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落雷・突風

第22回  “大気が不安定”とはどういうことか?

執筆者

小林 文明
防衛大学校地球海洋学科教授 理学博士
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大気の「安定と不安定」

よくニュースや天気予報で、「気温が上昇し、大気が不安定になり~」、「上空の寒気の影響で大気が不安定になり~」、「低気圧の接近で大気の状態が不安定になり~」、「湿った空気が流入して大気の状態が非常に不安定になっており~」などという表現を耳にします。今回は、大気が不安定になるとはどういう現象なのか、不安定になると何が起こるのかという基本的なことを解説します。

一般に、2つの流体(気体と液体の総称)が接しているとき、冷たく重い空気が下の方にあり、暖かく軽い空気が上の方にあれば「安定」状態ですが【図1左】、逆に暖かい空気が下にあり、冷たい空気が上にあると「不安定」となります【図1右】。また、暖かい空気と冷たい空気が隣り合わせにある場合も「不安定」です【図1中】。

例えば、日射により地表面が加熱されると地面付近の空気は暖かくなって軽くなり、浮力を得て上昇します。このような大気の運動を「対流」と言います。熱的な不安定による対流は「自由対流」と呼ばれます。このうち日射のように一様に加熱されて発生する対流は、「熱対流」とも言われます【図2】。真夏の入道雲のように、強い日射が原因で発生する積乱雲は熱対流であり、地表面が最も熱くなる午後に発達しやすいという特徴があります。

積乱雲が発生する要因は強い日射だけではありません。積乱雲の発生に必要な上昇流は、外部の力で生じる場合もあります。具体的には、前線や低気圧、台風などの大気現象に伴う上昇流や地形が原因で発生する上昇流などです。この場合、日射は不要ですから、時刻を問わず積乱雲が発生することになります。

対流によって上昇していく地上付近の空気のうち水蒸気が凝結して水滴になり、発達したのが積雲や積乱雲です。積乱雲が発生して雨が降ると、冷たい空気が下降して大気は安定状態になります。つまり熱的な不安定は、対流という運動によって雲が形成され、その後の降雨によって解消されるのです。

なぜ上空に寒気が入ると不安定になるのか

熱的な不安定は、強い日射で地表面が加熱されても生じますが、上空に寒気が進入して上空が冷やされたときも同様に不安定になります。さらに、強い日射があり、かつ上空に寒気が入ると非常に不安定となります。“雷三日”と言われるように、梅雨明け時、夏の終わり、あるいは春や秋に、強い日射で地表面が加熱されたとき、同時に上空に寒気が入り込むと、大気は非常に不安定になります。寒気が抜けるのに数日かかるため、広範囲にわたり不安定な状態は続き、山間部、平野部を問わず至る所で積乱雲(雷雲)が湧くことになります。

春や秋の晴れた日、強い日射があれば地上気温は25℃を超えます。一方、高度5km程度の上空に-20℃くらいの強い寒気が進入すると、地上と上空の温度差は45度に達します。冬の時季、第一級の寒気(-40℃くらい)が南下した場合も、日本海上(対馬暖流上)の気温は5℃くらいなので、温度差は45度になります【図3】。このように、季節を問わず上空に寒気が進入すると大気は不安定になります。

地上の空気の塊が上昇する場合を考えてみます。例えば、空気の塊(風船)を、ある高度まで持ち上げて手を離したとします。(地上付近では、空気は100m上昇すると温度が1℃下がります。)周囲の気温が高ければ、空気の塊の温度は周囲より低くなり(重くなり)、風船は手を離すと下降します(【図4】のa)。一方、周囲の気温が低ければ、空気の塊の温度は周囲より高くなり(軽くなり)、手を離すと風船はそのまま上昇するのです(【図4】のb)。
実際の気温は時間や場所により異なりますが、同じ高度で比べた空気の塊の温度と周囲の温度との差によって安定・不安定が決まります。

さまざまな極端気象を伴う寒冷渦

上空の寒気が南下する際、しばしば偏西風の蛇行が大きくなり、最後には寒気が偏西風から切り離されることがあります【図5】。この現象は、「切離低気圧」とも呼ばれ、寒気を伴っている点と動きが遅いのが特徴です。

寒気の中で発生する低気圧は、「寒冷渦、寒冷低気圧」などとも言われ、スケールの大きいものは最近では「ポーラーロウ(Polar low)」と呼ばれます【図6】。寒冷渦は強い寒気によって大気が不安定になるだけでなく、台風のような構造をしているために、暴風雨雪、落雷、竜巻などの極端な気象を伴います。

例えば、2013年3月上旬に北海道で暴風雪をもたらした低気圧、2005年12月25日に山形県酒田市で発生した竜巻や2006年11月7日に北海道常呂郡佐呂間町で発生した竜巻をもたらした低気圧は、いずれもポーラーロウ(寒冷渦)です。

(2018年7月2日 更新)