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堤防と防災

第8回  早期避難のための浸水予測(その2:予測精度と避難について)

執筆者

有川 太郎
中央大学教授・国立研究開発法人 港湾空港技術研究所 客員研究官
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現在の津波警報と避難計画

これまでは、津波からの早期避難について見てきましたが、改めて、津波警報と避難の考え方について整理します。そして、予測精度のばらつきがどの程度あり、それを踏まえて避難はどうあるべきか、考えます。

津波警報は、地震が発生してから約3分を目標に、津波予報区(*1)の単位で発表されます【表1】。この場合、津波の高さを5段階に区切り、0.2m以上で1.0m以下が「津波注意報」、1.0mより大きく3.0m以下が「津波警報」、そして3mを超えると「大津波警報」となります。その大津波警報も、(1)5m以下、(2)10m以下、(3)10mを超えるもの、に分かれます。また、2011年の東日本大震災の教訓から、マグニチュードが8を超えるような巨大地震による津波の場合は、精度のよい地震規模をすぐに求めることができないため、 “巨大”な津波であることを、まず伝えます。そして、地震規模が精度よく求められた段階で、予想される津波の高さを数値で発表することになります。その場合、地震規模が大きな場合には、長周期の地震波形データなども考慮した精度の高いマグニチュードを推定するまで15分程度必要となるようです(*2)。

一方で、避難計画は、東日本大震災以降、考え得る最大の津波の高さに対して対応することになっています。この想定では、堤防は地震時に沈下したり、津波が押し寄せる時に破壊されたりするのが前提のため、その機能を失っています。しかし、実際の津波の高さが「1mより大きく3m以下」の津波警報時では、堤防を越える場合は少ないため、住民意識として「警報」=「避難」と直結しにくい状況となり、それは避難率が低下する要因の一つになりえると思われます。

(*1)気象庁ホームページ 津波予報区について
http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/joho/tsunamiinfo.html
(*2)気象庁ホームページ 気象庁精密地震観測室で試算した「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」のマグニチュードについて
http://www.jma.go.jp/jma/press/1109/10a/201109101100.html

地震の大きさと津波の大きさの関係

津波の大きさを計算する場合、地震発生時に生じる地盤の変動量を水位の上昇量に変換し、その上昇した水位を用いるという方法が、一般的に用いられています。そもそも地震は地下における岩石の食い違い(破壊)によって起こる現象です。破壊がある範囲で起こると断層面ができます。その断層面を計算するためには、断層面の緯度、経度や深さなどの位置情報、断層面の長さや幅などの大きさに関する情報、さらに断層面の向きに関する情報が必要です。そして、その断層面の上で、断層面の状態に応じた水位の変動量や向きなどが決定されることになります。断層面の大きさ(長さや幅)はマグニチュードに比例すると考えられ、また、地震断層の状態は、傾斜角、走向(*3)、すべり角(*4)によって表されます【図1】。

(*3)断層面と水平面の交わる線の方向のこと
(*4)断層面の「下側の岩盤」に対する「上側の岩盤」の相対的なすべり方向のこと

例えば、走向が少し変わると、断層面の陸地に対する距離も変化するため、沿岸部に到達する津波の大きさが異なることがあります。つまり、仮に同じ断層面の大きさでも、傾斜角や走向によって、陸上に遡上する津波の大きさが変化することは十分に考えられるわけです。試しに、東日本大震災時の津波をもとに、異なる走向で計算した例を示します【図2】。これは、東日本大震災時の津波痕跡高(痕跡から計測した津波の高さ、図中「実測値」と記載)と比較したものになっていますが、走向が変わると、図1の「走向が195°(津波が三陸地域に垂直に向かってくる角度)の例では、津波痕跡高と1.5倍程度異なるということが分かります。ちなみに、マグニチュードが変化した場合には、さらに大きく変化することもあります。

実際の避難行動に結びつけるために

このように、沿岸に来襲する津波の高さは、傾斜角、走向、すべり角、などの多少の変動に対して変化することが分かります。さらに岩石が破壊されるスピードも、津波の高さに影響することが分かっています。それを踏まえて避難行動をどのようにすべきかを考えてみましょう。

地震発生から津波来襲までの時間は、日本海側では震源が海岸線に近いことが多かったため、比較的短時間でした。現に1983年の日本海中部地震では約7分、1993年の北海道南西沖地震では数分で、海岸に津波が来襲しました。北海道南西沖地震では、断層の破壊時間が1分程でしたから、もし同様の地震が起こった場合は、揺れが収まった後、「迷うことなく避難しなければ間に合わない」と考えられます。一方、2011年の東北地方太平洋沖地震のような海溝型地震の場合は、巨大な津波が襲ってくるまでに比較的時間がかかります。

これまでに述べてきたことを整理すると、以下のようになります。

さらに備えるために

「津波注意報や警報」が発せられたとき、皆さんは避難をすべきかどうか悩むと思われます。そのような場合には、「津波の高さは、予測の倍程度になる可能性を考慮」し、自分がいる場所の標高や堤防の高さも考えて、避難することを決断するとよいと思います。例えば、1m程度の予測の場合、2m程度の津波の襲来に備え、堤防の高さが足りない場合は、堤防から離れ、高い場所に避難します。また、避難経路の確保も非常に重要です。津波の来襲方向の違いや、堤防が破壊されたときの影響などをさまざまに考え、「避難の途中で津波に遭遇しない経路」をあらかじめ検討しておくことが重要です。日頃から避難場所だけでなく、避難経路まで含めて考える習慣をつけておくことが大切で、それを支援するアプリケーション(出版物、防災アプリなど)や、それらを活用する社会的な仕組み(それを補助するための、法整備を含めた行政の仕組み)を構築することが急務だと考えます。

(2018年6月29日 更新)