記事

さらなる悲劇を生む「地震大火災」の脅威

2017年2月24日

巨大地震によって引き起こされる「地震大火災」。その本当の恐ろしさを私たちはまだ知らない。地震火災によって引き起こされかねない最悪のシナリオを防ぐ方法はあるのか? 最新の技術と研究を武器に、巨大な炎への挑戦がはじまっている。

生死を分ける「風」と「発生場所」

突然、私たちに襲いかかる激しい揺れ。しかし大地震を生き延びたとしても、さらなる試練が追い打ちをかける可能性がある。地震で発生する大火災だ。

震度7の激しい揺れに襲われた阪神・淡路大震災。神戸市では震災当日だけで109件の火災が同時多発的に発生し、約7,000棟が全焼。数日後、火災がおさまった焼け跡からは400人以上が遺体で見つかった。

火災は風の条件によってはさらに深刻化していた恐れがある。震災当時の風速は3メートル前後だったが、建築研究所の主任研究員岩見達也さんのシミュレーションによると、もし関東大震災で記録された風速15メートルの強風が吹いていた場合、地震発生の24時間後には震災当時の4倍近くにまで火災は拡大。神戸市・長田区一帯で最大およそ3,000人が逃げ惑い、死傷する可能性が浮き彫りになった。

photo
強風によって広い範囲、速い速度で火災が広がることが明らかになった

警戒すべきなのは強風だけではない。東京大学生産技術研究所の准教授、加藤孝明さんは、火災が発生する場所によっても死のリスクが大きく変わると考えている。

およそ112万人が暮らす東京・世田谷区とその周辺で、首都直下地震の火災で住民がどう避難するかを3,000通りの出火パターンでシミュレーション。その結果、世田谷区だけで数千人の命が危険にさらされるケースがあることが明らかになった。避難場所近くの住宅密集地で火災が発生した場合だ。避難場所につながる住宅密集地では、狭い道路に人々が集中。そこに火災が燃え広がると、人々は逃げ惑ううちに炎にまかれ、死傷してしまう。

「空振り覚悟の早めの避難」が命を救う

地震火災で難しいのは避難するタイミングの判断だ。神戸市で震災後におこなわれたアンケートでは、火災に気づく前に避難を始めた人はおよそ4%、火災に気づいてすぐに避難した人は29%余り、残りの70%近くは「火災に気づいてもしばらくは避難しなかった」と回答している。阪神・淡路大震災をはじめ、国内・海外の大規模な火災の調査・分析などに取り組んでいる東京理科大学の関澤愛さんは言う。
「足の遅い人や高齢者、小さなお子様、病気の方は、火災がまだ近づいてない時でも、いち早く広域避難場所に避難するといった、空振り覚悟の早めの避難が命を救うことになります」

大地震直後は、多くの人はがれきの下になった被災者の救出や、家財を運び出すのに追われる。茫然自失となり、正しい判断ができない場合もある。加えて、災害時の風速や風向きによって、火災の広がるスピードや方向が変わり、地域ごとに的確な避難情報を出すことが難しい。そういった状況のなか、自分の目と災害報道を頼りに、自己判断で逃げなければならない。

photo
スマートフォンを使った「災害情報共有システム」

では、どのように情報を手に入れ、自己判断すればよいのか? そのヒントとなるのが、「情報」の力で命を守ろうと挑む、東京工業大学教授の大佛俊泰さんによる取り組みだ。大佛さんは、スマートフォンを使った「災害情報共有システム」を開発。火災発生時、家屋が倒壊しているなどの情報をスマートフォンの地図上に入力すると、システムの利用者全員で情報がシェアされる。多くの利用者が情報を入力することで、火災の発生状況などを正確に把握し、安全な避難ルートを判断できるようにする仕組みだ。さらに、その時の風向きや風速のデータから、12時間後までにどう燃え広がるかを予測することもできる。

しかし、非常事態において皆が客観的な情報を送るのは容易なことではない。誤った情報が避難をミスリードする恐れもある。その解決策として考えられるのが、テレビ局が流す映像などとITの技術を連動させ、情報を補完し合う方法だ。ほかにも大きな揺れを感知すると、自動的にブレーカーを落とす「感震ブレーカー」も電化製品などからの出火を防ぐ効果があり、有力な対策となる。

東日本大震災で浮き彫りになった新たなリスク

都市に大火災をもたらす「最悪のシナリオ」は住宅密集地での火災だけではない。

2011年3月11日の東日本大震災時には、千葉県市原市の石油コンビナートでガスタンクの大爆発が発生。爆風は3キロ以上離れた市街地にも及び、住民8万5,000人に避難勧告が出される事態になった。この大爆発は思いもよらない事をきっかけに始まっている。

地震発生前、液化石油ガスのタンクの1つに液化ガスの2倍の重さの水が検査のために入れられていた。そこに強い揺れの地震が発生し、支柱が重さに耐えきれず倒壊。配管から漏れ出したガスに引火した結果、周囲のタンクが加熱され、大爆発が起きた。割れたタンクの破片はたまたま海側へ落下したため陸側の施設への飛び火を免れたが、もし反対側に飛んでいればさらに過酷な事態になっていた可能性もある。このコンビナート大火災は、都市の間近に潜む新たなリスクを浮かび上がらせることになったのである。

photo
画面左下 タンクの破片が海に落下していることがわかる

東日本大震災では地震火災を引き起こすもうひとつのリスクも明らかになった。宮城県気仙沼市では港におかれていた燃料タンクが津波で押し流され、大量の油が流出。がれきと共に炎上し、大火災を引き起こしたのだ。大阪大学名誉教授の加藤直三さんらの研究グループは、津波によって操縦不能になった大型タンカーがコンビナートの施設に衝突し、さらなる大火災を引き起こす可能性もあったと指摘する。

地震が引き起こす湾岸大炎上の脅威。それを防ぐため、東日本大震災以降には石油コンビナート法に基づく指針が改訂され、最悪のシナリオを想定した対策もとられつつある。さらに、研究現場では新しい技術で立ち向かおうという取り組みも始まっている。

photo
油の燃焼を抑える効果が期待される「油分散剤」

そのひとつが、油を吸収する能力に優れた特殊な成分でできている「油分散剤」と呼ばれる粉末だ。加藤さんの構想では、強い揺れを感知するとタンクから油分散剤が噴射され、海面の油を吸収して水中に沈み、油に火がつくのを防ぐという。また、「フレキシブルパイプ」という、津波でタンクが流されるのを防ぐ装置の開発にも取り組んでいる。しなやかな棒を何本もタンクの前方に設置することで、実験ではタンクにかかる津波の力が最大で45%軽減された。

巨大地震によって起こる地震火災への切り札は、新技術だけではない。コンビナート火災の消火技術を学ぶ東京湾の訓練施設では、石油コンビナートの防災担当者や現役の消防士たちが、大火災に至る前に、どうすれば炎を征圧できるのか、油やガスを大量に燃やした実戦さながらの状況で、技術と戦略を日々学んでいる。

photo

確実に迫る次の巨大地震。地震大火災から命を守るために、最前線では炎との闘いが続いている。

この記事は、2017年1月22日に放送した 「NHKスペシャル シリーズ MEGA CRISIS 巨大危機 第4集 “地震大火災”があなたを襲う ~見えてきた最悪シナリオ~」 を基に制作しています。

新着記事