火山・降灰:みなさまからの火山・降灰に関する疑問・質問に専門家が分かりやすくお答えします。

- どうして噴火(ふんか)をするのでしょうか?
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地下の岩石が溶けてできるマグマは、周りの岩石よりも軽いので地表に向かって移動します。地下数kmから10kmぐらいのところで周りの岩石の密度とつり合うので、その場所にたまってマグマだまりを作ります。このマグマだまりが少しずつ冷やされて、マグマから結晶(けっしょう)ができていくと、残りのマグマの中の水や炭酸ガスの成分が次第に集まって濃(こ)くなり、やがて気泡(きほう)ができるようになります。このように気泡を含んだマグマは軽くなるので、再び地表に向かって上昇(じょうしょう)を始めます。粘り気(ねばりけ)の低いマグマの場合は、上昇の途中(とちゅう)で気泡の多くがマグマから浮き上がって火山ガスとなって大気中ににげてしまい、残りのマグマは火口からドロドロと流れ出して溶岩流(ようがんりゅう)となります。
一方粘り気が高いマグマの場合には、気泡はぬけ出せずにマグマ中に残るのですが、地表に行きつく直前には気泡がふくれ上がるために、マグマが爆発(ばくはつ)して激しい噴火を起こすことがあります。ただ粘り気の高いマグマの場合でも、何らかの理由で気泡がマグマからぬけ出してしまうことがあります。この時には爆発をおこさずにマグマがそのまま地表に出ますが、粘り気が高いために流れ出さず、火口付近に丘(おか)のようにもり上がって溶岩ドームを造ることになります。東大名誉教授 火山噴火予知連絡会会長 藤井 敏嗣
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- マグマと溶岩(ようがん)のちがいはなにですか?
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マグマは地下深くの岩石が溶(と)けたもので、1000度くらいの高温の液体が主ですが気泡(きほう)や結晶(けっしょう)も含む流体です。このマグマが地表に出てくると、溶岩とも呼ばれることがあります。粘り気(ねばりけ)があまり高くないマグマの場合、地表に出てきたマグマは冷えて固まるまでは斜面(しゃめん)に沿って流れ、マグマの流れができますが、この流れのことを溶岩流(ようがんりゅう)とも呼びます。このときはマグマと溶岩は同じものをさしています。
ところで、地表に出てきたマグマが冷え固まると火山岩とよばれる岩石になりますが、この岩石のことも溶岩と呼びます。マグマということばは、高温の溶けたものに対してだけ使われますが、溶岩ということばは高温の溶けたものに対しても、冷え固まったかたい岩石の場合に対しても使われるのです。東大名誉教授 火山噴火予知連絡会会長 藤井 敏嗣
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- 富士山って今から何年前に噴火したんですか?
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今から300年以上前の1707年12月16日午前10時ごろに富士山宝永噴火が発生し、翌年1月1日未明までの16日間噴火は続きました。宝永噴火です。
歴史時代では781年の噴火以降、確実なものは10回記録されています。歴史時代の噴火で最大のものは、平安時代の貞観噴火です。現在の青木が原の樹海と呼ばれる広大な森林は、この時に流れ出した溶岩流の上に広がっています。この噴火は866年まで続きました。平安時代の富士山は、貞観噴火も含め数十年おきに噴火を繰り返していました。この後も何度か噴火を繰り返しますが、これまでで最後の噴火が1707年の宝永噴火です。この噴火の49日前に南海トラフで宝永地震が起こっているため、この地震が引き金となって噴火が発生したと考えられています。貞観噴火とは異なり、溶岩流を流すこともなく、歴史時代で最も爆発的な噴火で、大量の軽石やスコリア(岩滓=がんさい)を噴き上げました。
富士山の噴火の歴史を詳しく見るには
「第6回 富士山の誕生と噴火の歴史をひもとく」/藤井敏嗣東大名誉教授 火山噴火予知連絡会会長 藤井 敏嗣
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- 3.11の震災以来、噴火する確率が高まった火山を教えて下さい。
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3.11の超巨大地震によって、東北から関東にかけて地殻が大きく変動しました。そのため、この領域にある火山が噴火する確率は高まったと考えられます。 地震の直後から20の火山の直下で、火山性地震の活動が高まり、噴火が起こる可能性も考えられました。しかし、これらの地震活動も、現在は収まっています。
現在、噴火の兆候が見られる火山はありません。本文(第4回コラム)でも述べたように、火山噴火の兆候は直前にならないと現れないので、現時点ではどの火山が噴火しそうかということは言えません。東大名誉教授 火山噴火予知連絡会会長 藤井 敏嗣
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- 火山大国の日本は、火山噴火予知のレベルも高いのですか?
