認知症が進んでも残る“豊かな感情”

認知症の人の言動が理解できず、悩んでいる家族は少なくありません。中には、「どうせ何を言っても分からない」と諦めてしまうケースも。重度認知症患者デイケア「小山のおうち」(島根県出雲市)では、認知症の本人に“手記を書いてもらう”という手法で、本人の思いを明らかにし、家族など周囲の人に知ってもらう取り組みをしています。


本人の気持ちをゆっくり聞き出しながら書かれていく手記。これまで、70人以上の認知症の人が心の内をつづってきました。施設を開いた精神科医の高橋幸男さんは、この取り組みを続けて22年。「認知症の人は、我々が想像するよりはるかに能力がある」と言います。

妄想や暴力などの症状を緩和する“極意”

妄想・暴言・暴力といった症状や行為は、周りの環境を変えることで大幅に緩和できることが明らかになっています。
・アメリカの介護施設でのレクリエーションでの研究
 ペンシルベニア州立大学の研究によると、128人に心理学による性格分析を行い、それぞれの興味や能力に見合ったプログラムを提供した結果、暴力や暴言などの症状が24%減少しました。
・ 認知症の人の気持ちをふまえたケアの実践
「小山のおうち」では、「認知症が進んでも“心”が残っている」ことを前提としたケアで、徘徊や暴力などの症状を和らげようと試みています。
「物忘れしても絶対に責めず、肯定すること」は、施設で毎日のように繰り返される重要なケアの一つ。高橋医師によると、認知症の人は物忘れを周囲から指摘されるとき「叱られている」と受け止めていることが多く、そのことによるストレスが徘徊や暴力などの症状と深く関係しているとのこと。こうした症状は、ストレスが限界に達した、いわば認知症の人たちの“叫び”であるといいます。このストレスをいかに和らげられるかが、症状改善のカギ。
さらに、本人の気持ちを家族に理解してもらうことにも力を入れています。「また忘れてるよ」「なんで分からないの?」といった指摘だけでなく、「しっかりして」「ちゃんと覚えていて」など家族が励ますつもりで言ったことばにも、本人は傷ついているといいます。高橋医師によると、介護に熱心で“症状が進まないで欲しい”と思っているごく普通の家族ほど、無意識のうちに本人を“叱って”しまい症状を悪化させてしまうことがあるとのこと…。「施設のスタッフのように常に物忘れを認めることは難しくても、指摘する回数を10から7に減らしてみることから始めてほしい」「“叱る”“励ます”のではなく、ごく普通の会話に認知症の人を積極的に誘い入れてほしい」と家族にアドバイスしています。こうして家族と本人の関係が改善されると、本人が家庭内で感じるストレスが減り、症状を和らげていくことができるそうです。


認知症になってもその人らしく地域で暮らすには

認知症の人を対象に行った調査によれば、その7割が、「認知症になってから友人・知人との交流の機会が減った」と答えています。そんな中、静岡県富士宮市は、認知症の人が外に出て、地域の人たちと一緒に楽しむ場が多く作られている場所として大きな注目を集めています。認知症が主役のソフトボール大会やスポーツサークル、さらに住民と認知症の人が顔を合わせる交流の場や見守り訪問など。特色は、そのほとんどが、当事者の声を中心に、住民から自発的に始まったものです。


「認知症は他人事ではない。自分のこととして考えよう」。

http://www.nhk.or.jp/ninchishou/