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土砂災害

第11回  雨がほとんど降っていなかったのに、なぜ崖崩れは起きたのか ―“原因が不明確な土砂災害”への備えは?―

執筆者

池谷 浩
一般財団法人 砂防・地すべり技術センター 研究顧問
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大分県中津市耶馬溪町で発生した土砂災害

2018年(平成30年)4月11日、大分県中津市耶馬溪町金吉(やばけいまち・かなよし)地区で崖(がけ)崩れが発生しました。中津市の情報ではその規模は高さ約100m、幅約200mと大規模なもので、崖下にあった住宅4棟が全壊し、死者6人という悲惨な被害が生じました【写真1】。

この災害の特徴の一つは、なんといっても崖崩れ発生の原因が不明確なことです。一般的に崖崩れは大雨や地震などによって発生しますが、現場付近では4月に入ってから、6日の日雨量が4.5mm、7日の日雨量は1.5mmを記録したのみで、災害の前日および当日には降雨は観測されておらず、また地震も発生していません。それなのに、なぜ大規模な崖崩れが発生したのでしょうか。

なお当地区は、土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域ならびに特別警戒区域に指定されていたのですが、大雨などの原因が無かったことから市から住民に対しての避難に関する情報は発令されていませんでした。

同じような土砂災害が、今後、全国のほかの地域でも起きるおそれはないのか。もしあるとすれば何に留意すべきか、今知っておくべきことが多い災害と言えます。

発生メカニズムの推定

耶馬溪町で発生した崖崩れはどのようにして起きたのか。筆者は、大きく分けると「3つの異なる崩れ方」によって起こったものと考えました。その形状を【図1】に示します。

まず、崖崩れの主体を占める中央部分(1)は、風化した火山噴出物と崖錐堆積物(がいすいせいたいせきぶつ=崖や急斜面から落下した石・土砂が堆積したもの)が地中にたまった湧水(ゆうすい)の影響で安定を失い崩れ落ちたと考えました。

斜面(1)が崩れた影響で風化していた両横の斜面(2)が崩れ落ち、またほとんど同時に(1)の崩れにより安定を失った斜面上部(3)部分が崩れ落ちたと推定されます。この推定は、避難をして助かった住民が「異なる二度の崩れる音を聞いた」と証言している(*1)ことと合致します。
特に、まだ明確になっていない崖崩れのトリガー(崩壊の引き金)を地下水の影響とした理由は、砂防・地すべり技術センター職員による現地での聞き取り調査で、当日の午前4時過ぎ(筆者注:崖崩れの発生時ごろ)に「水が吹き出る激しい音を聞いた」という証言があったこと、また災害発生後の地形を見ると、崖崩れ中央部の湧水地点付近に「小規模なくぼみ地形」【図2】が見られ、地下水がたまりやすい地形となっていたことなどから判断したものです。

これまで述べてきたことをまとめてみます。長い時間をかけて風化した斜面がギリギリの状態で安定を保っていたところに、少ない水ではあるが湧水により地下水位が上昇し、バランスがくずれて斜面の一部で崩壊が発生した。この崩壊が斜面全体に影響して、斜面はいくつかの部分に分かれて短時間のうちに崩れた。こう考えたのです。
なお、崖崩れに至る過程で地形変動や音など、何らかの前兆現象が生じていたと推定しています。

住民は何を学ぶか

崖崩れからの避難には、自宅二階などへの「垂直避難」が効果的と言われています。一般的な崖崩れで生じる表層崩壊(斜面崩壊のうち、厚さ0.5m~2.0m程度の表層土が崩れ落ちる現象)の場合は垂直避難でも効果がありますが、今回のような深層崩壊(表層土だけでなく、より深い層の地盤までもが崩れ落ちる現象)になると、垂直避難では命が助からない場合があることをぜひ覚えておいてください。特に、崖の高さが高い土砂災害警戒区域に住んでいる方は、原則として警戒区域外に避難する「水平避難」をお勧めします。

4月27日の大分合同新聞には、「4月11日未明、地震のような音で起きた。部屋を出ると台所に土砂が流れ込んでいた。慌てて家族と一緒に屋外に逃げた。」という避難した住民の証言が記述されています。

雨が原因で発生した土砂災害で、事前に避難に関する情報が出ていなかった災害としては、2014年(平成26年)7月9日に長野県南木曽町(なぎそまち)で発生した土石流災害があります。この時にも、災害の前に地震のような振動がしたという前兆現象を住民から聞くことができました。このように土砂災害の発生時には、前兆現象が生じることがよくあります。

今回の災害から学ぶこととして、全国の土砂災害警戒区域内に生活している住民の皆さんは、「何かいつもと違う」と感じた場合や何か前兆現象を見聞きした場合は、直ちに行政に伝えるとともに、たとえ雨が降っていなくても安全な場所に身を移すことを心がけてほしいと思います。

行政は何をするべきか

行政が今回の災害から学ぶことは、「大雨が降らなくても、地震が無くても土砂災害が起こりうる」ということを知っておくことでしょう。しかし、災害発生のおそれが判断できない状況下では、行政も避難に関する情報は発令できません。

そこで、行政は「条件を設定して、斜面崩壊に関係する可能性のある前兆現象を定期的に調べるシステムをつくる」ことを提案したいと思います。その条件とは、今回の耶馬溪町での災害の実態を考慮して、土砂災害防止法に基づく崖崩れの土砂災害警戒区域(全国で約43万か所)のうち風化した火山噴出物が厚く堆積している所で、かつ崖の高さが高い箇所(深層崩壊が発生する可能性のある所)を対象として選定することです。そのうえで選定した現地では、クラック(割れ目)等の地形変化の調査や、住民に前兆現象に関する聞き取りを、定期的に実施します。
また同時に、住民からの異常な現象などの通報を受け付ける窓口を、常に開設しておくことも忘れてはいけません。前兆現象はいつ起こるか分からないのですから。

このようにソフト対策を強化するとともに構造物によるハード対策も計画的に実施すること、言い換えると、行政と住民が一体となって「土砂災害から、地域の安全と安心を確保する平時からの努力」が、まさに今求められていると言えるでしょう。

最後に、過去のコラムで取り上げた「土砂災害の前兆現象」(第8回「地域に残る災害伝承と土砂災害の前兆現象」/池谷)について、改めて記述し本コラムを終えたいと思います。

参考文献:
(*1)大分合同新聞、2018年4月27日

(2018年8月31日 更新)