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日本の火山観測のレベルは高いのですが、噴火予知のレベルとなると評価は難しいところです。何しろ昭和以降まともな噴火はほとんど起こっていないので、レベルが高いのかどうかを評価すること自体が困難です。
しかし、桜島ではこれまでに何万回も同じような噴火を経験したので、地殻変動と微小な地震の観測に基づいて、それぞれの噴火の数時間前から十数時間前に噴火が起こりそうだと判断することができるようになりました。的中率は8割以上ですから、桜島での予知のレベルは非常に高いといえます。
一般的には、火山活動の高まりや異常現象を捉える日本の観測能力は非常に高いといってよいと思います。しかし、きちんとした観測が行われているのは111の活火山のうちで、50火山だけです。それ以外の火山では不意打ちの噴火を迎える可能性もあります。したがって、全体としてわが国の予知のレベルが高いといえるかどうか分かりませんし、もっと言えば、わが国だけでなくどの国でも火山噴火の予知は実用レベルには達していないので、予知のレベルを比較することは意味がないと思われます。東大名誉教授 火山噴火予知連絡会会長 藤井 敏嗣
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- 火山灰はどのくらいの期間、降り続くのですか? もし富士山が噴火したら、火山灰の影響はどれくらいの範囲に及びますか?
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火山噴火の継続時間はさまざまです。近くにだけ火山灰を降らせるような規模の小さな噴火は何か月も、場合によっては何十年も続くことがあります。ただし遠くまで火山灰を降らせるような大規模な爆発的噴火の場合は数時間から数日程度でクライマックスは終わり、規模が小さくなるか休止するのが普通です。
紀元79年にイタリアのポンペイの街を埋め立てたヴェスビオ火山の噴火でも火山れきや火山灰を降らせたのは2日間だけでした。
しかし、富士山の宝永噴火のように約2週間にわたってほぼ毎日、100kmも離れた江戸に火山灰を降らせたような噴火もあります。いま富士山が約300年前の宝永噴火と同じように爆発的な噴火を起こしたら、噴煙は西風に流されるので富士山の東側の100km以上離れたところまで影響を受けるでしょう。第3回コラム本文(図1)に示したような領域に火山灰が積もるので、成田空港ですら降灰のために飛行機の離着陸はできなくなると思われます。東大名誉教授 火山噴火予知連絡会会長 藤井 敏嗣
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- 溶岩流はどれくらいの速さで流れるのですか?また、地形にどんな影響を与えますか?
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通常の溶岩流は人が歩く速さと同じ程度か、それよりもずっとゆっくりとしか流れません。ハワイの映像などでよく見られる川のような速さで流れる溶岩流は、固まった溶岩で作られたトンネルの中を流れる場合です。
溶岩のトンネルの中では、溶岩流が大気によって冷やされる事がないため、低い粘り気を保っていられるからです。玄武岩の溶岩流の厚さは薄いので、次々と流れて重なっても急傾斜の崖などはあまり造らず、なだらかな地形を造ります。
粘り気のやや高い安山岩の溶岩流はその末端部に高さ数十メートルの険しい崖を造ることが普通です。デイサイトや流紋岩マグマはほとんど流れないので、多くの場合火口におわんを伏せたような形の溶岩ドームとして盛り上がります。東大名誉教授 火山噴火予知連絡会会長 藤井 敏嗣
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- 富士山噴火の確率は100%というのは本当ですか?
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いつまでという期限を切らないとしたら、富士山噴火の確率は100%だといってよいでしょう。富士山が活火山とされているのはいつか必ず噴火すると思われているからです。しかし、数十年以内での噴火確率と限定しても、多くの火山研究者は、ほぼ100%の確率でいつ噴火してもおかしくないと答えるでしょう。というのは、富士山は宝永噴火以来300年以上噴火していませんが、これほど長い間噴火しないのは,歴史記録のある最近1300年間で初めてのことだからです。
富士山は、平安時代には数十年おきに噴火を繰り返していました。地質調査などで過去3200年間の噴火の痕跡を調べると、およそ100回噴火したことが知られています。つまり、平均すると30年に1回ぐらいは噴火していたわけです。その火山が300年間以上休止しているのですから、もはやいつ噴火してもおかしくないと考えてよいでしょう。東大名誉教授 火山噴火予知連絡会会長 藤井 敏嗣
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