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未曾有の危機!? 予測不能な「異常気象」に挑む科学者たちの戦い

2017年12月4日

近年多発する、地球温暖化が背景にあるとみられる激しい気象現象。従来の観測データや経験に基づく予測技術では対応しきれないという「予測の限界」が、現代社会に「未曾有の危機」をもたらす可能性が明らかになってきた。人々の命を守るため「気象予測の限界」に挑む闘いに迫る。

わずかな水蒸気量の差が予測を困難に

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多くの犠牲者を出した、2017年7月の九州北部豪雨。およそ9時間で平年の2か月分を超える雨が降るという異常な事態は、事前の予測をはるかに超えるものだった。

これほどの豪雨になるとは知らされず、命の危険にさらされた久保山朝満(くぼやま・ともみつ)さん。あの日、朝の天気予報では、大雨という情報はなかったため、普段通り仕事に出かけたという。朝6時の時点で朝倉市周辺の日中の予測雨量は、1時間に最大16ミリ。「やや強い雨」程度と予想されていた。ところが昼過ぎ、たたきつけるような大粒の雨が降り始めた。

観測された雨量は、1時間100ミリ以上。予測の6倍を超えた。そこで気象庁は、午後1時半頃、「記録的短時間大雨情報」を発表。この時点で今後24時間の総雨量は最大180ミリと予測した。ところが予測は再び外れ、そのあとも1時間に100ミリを超える猛烈な雨が降り続き、総雨量は予測の5倍を超える1,000ミリに達した。

夕方5時頃、久保山さんが身の危険を感じて外に出ると、すでに川から水が溢れ、あたりは腰の高さまで浸水していた。水をかき分け、隣の家に逃げ込んだ直後、自宅に大量の土砂が流れ込んだ。

「今回、ここまでなるとは全然思わんだった。ここまでとは考えもせんかった。」(久保山さん)

予測をはるかに上回る記録的な豪雨。河川の氾濫や土砂崩れが相次ぎ、37人が死亡、4人が行方不明となった。

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なぜ、これほどの豪雨を事前に予測できなかったのか。気象庁気象研究所の室長、瀬古弘(せこ・ひろむ)さんが分析した結果、あるデータのわずかな違いで、予測される雨量が大きくずれることが分かったという。

現在の気象予測では、まず予測する地域の周辺を地表から上空まで数キロごとの網目で区切り、各地点の気温や湿度、風速などのデータを入力。雲の変化をコンピューターで計算し、雨量を予測する。このとき陸上については主に観測データを使うが、海上については観測点がないため「推定値」を使っている。

この海上の推定値が、予測される雨量に影響を与えるのではないか。瀬古さんは、九州北部豪雨のケースで検証した。注目したのは海上の水蒸気の推定量。水蒸気は海から蒸発して雲のもとになる。

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上の図は九州北部豪雨の当日、朝6時の時点の水蒸気量の推定値。赤が濃くなるほど、水蒸気量が多いことを示している。一方、右側は、水蒸気量が海上でわずか5%多かったと想定した場合。この2つで、予測される雨量がどう変わるか計算すると、左は福岡県一帯での雨量が1時間に最大42ミリという予測。一方、右は1時間に最大127ミリ。水蒸気の推定量がわずか5%増えただけで、予測される雨量が3倍にもなったのだ。

「水蒸気のわずかな差が量に大きな差をもたらすということで、この結果は降水域に供給される水蒸気がとても重要だということを示していて、とても重要な結果だと思っています。」(瀬古さん)

水蒸気量のわずかな変化がもたらす予測困難な豪雨。今、日本の周辺で発生しやすくなっていると瀬古さんは考えている。原因は海水温の上昇だ。豪雨の当日、九州の西では海面水温が平年より2度ほど高くなっていた。そこから大量の水蒸気が発生していたとみられている。

海から蒸発した水蒸気は、陸に運ばれて雲になり、雨を降らせる。海水温が高くない場合、水蒸気はそれほど多く発生しない。このとき、その量がわずかに増えただけでは、雲はそれほど発達しない。ところが、海水温が高く、大量の水蒸気が発生した状態では、わずかにその量が増えただけで、大量の水蒸気が一気に巨大な積乱雲に変わり、予測困難な豪雨をもたらすというのだ。

