小惑星探査の幕開け

太陽系の探査は1960年代に始まりましたが、当初は月や火星など大きな天体が探査対象でした。そのため小惑星にも目が向けられるようになったのは、かなり最近になってからのことです。

1991年にガリレオ探査機が小惑星ガスプラの近くを通過し、この天体の撮像に成功しました。これが世界初の小惑星近傍探査です。ガリレオ探査機は続けて1993年にも小惑星アイダ(イダとも呼ばれます)の観測にも成功しています。

ちなみにこのガリレオ探査機の主な目的は、木星やその衛星の探査でした。1995年から約8年間、木星系を探査し、例えば木星大気に水が無くアンモニアの雲があること、衛星イオが地球の約100倍もの規模の火山活動を持つこと、衛星エウロパの地下に液体の海が存在することなど、さまざまな大発見をしています。この大成功した探査機が木星に向かう際に、いわば「ついで」に小惑星の観測を行ったのです。

ガリレオが撮影した小惑星アイダ(直径約30km)の写真には、よく見ると直径約1kmの衛星(ダクティルと名付けられました)が映り込んでいて、関係者らを驚かせました。そのため、その後の小惑星探査では、衛星の有無が慎重に調査されるようになりました。

小惑星を主たるターゲットとした最初の探査機は、ニア・シューメーカー探査機です。この探査機はまず1997年に、C型の小惑星マティルドに接近しました。

さて小惑星は大まかに分類すると、岩石質であろうと予想されているS型(石質という英語Stonyの頭文字から来ています)と、炭素を多く含むと予想されているC型(炭素質を表す英語Carbonaceousの頭文字から来ています)、それ以外にわけられます。小惑星の多くはC型なのですが、地球に近い小惑星はS型が多いことが知られています。

マティルドより前に観測された小惑星は、みなS型でしたから、小惑星マティルドは、最初に撮影されたC型小惑星となりました。予想通り小惑星マティルドは大変暗い天体で、太陽光を数パーセントしか反射しません。つまり肉眼でみればほぼ真っ黒です。しかもその密度は水のおよそ1.3倍しかありませんでした。

隕石の中には、マティルドと同じように真っ黒に見えるものがあるのですが、その密度はこれほど小さくないので、マティルドは空隙が非常に多く、例えばたくさんの石が積み重なってできたような構造(これを「ラブルパイル構造」などと言います)かもしれない、と言われました。しかしなんといっても、この天体の半分くらいしか撮影ができませんでしたから、この仮説に確証は持てないままでした。このあたりは、はやぶさ探査機や、はやぶさ2探査機の成果を理解する上で極めて重要なところです。詳しくは追ってご説明いたします。

ニア・シューメーカー探査機は2000年に、ついに小惑星エロス近傍の軌道に投入され、本格的な小惑星の接近観測に初めて成功しました。この天体はまるでピーナッツのような形をしており、天体の大きさの割に巨大なクレーターがいくつか見られる大変複雑な構造をしていました。それでもこのミッションの最後には、探査機を表面へ降下させ、なんとか地表面に降り通信を行うことに成功したので、ニア・シューメーカーは小惑星に軟着陸した、初の探査機となりました。

こうして舞台は整いました。あとはいよいよ本当に着地し、サンプルを取得することが期待されます。そこに華々しく登場したのが、日本のはやぶさ探査機です(続く)。

木星探査機ガリレオが1991年に撮影した小惑星ガスプラ。全体形状は不規則で、多数のクレーターが見られる。画像の長い部分で約18km。この観測により、小惑星がどのような見かけを持つ天体か、初めて明らかにされた。

宮本英昭
東京大学大学院工学系研究科教授/ TeNQ リサーチセンター長