瓦礫の集合体

はやぶさ探査機がイトカワに到着するより前、小惑星に関して残っていた大きな疑問の一つは、理論的に想定される「沢山の岩塊の集合体」である小惑星が本当に存在するのか?というものでした。

2000年代には既に、小惑星は2万個以上みつかっていました。それらの軌道が太陽系内や小惑星帯の中で均一に分布していないことや、似通った軌道を持つ幾つかの集まりがあることから、太陽系46億年の歴史の中で小惑星は互いに衝突し、ときに破壊され、ときに軌道が変る、といったことを繰り返したと予想できます。

一方で破片が互いの重力で近づき、付着することもあるでしょう。すると破片が集積してできたような小惑星も、無数に存在すると予想できます。これを瓦礫(ラブル)が積み重なる(パイル)という意味で、ラブルパイル構造を持つ天体と呼んでいます。

ラブルパイル構造を持つならば、天体内部に多くの空隙を持つはずです。そのため小惑星マティルドの密度がとても小さいと推定された際、これはラブルパイル構造を示唆すると認識されました。ですがこの天体は残念ながら、一部が低い解像度で撮像されただけでしたから、研究者らはいまひとつ確証を持てずにいたのです。

そんな中で決定的な仕事をしたのが、はやぶさ探査機でした。まず小惑星イトカワの密度が水の2倍弱しか無いことを明らかにしました。天体近傍に探査機がいると密度の測定精度が向上しますので、計測は信頼に足るものでした。

さらにイトカワの構成物質が、かんらん石や輝石といったケイ酸塩鉱物(火山の岩石にごく普通に含まれている鉱物)でできていることも確かめました。これでイトカワ全体の空隙率がかなり正確に求まったのですが、これが45%もあったのです。小惑星アイダや小惑星エロスの空隙率の推定値(約30%)よりも、かなり大きな値です。

さらにイトカワ接近時に撮影した画像から、表面がとにかく岩だらけであることも明らかになりました。この岩のほとんどが、重力方向に対して安定した姿勢を持ち、しかも大きな粒子と小さな粒子とが地域的に分かれて存在していたのです。これはイトカワ全体が無数の岩塊で作られており、振動などにより粒子が流動して、大きな粒子が上に移動するブラジルナッツ効果が生じたと考えればうまく説明できます。

こうした根拠から、小惑星イトカワは、「ラブルパイル構造」を持つことが確実となりました。理論的に存在が指摘されていた「ラブルパイル構造」が、はやぶさ探査機によってついに詳しく記載されたのです。ちなみにアイダやエロスは、「ひび割れした大きな岩塊」なのでしょう。

はやぶさ2探査機が現在調査している小惑星リュウグウは、マティルドと同じC型に分類される小天体で、これまた密度が大変低いと推定されています。このことから、リュウグウもやはりラブルパイル構造を持つと考える人が多いようです。

小惑星「リュウグウ」:はやぶさ2探査機が小惑星「リュウグウ」を距離20kmで撮像したもの。「イトカワ」と同様に、密度の低いラブルパイル構造ではないかと多くの研究者が予想している

宮本英昭
東京大学大学院工学系研究科教授/ TeNQ リサーチセンター長