なぜ、水蒸気の量の予測が困難なのか。名古屋大学の坪木和久教授によると、水蒸気は海の表面から高さ1キロから2キロぐらいの非常に下層の狭い領域(海面付近)に集まる。しかし、観測点のない海上で、そういった下層領域の水蒸気量を数%の精度で観測するには、非常に多くの費用や時間、労力もかかるため、現状では難しいという。さらに、地球温暖化が進むと、平均気温の上昇により大気中に含むことのできる水蒸気量が増えるため、より激しい積乱雲が発生しやすくなるという。

予測の誤差が拡大する「台風」

実は予測が困難なのは豪雨だけではない。去年10月、予測をはるかに超える猛烈な台風が、沖縄の久米島を襲った。中心気圧、905ヘクトパスカル(hPa)。日本の観測史上最強レベルにまで発達した「スーパー台風」だ。最大瞬間風速は59.7メートルを記録。すさまじい風で建物が壊れ、電柱も折れるなど、甚大な被害が出た。このときの台風の発達もまた、事前の予測を覆すものだった。

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台風は、勢力が強くなるほど、中心気圧は下がっていく。久米島を直撃した前日、中心気圧は935hPaで止まり、気象庁は、「これ以上は発達しない」と予測。ところが、海水温が高い海域を進む中、予測に反し12時間で905hPaにまで急発達した。そこで気象庁は、急遽特別警報を発表。しかし、すでに久米島では暴風が吹き荒れており、避難は困難を極める状況だったという。

今後、さらに温暖化が進めば、日本の周辺で海水温が高いエリアが拡大。猛烈な台風が勢力を維持したまま本州にも襲いかかる恐れがあると専門家は指摘する。

琉球大学の伊藤耕介助教授は、温暖化によって平均的な海水温が現在より2度高くなった状況を想定し、台風の発達をシミュレーションした。その結果、台風は高い海水温によって沖縄付近でスーパー台風に発達。その後、930 hPaという、かつてない強い勢力で関東付近に上陸する可能性が明らかになった。さらに、伊藤さんはこうした台風の正確な予測は、温暖化によってますます難しくなると指摘する。

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伊藤さんは、過去26年間、652個の台風の記録を分析。注目したのは、台風の勢力が事前の予測と、実際の強さとでどれほどずれていたか。その「予測誤差」を年ごとに示したグラフを見てみると、ばらつきはあるものの、予測の誤差は次第に大きくなっていることが分かる。その理由として考えられるのが、久米島を襲ったような急速に発達する台風の増加だ。その割合はこの26年で3倍に増えている。

「(予測方法を)何か改悪をしたというよりは、むしろ自然界のほうが変わってきたのではないか。既存の(予測)システムではもはや太刀打ちできなくなったと」(伊藤助教授)

最新技術で「海上の風」を捉える

膨大なデータを活用した新たな予測の研究が本格化している。2年前から運用が始まった新時代の気象衛星、「ひまわり8号」。雲を捉える解像度は従来の4倍に向上。観測の頻度も従来の12倍の、2分半に1回。雲の細かい動きまで見て取ることができる。

気象庁気象研究所の國井勝さんは、この詳細な雲の動きから、これまで観測できなかった「海の上の風速や風向き」をはじきだそうとしている。風の動きを詳細に捉えられれば、水蒸気を大量に含んだ海上の湿った空気が、どこに、どれだけ運ばれているか分かるからだ。

さらに高性能のひまわり8号では雲の高さを解析し、どの高度で吹いている風なのかも、詳しく知ることができる。この風のデータから、水蒸気を含む湿った空気の流れを捉えることができるのだ。

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計算された各地点の風のデータ

國井さんは、これらのデータを使い、九州北部豪雨の予測がどう変わるのか分析を行った。その結果、雨が強まる6時間前のデータを元にすれば、実際の雨量に近い、1時間100ミリを超える雨を予測できる可能性が明らかになった。今後、他の豪雨でも解析を行い、実際の予測に活用することができるか検証していく計画だ。

