいです。
仮に2戦目も1戦目のように力を入れて投げたとしても、1戦目ほどコントロールが乱れることはなかったかもしれません。
精神と体のバランスが通常2戦目では1戦目よりよくなるからです。
それと、この試合で対戦したツインズはボールをよく見てコツコツと当ててくるタイプのチーム。
メジャーのバッターは個性豊かで選手によってバッターボックスでのアプローチを変えて来るのが通常ですが、このツインズとマネーボールで有名なアスレティックスは、チーム全体でピッチャーを攻略してきます。
この試合でもよくボールは見てくるし、大振りするよりもコンパクトにスイングしてきていました。
試合前にダルビッシュ投手のビデオを見て、多彩な変化球で抑えてくるのを予想して、大振りすればダルビッシュ投手の思うつぼになるので、できるだけコンパクトにスイングしてきたのでしょう。
逆にこのようなチームにはコーナーに決めようとするよりも、腕を振ったフォーシーム・ファーストボールと緩いカーブ、それに真ん中から落とすスプリットなどを擁して、球のスピードとキレで勝負するのが良いと思います。
私のように90マイル前後のファーストボールと、そこそこの変化球のキレでコーナーをつくタイプのピッチャーはこのようなチームには苦労しますが、ダルビッシュ投手の場合は95マイルのファーストボールと、鋭いキレの変化球があります。
少々コースは甘くなっても十分にドミネイトできていたでしょう。
これから先、対戦チームによって、強打してくるチームには少しスピードを落としてもコーナーを突こうとするピッチング、変化球をうまく当ててくるようなチームにはスピードとキレで勝負するという2つのパターンのピッチングが必要となってくるかもしれません。
3試合目ので登板では、6回1/3を投げて、2安打、1失点、5四球、5奪三振。
メジャーでの2勝目を挙げました。
四球の多さは少し気になりましたが、デトロイト・タイガースの強打線を2安打に抑えたのはすばらしいと思います。
試合の前半はフォーシーム・ファーストボールと緩いカーブで攻め、後半は豊富な球種を生かした内容でした。
本人も納得の内容だったようです。
そして、先日の対ヤンキース戦の4回目の登板を見たところ、ダルビッシュ投手はかなりのペースでメジャーの野球に対応してきいるようです。
抜け球は1戦目から比べると格段に減っていました。
前回の登板のときにトレアルバと組んで、ピッチングの配球もかわり、フォーシームとカーブの組み合わせでうまく抑えていましたが、そのピッチングが4試合目の登板時も初回から見られました。
今回のキャッチャーはナポリでしたが、バランスよく配球ができていたと思います。
このことから、2人のキャッチャーとの普段のコミニケーションもうまく取れている様子がうかがえます。
そして、何より今回すごいと思ったのは100球を超えてもスピードが落ちるどころか、逆に上がってきたことです。
年齢が若いこともあるでしょうが、日本で球数を多く投げてきたことが生きているのかもしれません。
アメリカで育った投手はみんな子供の頃からピッチングリミットを設けられているので、100球を超えるとまず投げ続けることはないので、どうしてもその辺りになってくると球速も落ちていきます。
テキサス・レンジャーズのオーナーであるノーラン・ライアンが選手だった時代(20年ほど前)はダルビッシュ投手のように120球を超えても投げ続けるのは当たり前でした。
ある意味、ダルビッシュ投手のことを頼もしく思います。
ただ、心配なのは日本では中5日から6日で投げていたのが、今は中4日で投げていること。
レンジャーズの首脳陣もシーズン途中でローテーションを1回ぐらい飛ばすことも考えるかもしれませんが、チームからそういう話がなければ、ダルビッシュ投手自身からも、ちょっと体が疲れてきたと思ったらローテーションを飛ばすことを考えた方がいいかもしれません。
レンジャーズは今年も優勝を目指すチームですから、短期的なことよりチームの長期的なことを考えた方がよいです。
100球を超えても投げ続けるダルビッシュ投手はブルペン投手を休ませることができるためにすでにチームに貢献しているといえます。
ローテーションを1度飛ばすくらい、彼が故障してしまうことを考えればどうということはないでしょう。
最初の試合を見たときは私は10勝から20勝できるピッチャーというかなり幅のある評価をしました。
10勝だともちろん周りの期待を裏切ることとになります。
20勝だと、それこそサイヤング賞の可能性も出て来ます。
ダルビッシュ投手に関して、かなり心配事は減ってきましたが、もちろんこのままトントン拍子にいくほどメジャーはあまくないでしょう。
また、周りの雑音が気になるときもあるでしょう。
ですが、少々の困難は彼の若さと対応力で乗り越えていけるでしょう。
【著者】長谷川 滋利(はせがわ しげとし)
1990年にドラフト一位でオリックスに入団。1997年からは9年間メジャーで活躍。
現在はアメリカ在住。15年間にわたった日米での選手経験を活かし、
自身のホームページを通じて、野球評論など行うかたわら、
少年野球やトレーニングの方法を指導している。