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人工知能は「天使」か「悪魔」か?
羽生善治が見た人工知能

2017年8月23日

近年、様々な分野に現れている「人工知能」(AI)。学習した膨大なデータを使って瞬時に答えを出すその性能は、もはや人間が太刀打ちできる範ちゅうを超えている。その一方で、そのプロセスはブラックボックスだ。人間とAIの未来のあり方を、将棋界最高峰の頭脳、羽生善治と探った。

創造性を獲得した人工知能

今年4月、栃木県日光東照宮。将棋界の最高位・名人と人工知能が激突する、「電王戦」2番勝負の第一局が行われた。人類のプライドをかけて行われた将棋電王戦。そこで起きた出来事は、私たちの未来を暗示するものとなった。

将棋界最高位に君臨する佐藤天彦名人、29歳。去年、難攻不落の羽生善治を破り、14年ぶりの新たな名人となった将棋界を担う若き天才棋士だ。対するのは人工知能ポナンザ。4年前の登場以来、プロ棋士に負けたことはない。まさに無敵である。

ポナンザを開発したのは、若き天才プログラマーとして名を馳せていた山本一成さん、31歳。ポナンザが飛躍的に強くなったのは人間の手を借りず、人工知能が自分自身で学ぶ「機械学習」という方法を導入してからだ。ポナンザにプロ棋士の過去20年分の対局計5万局を読み込ませ学習させる。この「教師データ」が人工知能の性能を決める鍵になる。ポナンザは5万局の棋譜を解析しながら、どんな局面で、どう駒を配置すれば勝ちに繋がるのか、自ら勝利の方程式を発見していった。

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「今まで知的なことって人間しかできなかったんですね。だけどもそれがだんだんと機械に置き換わりつつあるんですね。」(山本さん)

ポナンザの第一手。いきなり衝撃が走った。

将棋の第一手は角や飛車などが盤面いち早く相手陣地を攻撃できるように、通り道となる歩を動かすのが定跡だ。ポナンザの放った第一手・3八金は、この10年の棋譜にはない。羽生善治にとっても驚きの一手だった。

「金がここに上がるということは、まず自分の玉の守りから離れるという点でセオリーに反している。もう1つは、飛車は十字に動けるので、できるだけ十字に動ける場所に駒は置かないというのが鉄則。守りも薄くなるし飛車も動きが悪くなるし進展性もない。人間は3八金は絶対に指さないということなんです」(羽生善治)

その後10手まで進んだとき、ポナンザの狙いが明らかとなった。ポナンザは3八金を足がかりとして、「中住まい」と呼ばれる強固な守りを築いたのだ。歴戦の棋士でも理解不能な手には、人工知能の用意周到な作戦があった。その後もポナンザは、容赦なく佐藤名人を追い詰めていく。

人間が決して思いつかない独創的な手を繰り出す人工知能ポナンザ。コンピューターには難しいと言われ続けてきた創造性をポナンザは獲得している。

創造性を生み出したのはポナンザ同士による自己対戦である。くり返した対局は700万局。人間が1年に3,000局の対局をしたとしても2,000年以上かかる。気の遠くなるような経験を積んだ人工知能は、将棋の歴史の中でまだ人間が発見していない、未知の戦法にまでたどり着いたのだ。

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ポナンザ同士による自己対戦によって創造性を獲得

「かなり人間よりも将棋の神様に近い側にいるんじゃないかな。その本当にすごい存在と一瞬すれ違った電王戦だったのかな」(佐藤名人)

社会に進出する人工知能

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カーナビに搭載された人工知能

人間の能力を上回る人工知能が身近な所にも現れている。今年6月、名古屋のあるタクシー会社は売り上げに伸び悩み、人工知能の導入に踏み切った。カーナビに搭載された人工知能は、地域を500m四方に分け、向こう30分間の客数の予測を数字で示すとともに、どの道をどの方向に走ると客を拾える確率が高いか矢印で示してくる。

経験2年目の新米ドライバーの女性が矢印の通りに走ってみると、走り始めて5分。お客さんを乗せることができた。さらに人工知能の指示に従い、普段は通らない道に入ってみると、またも予測的中。お客さんが待っていた。

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「2時間だれも乗せられないこともある。今日はこの(人工知能の)おかげでお客様を乗せることができているなという感じです。」(女性ドライバー)

この人工知能を開発したのは携帯電話会社。携帯電話会社の最大の強みである人間の位置情報を使い、どこにどれだけの人がいるのか、一目瞭然でつかめる。しかし、人が沢山集まったからといってタクシーを使う人が多いとは限らない。

そこで、もう1つの重要なデータとなるのが、タクシー会社が持つ乗降記録。いつ、どこで、客を乗せたのか。過去1年、運転手1,900人分のデータを人工知能に学ばせた。人工知能は位置情報データとタクシーの乗降データを掛け合わせ、過去、タクシーに乗る人が多かったエリアに、いつも以上に人が集まればタクシーの需要が増えると予測する。さらに天気や日付、曜日によって、利用客の数がどう変わるのか、人工知能にその法則性を見つけさせ、予測の精度を高める。