「こういったデータを使うことによって、より早くより正確に豪雨の発生を予測できる可能性が、今回の結果から見えた。少しでも長い避難の時間を提供できるように、研究を進めていきたい。」(國井さん)

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アメリカでも、最新の衛星を使ったこれまでにない観測が始まっている。去年12月、アメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げた衛星「シグナス」だ。

高度510キロの軌道を回る8機の衛星が、広い範囲で「海面付近の風の強さ」を観測している。ミシガン大学のオペレーションルームでは、台風やハリケーンが発生すると、シグナス衛星に観測を指示。海面付近の風を観測するのに使うのは、GPS衛星が発信している電波だ。

海上に風がない場合、波は立たず、GPS衛星が発した電波はほぼそのままの強さで海面で反射して、シグナス衛星に届く。一方、台風などによって風が強まると、波が立つ。すると、電波は様々な方向に反射するため、届く電波は弱まる。こうして、届く電波の強さから、海面付近の風の強さを解析できる。数メートルの風速の違いが、その後の台風の勢力予測に大きく影響するため、正確な計測ができれば、ハリケーンや台風の強度予測の精度が高まると期待されるのだ。

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様々な方向に電波が反射し、シグナス衛星に届く電波が弱まる

「シグナス衛星の新しい技術で、これまでの強度予測の限界を突破できるのではないかと期待しています。なぜなら我々は、今までに観測されたことのないものを測っているのです。」(ミシガン大学 クリストファー・ラフ教授)

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さらに今、アメリカでは、まったく新しい発想による気象予測も始まっている。マサチューセッツ州のある会社では、世界各地、20億以上もの場所の気象予測を行っている。使っているのは「人工知能」だ。人工知能が予測する雨や風、雷といった情報を、航空会社や電力会社などに提供している。

従来の気象予測では、まず予測モデルの計算式を元に、コンピューターが数十通りの予測をはじきだす。それを人間の予報官が、過去の経験などに基づいて絞り込んでいく。一方、人工知能は、まず世界各国の過去30年間に出した予測と実際に観測された結果を全て学習。「どんなときに誤差が出やすいか」に注目し、様々な予測モデルの傾向を分析する。その傾向を反映させる形で、新たに数万通りの予測を計算。中には、従来の予測モデルでは出てこない「独自の予測」も含まれている。その膨大な予測結果の中から、人工知能自身が自動的に絞り込んでいく。

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人工知能による予測が効果を発揮した例のひとつが、2015年のハリケーン・ホアキン。カリブ海のバハマ諸島に接近したときには、最大瞬間風速66メートルの猛烈な風を観測。アメリカ本土への上陸が懸念されていた。

このとき、アメリカの気象当局はホアキンが本土を直撃すると予測。一方、人工知能は独自に数万通りの予測を計算し、進路はアメリカ東海岸から北東の海上へそれる可能性が高いと予測した。実際にホアキンがたどった進路は、人工知能の予測と一致したのだ。人工知能を使うことで、ハリケーンの予測精度は従来に比べて最大30%近く向上したという。

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ホアキンの実際の進路と、人工知能が予測した進路が一致

「私たちが正確かつ最新の予測を出し続けていく上で、人工知能は欠かせません。我々は今、気象予測の新たな時代にさしかかっているのです。」(気象予測会社 AI責任者ジョン・ウィリアムズさん)

人工知能の活用は、気象予測のほかにもあり得ると、名古屋大学・坪木教授はいう。気象予測の技術は日々進歩し、個人が入手できる情報量も膨大になっている。そういったデータに加えて、自分が今いる場所がどれだけ洪水や高潮の被害を受けやすいかといった危険度なども人工知能に解析・判断させ、避難すべきかどうかを教えてもらう、といった使い道も考えられる。

地球温暖化が進む中、かつて遭遇したことのない気候変動に直面している私たち。最新の技術や情報を使い、これまでとは違う意識を持って災害に遭わないような対応をしていくことが今、求められている。

この記事は、2017年9月9日に放送した 「NHKスペシャル シリーズ MEGA CRISIS 巨大危機Ⅱ~脅威と闘う者たち~ 第2集 異常気象・スーパー台風 予測不能の恐怖」 を基に制作しています。
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