NHKスペシャル

"夢の丘"は危険地帯だった ~土砂災害 広島からの警告~

8月に広島市で74人の命を奪った土砂災害が全国に衝撃を与えている。
都市に平地が少なく、山を切り開いて宅地を造成してきた日本。被災地に似た場所はいくつも存在しているのだ。
平成11年、広島で31人が亡くなった土砂災害を機に、国は「土砂災害防止法」を制定。人的被害の恐れがある場所での建築を制限するなどの対策に乗り出す。しかし、「警戒区域」の指定は、全国にある危険箇所の7割弱しか進んでいない。今回の被災地の多くも警戒区域の該当箇所だったが、県は半年近く、この事実を公表してこなかった。
危険な場所での宅地開発がどのように進み今回の被害を拡大させたのか、さらに災害対策はなぜ生かせないのかを明らかにし、ニュータウン危険地帯の実像に迫る。

放送を終えて

8月20日早朝、「土砂災害が起きているので、すぐに取材に行く準備をするように」という連絡で目を覚ましました。現場の住所を聞いて驚きました。自分が暮らす安佐南区、それもすぐ近くの住宅地だったからです。取材で出会った専門家の言葉が今も忘れられません。「防災とは、自然現象そのものをなくすことではなくて、それが大きな災害につながらないようにすることです」現地、広島放送局の一員として、この言葉を忘れず、今回の災害の教訓を伝え続けていきたいと思います。
(ディレクター 葛城豪)

なぜ、これほどまでの犠牲が生まれてしまったのか。丘の宅地開発の危険性に気付き、被害の拡大を食い止めるチャンスは一度もなかったのか。こうした疑問の答えを模索しながら、広島局の記者とディレクターが一丸となって取材を続けた2カ月半でした。二度と悲劇を繰り返さないために、74人の命が奪われてしまったという、この事実の重みに今後とも向き合っていきたいと思います。
(ディレクター 花井利彦)

「じくじたる思いがありますね」「自分が鬼になれたかどうかという問題ですね」取材中、関係者が告白した切実な「悔い」。放送後、多くの方から「当事者の苦悩が伝わり、自分事として感じられた」「開発への考え方が変わった」といった感想を寄せて頂き、「悔い」が番組の重要なメッセージになったのではと感じました。突きつけられた現実にはやるせなさが募りますが、今回の番組が山裾の開発や防災の在り方を見直すきっかけになればと願っています。
(ディレクター 石濱陵)