陸地の4分の1を覆う草原。そこは、地球上で最も、群れを作って暮らす生きものが多い環境。生きものたちは、雨と草のサイクルに導かれ、大地をとどろかす大移動をしながら暮らしている。
密集した命と命は、ときに激しくぶつかり合う。厳しい弱肉強食のドラマが繰り広げられる果てしない緑の大地を、スケール感たっぷりに紹介する。
ゾウを狙うライオン
ライオンでさえ逃げるゾウが、目の前5mまで向かってきたら……。
アフリカ南部、ボツワナの夜だけに起こる、ゾウを狙うライオンの襲撃。通常の照明は使うことができない。撮影には、動物の目には見えない赤外線ライトと、NHKが開発した、世界にたった1台しかないカメラ、超高感度赤外線ハイビジョンカメラを使った。
夜目の利かないゾウは、長い鼻で匂いをかいで、暗闇の中を歩き回るという。番組では、ゾウが、座って休んでいるライオンを危うく踏んづけそうになったハプニングも。
話には聞くが、これまで誰も見たことのないそのシーン。どうやって狙うか。方法はいたって簡単。“夜を徹してライオンの群れを追いかけ、その瞬間を待つ”のだ。
方法は簡単だが、実践するのは簡単じゃない。赤外線ライトは、カメラを通すと見えるが、人の目には真っ暗。追いかけている車のすぐ横から、ライオンの吠え声が聞こえてきてギックリ!なんてこともザラだ。
ある晩、車で仮眠を取っていると「まずい、起きろ!」と共に、なんと大きな雄のゾウが、まっすぐ車に向かってくる。あと5m!というところで、間一髪匂いに気がつき、けたたましい鳴き声を上げながら車の脇を猛ダッシュで駆け抜けていった。実はゾウは夜目がほとんど利かない。ライオンの群れは、それを利用して、ゾウに不意打ちを食らわせるのだ
モウコガゼル
ヌーやシマウマの大移動は有名だが、モウコガゼルの大移動は、研究者にさえ、あまり知られていない。
カメラマンが「ありえないほど広大な原っぱ」と呼んだ、モンゴルの大草原、ステップ。
草原の気温は40℃。乾燥して自然発火しやすい状態。撮影中、遊牧民の残した家畜の糞がくすぶって火事になり、モウコガゼルがいっせいに逃げ出すという事態もあった。
モウコガゼルは、その「世界で唯一、車のブレーキが壊れても気にしないでいい場所」を、毎年1000キロ以上もの大移動を繰り返す。どこまでも広がる真っ平らな草原で、ガゼルを驚かさずに撮影するために使ったのが、ウルトラライトプレーン(超軽量飛行機)。そのために、ライトプレーン撮影の第一人者を、自分の飛行機と一緒に、なんと南米ベネズエラからモンゴルに呼んだ!飛行機を空輸する準備だけでも、半年がかかった。