穏やかな最期を迎えるには

番組紹介

なぜいま「老衰死」に注目したのか

65歳以上の高齢者が3千万人を超え、史上類を見ない超高齢社会に突入した日本。
医療の進歩とともに病を克服し、長寿化を成し遂げたいま、増え続けているのが「老衰死」です。
戦後一貫して減り続けてきた老衰死の数は、高齢者人口の増加とともに10年前から急増。
2014年には、75000人を超えて、統計を取り始めて以来過去最高となっています。
最後まで徹底した治療を行うよりも自然な死を受け入れるという考え方の広がりが
背景にあると見られています。「老衰死」とはどのような“死”なのか?その姿に迫ります。

“看取りの現場”を見つめる

「老衰死」とはどのような“死”か。寄り添う家族はどんな時間を過ごすか。
入居者の平均年齢が90歳を超える、都内の特別養護老人ホームを舞台に、
半年間に渡って看取りの現場を記録しました。

老衰のメカニズムに迫る

老いとともに、体が食べ物を受け付けなくなっていくのはなぜなのか。
人は亡くなるとき苦しくはないのか。
番組では最新の研究結果を詳しくお伝えします。

“死”をどう受け入れるのか ~動き出した欧米諸国~

最期まで自分らしく生きて、そして、死んでいきたい・・・。
穏やかな最期を迎えるためにはどうしたらいいのか。
海外では死について語るのを避けるのでなく、積極的に向き合う動きが広まっています。

データから考える「老衰」

老衰死とする年齢は?

番組では、「老衰死」を医師がどう捉えているのかを探るため、日本老年医学会の協力を得て、
5400人の医師を対象にアンケートを行い、1700人余りから回答を得ました。
医師の間でも、何歳以上を老衰死とするのか。意見が分かれました。
一番多かったのは「90歳以上」という回答でした。

老衰死は今後増えると思うか?

10年前から急増している老衰死ですが、アンケートでも半数を超える医師が
今後も老衰死が増えると答えています。

「老衰死」と診断することに対して、難しさや不安・葛藤を感じたことはありますか?

半数近くの医師が、不安や葛藤を感じていました。
定義が不明確であることや、高齢者の多くがさまざまな病気を抱えているため、
どの病気が亡くなった原因なのか、特定するのが難しい場合があるというのが理由です。

「老衰」にあたる対象者で、医療の差し控え、または撤退をしたことがありますか?

7割近くの医師が、差し控え、撤退を経験していると回答しました。
高齢者ケアについての日本老年医学会のガイドライン(2012年)でも、
「AHN(人工的な水分・栄養補給法)導入後も、
全身状態の悪化により、延命効果が見込まれない、
ないしは必要なQOLが保てなくなるなどの理由で、
本人にとって益とならなくなった場合、益となるかどうか疑わしくなった場合、
ANHの中止ないし減量を検討してもよい」という見解が示されています。

老衰死 男女・地域差は?

老衰で亡くなる人の割合を男女・都道府県別に比較しました。
高知県を除く46の都道府県で女性の方が老衰で亡くなる割合が高くなっていました。
老衰死の割合が高かったのは、男女ともに、静岡県、三重県でした。

「老衰」のメカニズム

老衰の過程で体に何が起きているのか


米 ジョンズホプキンス大学のフェダーコ教授は 老化に伴う細胞の減少が 臓器の萎縮につながると指摘
小腸内のじゅう毛やその周りにある筋肉が萎縮すると 栄養素をうまく吸収することができなくなるという
老化し分裂を止めた細胞の中では「炎症性サイトカイン」などの免疫物質が数多く作られる
それらが外に分泌されると 周囲の細胞も老化が促進され 慢性炎症が引き起こされることが明らかに
この現象は「SASP」(サスプ)と呼ばれ、近年の大きな研究テーマとなっている
慢性炎症は体の様々な機能を低下させる可能性が指摘されている。
“老いがもたらす炎症”は「老化(Aging)」と「炎症(Inflammation)」を組み合わせた造語、
「Inflammaging」(インフラメイジング)という新たな概念として提唱され、
老いがもたらす死の謎を解くカギとして注目されている

死が迫ったとき 苦しくはないのか?


老エディンバラ大学で高齢者の意識状態を研究しているマクルーリッチ教授
死が迫った高齢者の脳は炎症や萎縮により機能低下し 苦痛を感じることはなくなっていると指摘
胃ろうなどによる人工的な栄養補給をしなかった高齢者を対象に 追跡調査した世界の研究では
呼吸音や声の調子表情や筋肉の緊張などから どの程度不快感を感じているか亡くなるまで測定。
生存期間が短かったグループ、長期間生存したグループいずれも不快感が低い状態が
最後まで保たれていたことが明らかに

メッセージ

世田谷区立特別養護老人ホーム 芦花ホーム 医師 石飛幸三さんメッセージ

芦花ホームの常勤医を務める石飛幸三です。施設に勤めて10年になります。

多くの人が自分の“最期”の迎え方を真剣に考える時代になりました。医療技術の発達によって、命を延ばすさまざまな延命治療法が生まれ、そのことが、逆に家族や本人を悩ませることになっているのではと感じています。私たちは人生の終末期をどのように迎えればいいのか迷い道に入ってしまったのかもしれません。

施設では、本人や家族と話合いを続けながら、胃ろうなどの延命治療に頼るのではなく、自然の摂理を受け入れ、静かに最期を迎えてもらう取り組みをすすめてきました。入居者の皆さんが亡くなられる前には、次第に食べる量が減って、眠って、眠って最期は穏やかに息を引き取られます。私は老衰による安らかな最期を「平穏死」と呼んできました。

実は、施設に来るまで、自然な最期がこんなに穏やかだとは知りませんでした。40年以上外科医として、徹底した治療を続けてきました。“死”を遠ざけていたのは、医師である私自身だったのです。

施設ではいつも「ご本人もご家族も、みんなが平穏な気持ちで最期を迎えることが理想」と話しています。今回の番組が皆さんの大切な人の最期を考える一助となることを願っています。


ナレーション担当 樹木希林さん

樹木希林です。

NHKスペシャル「老衰死 穏やかな最期を迎えるには」のナレーションを担当しました。番組で紹介しているような形で最期を迎えることができたらとてもいいなと思いました。

私たちの暮らしの中に、“生”があるように“死”もあるんだと言うことを感じさせてくれる番組だと思います。やっぱり、“死”というのが見えにくくなった、そのことが、“死”ってとっても恐いものということになっちゃったんだと思います。大切なことは、今まで生きてきた人がきちんと亡くなっていくこと“最期の姿”を見せるということなんだなとも感じました。そういう役目を人間は持っているのかなと・・・。

私は、できれば、チューブにつながれるような形で延命治療を受け続けて亡くなるよりも、自宅で自然な形で亡くなりたいなと思いました。

ぜひ、皆さん、ご覧ください。