彗星の探査

小惑星と彗星とは境界があいまいで、たとえば揮発性成分が枯渇した彗星は小惑星と観測上区別できないことを、以前ご紹介しました。しかしかつては彗星と小惑星とは、軌道要素の意味でも化学組成の意味でも大きく異なっていると考えられていました。

探査機によって彗星がはじめて調べられたのは1985年、アイス探査機によるジャコビニ・ツィナー彗星の探査でした。アイス探査機はさらに、日本のさきがけ探査機、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)のジオット探査機らとともに、ハレー彗星の観測も行っています。これらの成果から、彗星は氷と塵が集まったものと解釈されました。太陽系が形成された当時、太陽に近い領域には難揮発性成分が、太陽から遠い領域には揮発性成分が多く存在しており、その遠い揮発性成分に富む領域から飛来する小さな天体が彗星である、というわけです。2001年にはディープ・スペース1号がボレリー彗星の核の撮像に成功し、その歪な形状が驚きを与え、やはり彗星は特殊な天体という印象を与えました

2004年にNASAのスターダスト探査機がヴィルト第2彗星に接近した際に、この彗星の尾の部分(コマ)の中を突っ切るように高速でフライバイを行いました。そのとき、エアロジェルを充填した特殊なサンプル回収機構を用意していたので、コマの中で次々と衝突してくるコマの構成物(塵)を、数多く捕獲することができたのです。2006年に地球へと持ち帰ったこのサンプルは、人類が能動的に取得した地球外物質という意味で、月に続いて2例目となりました。

このサンプルの高精度解析を通じて、多くの新発見がもたらされました。小惑星帯からくる隕石にある鉱物と同じように、太陽系の平均的な同位体組成を持つ塵が大半であることと、難揮発性の包有物やコンドリュールと呼ばれる高温を経験した構造が含まれていることもわかったのです。つまり太陽系の歴史の初期段階で、太陽系の内側から外側へかなり大規模な物質の移動が生じていたのでしょう。また多くの無水ケイ酸塩鉱物がみつかったことから、水が大量に存在していても、水質変成を必ずしも受けないことが判明したのも、興味深いところです。

2005年には、NASAのディープ・インパクト探査機がテンペル第1彗星に衝突物をぶつけることに成功し、その際の観測からこの彗星核も氷と岩石の混合物であることが確かめられました。その後、同じ機体を利用しエポキシ計画と名前を変えたプロジェクトでハートレー第2彗星が観測されました。こうした観測から、彗星が地球の海水の起源である可能性が指摘されるようになりました。しかし興味深いことに、ESAのロゼッタ探査機がチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を2014年に観測したところ、そこで放出されている水の重水素と呼ばれる成分の量を現すD/H比が地球と大きく異なっていたのです。つまりこの仮説を裏付けることは、できませんでした。

地球の海水の起源のもうひとつの可能性は、C型小惑星を起源とするというものです。C型小惑星のひとつである小惑星リュウグウの探査は、こうした側面からも極めて重要です。彗星のなかには小惑星と似た軌道をもつものもあり、小惑星帯に存在しながら彗星のような尾が認められる小惑星も見つかっています。さて、リュウグウに水の痕跡が見つかるのか?あるとしたらどのような形なのか?研究者らはこうした興味を持って「はやぶさ2」による観測を続けています。

テンペル第1彗星の核。ディープインパクト探査機がとらえたテンペル第1彗星の核で、衝突体が衝突した瞬間の写真。

宮本英昭
東京大学大学院工学系研究科教授/ TeNQ リサーチセンター長