はやぶさ探査機の活躍

前回ご紹介しましたように小惑星探査が進んだ結果、一般的に小惑星は起伏に富む荒々しい地形を持つことがわかってきました。それほど驚くべきことではありません。小惑星は一つの大きな岩石か、いくつかの岩塊が集まったものでしょうから、地球でみられる岩や岩山と同じくらい起伏に富んでいても不思議ではないのです。

ただし起伏が大きいとなると、着陸しサンプルを取得するのは困難と予想されます。それでも、以前の探査で解決しなかった、大きな疑問が残されていたため、サンプル採取が必要でした。

その疑問とは、隕石と小惑星との関係です。隕石の岩石学的な特徴から、ほとんどの隕石は小惑星から来たのだろう、とする考えが一般的ではありました。偶然撮影された落下中の隕石の写真から軌道を逆にたどると小惑星帯に行きつく、という根拠があったのですが、強い反論もありました。

それは反射分光特性(太陽光の波長ごとの反射の度合い)の不一致です。地球に一番高い頻度で落ちてきそうな地球近傍にある小惑星は、ほとんどがS型に分類されます。その反射分光特性が、地上でもっとも頻繁に見つかる隕石の反射分光特性と、少し異なっているのです。この議論に決着をつけるには、困難な直接サンプリングが必要でした。

こうした状況下であった2003年、日本の宇宙科学研究所(現在はJAXA)は探査機はやぶさを打ち上げました。探査対象である小惑星イトカワに到着したのは、2005年です。

小惑星イトカワはS型に分類されていました。はやぶさ探査機は、そこから直接サンプルを取得することに成功したのです。人類が地球外物質を能動的に取得したという意味では、月とヴィルト第2彗星に続いて3番目、小惑星からは初めての快挙でした。

その途中でさまざまなドラマが生まれたことは、新聞記事や映画などでご記憶の方も多いかと思います。科学として大切だったことは、この貴重なサンプルを無事に地球に持ち帰り高精度分析することで、これがLLコンドライトと呼ばれる比較的一般的な隕石と一致すると認められたことです。隕石が小惑星のかけらであることが、誰の目からみても明らかになった瞬間でした。

はやぶさの功績はとても大きなものでした。隕石に関する物質科学的な研究、すなわち微量元素や同位体組成など、物質があるがゆえに行える超高精度分析と、精度は落ちても格段に広い空間スケールを網羅できる天文学的な観測とが、結びついたのです。

小惑星のサンプルが隕石として大量に勝手に地球に降ってきていた、ということなのですから、これで小惑星科学の見通しが大変良くなりました。次は隕石としてあまり落ちてこないような、より揮発性成分に富むC型小惑星がターゲットとなります。こうした背景から、はやぶさ2探査機は、C型小惑星である小惑星リュウグウに向かうこととなりました。

ちなみに謎であった反射分光特性の違いは、実は構成する物質の違いを示しているのではなくて、宇宙風化など天体のごく表面的な影響が原因であったことがわかりました。これもそう予想する研究が日本の研究者を中心に進められていたので、小惑星表面に関する理解がかなり進んだと言えます。

※小惑星イトカワを北極側からみた写真。はやぶさ特集号となった雑誌サイエンスの表紙を飾った。

宮本英昭
東京大学大学院工学系研究科教授/ TeNQ リサーチセンター長