高橋 洋一郎
『ロンバルディの里帰り:第45回スーパーボウル』
2月8日(火)
ウィスコンシン州グリーンベイ市。
アメリカ中部の大都市イリノイ州シカゴからミシガン湖に沿って北へおよそ350キロのところにある小さな街だ。
ここに本拠地を置くNFLチーム、グリーンベイ・パッカーズが現地時間2月6日テキサス州アーリントンで行われた第45回スーパーボウルでピッツバーグ・スティーラーズを31対25で破り、通算4度目の優勝、今季NFLの頂点に立った。
このパッカーズ、NFLで、というよりアメリカのプロスポーツチームで唯一、市民が株主となって運営されている公営のチーム、いわゆる市民球団だ。
言ってみれば“オーナー”は株を所有するグリーンベイ市民(現在では住居制限はなく、誰でも株を所有することができるため市民に限らない)、それゆえに人口10万人あまりのグリーンベイという小さな街でもその存続が可能なわけである。
そんな「おらが街の」というより「おらの」チーム、その歴史は古く、栄光に包まれている。
1919年に創設。
1966年度に始まったスーパーボウルの初代、そして翌年度第2回の王者、また1996年度の第31回大会とそれまで3回の優勝を誇り、第1、2回大会を制したチームを率いた名将ロンバルディ監督の名は、現在スーパーボウル優勝チームに授与されるトロフィーの名に冠されているくらいである。
一方のピッツバーグ・スティーラーズ、こちらもNFLではエリートチームの一つに数えられる。
通算8回目となる今回のスーパーボウル出場はダラス・カウボーイズと並んでリーグ最多タイ、なかでも6回の優勝はリーグ最多である。
このスティーラーズもチームの運営という面では、ほかのチームとはやや一線を画している。
1933年の創設以来、これまでずっとルーニー家がオーナー、もちろんプロ球団である以上、営利の追求は当たり前のことだが、露骨な投機やビジネスを目的とした売却、転売などとはまったく無縁であった。
それゆえチームとしての方針が一貫しており、監督、いわゆるヘッドコーチの交代も頻繁に起こったりはしない。
1969年に就任したチャック・ノル・ヘッドコーチは1991年まで23シーズン(その間4度のスーパーボウル制覇)、92年から2006年までの15シーズンはビル・カーワー(同1度)が長期間に渡って指揮をとり、2007年からは現在のマイク・トムリン、この40年間でたったの3人だ。
しかもそのような伝統を重んじるチームは、えてしてその分、人事の面でも保守的になりそうなものだが、そうではないことは、07年に若干34歳のトムリンが抜てきされたことをみればわかるだろう。
そのトムリンは就任2季目に、早くもチームをスーパーボウル制覇に導き、史上最年少の優勝監督となっている。
つまり方針に対して、確固たる結果がしっかりと伴っているわけである。
今回のスーパーボウルはいわゆるプロスポーツのチームとしてはやや異色といってもいい存在、しかもどちらも伝統と栄光、そして実績の面ではエリートチーム同士の戦いとなったわけである。
とはいえさすがに土地柄なのか、両チームのファン気質には大分の差があるようで、スティーラーズのファンは何度勝っても勝ち足らない、勝利にどん欲な激烈型、一方パッカーズファンはそれに比べてもっとオールドタイマー的な落ち着きと言うか、エキサイト度はだいぶ低いようだ。
名物応援グッズである黄色い“テリブルタオル(恐ろしいタオル)”を振るスティーラーズファンの中には殺気を感じさせるシリアスさがあるが、ウィスコンシン州がチーズで有名だからと、大きなこちらも黄色いチーズを頭に乗せた“チーズヘッド”といわれる帽子をかぶったパッカーズファンには、何となく牧歌的な、親しみさえ感じられる。
試合は最後まで勝利の行方の分からない好ゲームとなった。 前半はパッカーズが前評判どおりの攻撃力を見せつけ、一時は21対3と大きくリードを奪い、そのままワンサイドとなってしまうかに見えた。
しかし、そこは場慣れしているスティーラーズ、前半終了間際にQBロスリスバーガーがタッチダウンパスを決め、21対10というスコアで後半戦に入る。
後半に入ると今度はパッカーズのディフェンスが機能しなくなり、試合の流れは完全にスティーラーズへ。
第4クオーター残り7分以上残して28対25と3点差、その勢いのままあっさり試合はひっくり返るかに見えた。
パッカーズは、NFC(ナショナル・フットボール・カンファレンス)第6シード、つまりカンファレンス最後の一枠でプレイオフに出場、第3シードのフィラデルフィア・イーグルス、第1シードのアトランタ・ファルコンズ、そして第2シードのシカゴ・ベアーズと、次々に上位チームを“食って”史上初となる第6シードからのスーパーボウルに駒を進めた。
最後の最後、ここで折れることはなかった。
第4クオーター、31対25、残り1分59秒。
ここからスティーラーズの捨て身のロングパス攻撃をディフェンス陣が防ぎきり、そのまま試合終了。
1996年度の第31回大会以来14年ぶりにロンバルディ・トロフィーは地元に帰ることになった。
グリーンベイ全市民の出迎えを受けることになるだろう。
2009年度のグリーンベイ市の推定人口は101,412。(アメリカ国勢調査局調べ)
ちなみに今回のスーパーボウルの総入場者数は10万3219人だった。
14年ぶりとなるロンバルディの里帰り。
久しぶりの帰省だ、しばらくゆっくりしたいのではないだろうか。
【著者】高橋洋一郎
1990年よりアメリカ在住。
スポーツは”するもの”ではなく”観るもの”としっかり割り切る、実はインドア派。