岩だらけだったリュウグウ

小惑星探査機はやぶさ2は、謎に満ちたC型と呼ばれる小惑星に行って調査するだけでなく、ここからサンプルを取得しようという野心的なミッションです。はやぶさミッションで蓄積された科学的な知見や工学技術を発展させて設計されたもので、2014年に打ち上げられました。計画は順調に進み、2018年の6月末に予定通り探査対象である小惑星リュウグウに到着、リュウグウのリモートセンシング観測を始めました。

リュウグウは地球に接近する軌道をもつ近地球型小惑星の1つです。地上の望遠鏡を用いた観測で推定されていたとおり、大きさは約900 m程度とたいへん小さな天体です。リュウグウの太陽光の反射率は、数パーセント程度しかありません。そのため私たちがリュウグウの傍に行って観察したら、真っ黒な天体だと思うでしょう。

太陽光の反射を、波長ごとにどの程度の強さがあるか調べることを、反射スペクトル分析と呼びます。リュウグウの反射スペクトルの特徴が炭素質コンドライト隕石とよく似ていることから、リュウグウはC型小惑星に分類されています。以前述べましたが、このC型という名前は、有機物などの形で炭素(カーボン)が多く含まれていると信じられていることから来ています。

そのためリュウグウは太陽系が誕生した約45億年前から大きな変化はしておらず、太陽系形成初期の情報を保存していると考えられいます。こうした理由から、リュウグウを探査することで、我々人類や生命体の起源に関して手がかりがえられるかもしれないと期待されているのです。

リュウグウにおいて観測を開始してすぐ、はやぶさ2チームは大きな問題点に直面していることに気が付きました。表面に岩の塊がとにかく多いのです。もともとの計画では、2018年の10月ごろまでに表面に着陸地点を決定し、そこにタッチダウンしてサンプルを採取することを予定していました。着陸のためには平らな場所を探し出す必要があります。ところがリュウグウは岩だらけで、平らな場所が全く見当たらないのです。

7月に入ると比較的遠方から撮影されたものとはいえ、リュウグウの表面画像が多く得られました。ゴツゴツとした表面の画像から岩塊が多いことはすぐにわかりましたが、これは2つの意味で意外なものでした。ひとつは、そのごつごつした岩塊の分布に地域差があまり無いということです。イトカワやエロスなどには、岩塊が多い部分と少ない部分とが、かなり明瞭に見つかりました。しかしリュウグウはそうではなくて、どこもかしこも岩塊だらけだったのです。

もうひとつは、岩塊の数です。科学チームでは手分けして画像に見える全ての岩塊を数え、岩塊の大きさに関する頻度分布を得ました。これを他の小惑星と比べたところ、比較的大きな岩塊がリュウグウに多いことが統計的に示されたのです。

そのため予定を延期して、より詳しく表面を調査することとなりました。そこではやぶさ2は何度か高度を下げて、リュウグウ表面をより高い解像度で調べたのです。するとさらに多くの岩塊が見つかりました。着陸に適した、細かい砂で覆われた平らな場所があるかと思っていたら全く見つかりません。

このころ、はやぶさ2に搭載されていたミネルバ2、マスコットという名前の小さなロボットをリュウグウの上空で分離し、無事地表面に送り届けることができました。これらのロボットは見事に着地に成功し、貴重な表面の画像を何枚も取得することができました。驚いたことに、そのどの画像を調べても、リュウグウの表面は比較的大きな岩塊で覆われていて、砂が全く存在していないようなのです。科学チームでは、ミリメートルくらいの大きさの砂がリュウグウ表面にはかなり存在するだろうと予想していました。しかしその予想に反し、リュウグウ表面は想像以上に岩だらけだったのです。

※リュウグウの全体像。赤青のメガネ(右目が青)で見ると立体的に見えるように加工したもの。

宮本英昭
東京大学大学院工学系研究科教授/ TeNQ リサーチセンター長