NHKスペシャル

仁淀川 青の神秘

日本一の水質を誇りながら、これまで全国的な知名度が今ひとつだった川がある。愛媛県から高知県を流れる1級河川「仁淀川」である。西日本最高峰の石鎚山から流れ出た水は、40メートル先まで見通せる。全長124キロ、流域の人口はおよそ10万。河口に至るまでその輝きを失わないという川である。
清流の秘密は、流域の95%を占める山地の存在にある。1.5キロを超える川の高低差が速い流れを生み、川底を常に洗い清めている。雨や雪が、一旦、周辺の森の中に蓄えられ、長いと数十年かけて浸みだし、豊富な伏流水となって湧き出しているのである。
その透き通った水はここでしか見ることのできない独特の青、“仁淀ブルー”を湛えている。
春には色とりどりの野鳥のつがいが戯れ、夏には“川ガキ”と呼ばれる地元の子ども達が水中メガネなしで潜り遊ぶ。秋になると、黄金色に光り輝く水中で鮎が産卵。冬に現れる南国の霧氷には虹色の世界が秘められている。
番組では地元の写真家の案内のもと、最新の撮影機材を駆使して仁淀川の四季を上流から下流にわたって撮影。知られざる清流の姿を描く。

放送を終えて

『写真が動き出した瞬間』

仁淀ブルー、いかがでしたか? 美しい映像の数々。実は、その半分は、番組中ご本人も登場している写真家・高橋宣之さんが撮影したものです。
一昨年の秋、高橋氏が撮影された美しい水中写真が、映像となって動き出した時の衝撃が今も胸に焼き付いています。スチール写真専門の高橋氏に、ムービーを撮ってくれという無茶苦茶なお願いをし、戸惑いながらも撮って下さった映像の中には、これまで見たどんな水の映像よりも美しく強く、そして少し儚さを伴った仁淀川の姿が切り取られていました。たしか、仁淀川上流・面河(おもご)渓谷での水中映像と、紅葉した葉のまわりに霧氷がついて和菓子のようになった映像だったと記憶しています。20年間同じフィールドに通い続ける人間が、ベストタイミング・ベストポジションで撮影した映像は、ただ水が流れているだけ、葉が揺れているだけなのに、何十分見ていても飽きることがなく、これで清流の水の美しさを讃える番組ができると奮い立った瞬間でした。
高橋さんの映像に突き動かされたのは私だけではありませんでした。音楽家・高木正勝さんには、作曲を5曲ほど依頼しようと思っていたですが、映像が高木さんの作曲魂に火をつけたのか、11曲も素敵な曲を書いてくれました。特に、「仁淀川に住む風の精霊」をイメージした「kaze kogi」はご本人もお気に入りという大傑作です。iTunesにて配信中ですので是非聴いてみてください。
映像の力が、番組をご覧になった皆様にも届き、身の回りの水や自然を大切に思う気持ちに少しでも繋がればと、心より願っております。

ディレクター:斉藤勇城