このタクシー会社では今年度中に200台のタクシー全てに人工知能を搭載する予定だ。走れば走るほど、人工知能は学習し、予測の精度は95%まで上がるという。

いち早く人工知能が導入された金融では、あっという間に現場が一変した。今や東京の株式市場の取引の8割がコンピューターによるものだ。

日本最大の証券会社では去年から人工知能を導入。年金などを運用する機関投資家の売買を人工知能に任せている。独自に開発した人工知能の株価予測システムでは、銘柄ごとに5分後の株価の予測をはじき出す。人工知能が学んだ「教師データ」は、東証500銘柄の過去1年間の株価の動きと売買取引のデータだ。それも1日ごとではなく、千分の1秒単位の変化。その値動きから法則性を見つけ、5分後の未来の株価を予測し、利ざやを狙う。売買をするのも人工知能である。

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人工知能が行う取り引きを見つめるトレーダー

超高速化した市場は今や、AI対AIの戦いの様相を呈している。どれだけ優れたAIを開発できるか、それがマネーゲームの勝者と敗者を分けることになるのだ。

思考過程はブラックボックス

異次元のスピードで学習し、答えをはじき出す人工知能に、もはや人間は太刀打ちできない。電王戦第一局後半、その象徴的な場面があった。

名人の52手、8八歩。佐藤名人には8手先までの読みがあった。もしポナンザが金で歩を取れば、名人の飛車が相手の陣地になりこむことができる。佐藤名人はそこに賭けていた。

ところがポナンザが放った手は、7四歩。みすみす相手に取られるところに指すなど、人間ならあり得ない手だった。しかし、この手が、起死回生を狙った佐藤名人の作戦を打ち砕く。4手先には佐藤名人の飛車は相手陣地に入ることもできず引くしかなかった。7四歩を境に、ポナンザが一気に勝利を決める。

なぜこんな手を人工知能は思いつけるのか。開発者の山本さん自身も説明できないと言う。超高速の思考過程は、もはや人間には理解できない。

「なんで強くなっているかわかんなくなりつつあるんですね。私が(プログラムを)書いているんですけど私の理解は超えつつあるのが今の人工知能ですね。これは将棋プログラムだけでおきているわけではなくて、いろんな人工知能の界隈で起きていることです。」(山本さん)

人工知能に「評価」される人間

人工知能は、答えは出すが、その理由は示さない。ブラックボックスである人工知能が、人の人生を左右する判断を始めている。

18歳以上の国民のおよそ3人に1人が犯罪歴を持つアメリカ。受刑者は全国で200万人を超え、刑務所は慢性的に不足状態だ。犯罪をくり返す再犯者が多いことが理由である。そこで裁判所に導入されたのが、人工知能による再犯リスクの未来予測。被告の個人情報を打ち込むだけで、3秒後に回答がでる。

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人工知能には、過去の膨大な裁判記録が教師データとして与えられている。そこからどんな特性を持った人が、犯罪をくり返すのかパターンを解析する。その人工知能に新たな被告の犯罪歴をはじめ、人種、仕事、育った家庭環境など、個人の情報を入力。すると人工知能は、過去のデータから導き出したパターンをあてはめ、被告の未来の再犯のリスクを予測するのだ。しかし、なぜそう予測したのか、理由は示さない。

人工知能の予測は、刑期などを決めるうえで裁判所の重要な材料となる。人工知能を導入したカリフォルニア・ソノマ郡では、再犯をする人の割合が10%減少した。しかし裁かれた側は、人工知能の存在を知らないことが多い。

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人工知能の存在を知らなかったロバートさん

窃盗の罪で懲役2年の判決を受け、現在受刑中のロバートさん。模範囚として日中は刑務所の外で仕事をすることを許されている。しかし、模範囚の多くの場合、最短で刑期の3分の2を経過したところで出される仮釈放の許可が、1年半を過ぎた今もおりていない。ロバートさんは、自分の再犯リスクが人工知能に判断されていることを知らなかった。

「人工知能に人生を判定されるなんて納得がいきません。もし人工知能が間違った判断をしたら一体だれが責任を取るんですか。もし評価を間違えれば、誰かの人生を狂わせることがあるんだ。」(ロバートさん)

人工知能の可能性を探る

人工知能をどう、人間の新たなツールとして役立てることができるのか、模索が始まっている。

歴代大統領の不正が相次ぎ、政治不信が高まる韓国では、人工知能を国家運営に導入しようという計画が検討されている。国家の政策を立案するAI政治家の開発である。韓国のプロジェクトから開発を託されたのは、人工知能研究の世界的権威ベン・ゲーツェル博士。人と自在に会話する人工知能ロボットを世界に先駆けて開発した。博士は、このロボットをAI政治家に育てようとしている。

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搭載された人工知能に与える教師データは、世界各国の憲法、法律、国防、経済政策など。さらに、最新の世界情勢や経済指標、ネット上の世論も読み込ませる。

人工知能が示す政策をそのまま実行に移すわけではない。国民が議論したうえで、採用するかどうかを決めていく。あくまで判断するのは人間。人工知能の答えは、政策提言の1つとして位置づける。

「最終的な決断は人間です。しかし、将来的にはAIが直接国民と交流するようにしたいです。AIが国民から意見を吸い上げ、国民に政策を提言する。AIが真の民主主義を作り出すのです。」(ゲーツェル博士)

人工知能は天使か悪魔か。今はまだわからない。しかし、その進化は止まることはない。人間を超える人工知能が社会に進出した今、私たちはその巨大な存在とどう向き合っていけばいいのか。AIの可能性を模索する道は始まったばかりだ。

この記事は、2017年6月25日に放送した 「人工知能 天使か悪魔か 2017」 を基に制作しています。
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