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地震全般・各地の地震活動

第19回  切迫している千島海溝の超巨大地震と津波の発生

執筆者

平田 直
東京大学地震研究所教授 地震研究所地震予知研究センター長
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千島海溝付近の巨大地震

北海道太平洋沖の千島海溝付近では、1973年根室半島沖地震や2003年十勝沖地震など、過去に繰り返し巨大地震が発生し、強い揺れと大きな津波が沿岸に襲来して甚大な被害がもたらされました。このような状況から、2017年12月に、地震調査研究推進本部・地震調査委員会は、千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)を13年ぶりに新たに公表し、「マグニチュード(M)8.8程度以上の非常に大きな地震の発生する可能性が高い」と注意喚起しました(*1)。

北海道では、地層に残された過去の津波の痕跡を古くまでさかのぼって調べることができるため、M9クラスの超巨大地震の発生確率が推定されました。超巨大地震の発生確率は、南海トラフや相模トラフでは求めることができず、今回の報告が初めてです。

北海道の太平洋沖では、超巨大地震のほかに、「M8程度のプレート間巨大地震」、「巨大地震より一回り小さいM7程度のプレート間地震」、「沈み込んだプレート内のやや浅い地震」、「沈み込んだプレート内のやや深い地震」など、さまざまな大地震が発生しています。それらの地震の種類を整理したのが【図1】です。

17世紀に発生していた超巨大地震

近年の研究から、2011年東北地方太平洋沖地震のようなM9クラスの「プレート間超巨大地震」が、千島海溝付近でも発生していたことが明らかになりました。このような地震が発生すると、北海道の東部(十勝・釧路・根室)に巨大な津波がもたらされます。

「津波堆積物の調査研究」によると、北海道東部太平洋側では17世紀に、沿岸から1km~4kmの内陸まで浸水するような巨大な津波の発生が推定されています。こうした大きな津波を発生させた地震は、2011年東北地方太平洋沖地震のように、プレート境界で海溝付近まで破壊が進行する超巨大地震です。地震規模はM8.8程度以上と考えられ、このような地震を地震調査委員会では「超巨大地震(17世紀型)」と呼んでいます。

この超巨大地震は、過去6,500年間に18回、あるいはそれ以上発生しています(*2)。地震ごとの発生間隔は約100年~800年とばらつきがありますが、平均発生間隔は約340年~380年と考えられています。17世紀の発生から既に400年程度が経過しているため、次の超巨大地震の発生が切迫している可能性が高いと考えられます(*1)。今回の新たな評価では、この超巨大地震(17世紀型)が30年以内に発生する確率は、7%~40%とされました【図2】。

プレート間巨大地震

今回の新たな評価では、千島海溝付近で、超巨大地震のほかにも、2003年十勝沖地震(M8.3)や1973年根室半島沖地震(M7.8)のようなプレート間巨大地震の発生が予想されました。30年以内に発生する確率は、十勝沖で8%、根室沖で80%程度、色丹島沖および択捉島沖で60%程度という高い確率となっています。また、これらより一回り小さいM7.0~M7.5程度の地震は、80%~90%と極めて高い確率で発生すると考えられています。

さらに、十勝沖から択捉島沖にかけての海溝寄りのプレート間地震では、通常の揺れはそれほど大きくなくても、高い津波をもたらす地震(津波地震)が発生する可能性があり、津波の高さは、M8.0の地震によるものと同じ程度になると考えられています。この津波地震が30年以内に発生する確率は50%と、大変高い値と推定されています。

プレート内地震

1994年には、「沈み込んだプレート内の浅いところ」でM8.2の北海道東方沖地震が発生しています。この地震は陸地に近かったため揺れが強くなり、択捉島内で被害が出ました。このようなM8.4前後の地震が、今後30年以内に発生する確率は30%と推定されました。

また1993年に、M7.5の釧路沖地震が起こりました。このようなM7.8程度の「沈み込んだプレート内のやや深い地震」が発生する確率は、50%程度と考えられています。

プレート内で、今後30年以内に地震が発生する確率は、いずれも高い値です。

さらに、海溝軸(海のプレートが陸のプレートの下に沈み込む境界。【図1】)の外側(東側)のプレート内部で巨大地震が発生すると、陸での揺れはそれほど大きくなくても、高い津波が押し寄せます。この典型的な例としては、日本海溝沿いの領域で1933 年に発生したM8.1の昭和三陸地震(最大震度5、死者・行方不明者3,064人)があります。ただ、今回の新たな評価対象となった北海道の太平洋沖の領域では過去に例がないため、地震が発生する確率を計算することができませんが、千島海溝軸の外側(東側)でM8.2前後の地震が発生する可能性があります。

このように、プレート境界の超巨大地震やプレート内の巨大地震など、北海道の太平洋沖では巨大な地震の発生する確率が大変高いと言えるでしょう。特に、M9クラスの超巨大地震が過去に複数回発生している確実な証拠があるのは、日本でもこの地域だけです。十分に警戒して、強い揺れと大きな津波への対策を講じておく必要があります。


参考文献:
(*1)地震調査研究推進本部地震調査委員会(2017), 千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)平成29年12月19日
https://www.jishin.go.jp/main/chousa/kaikou_pdf/chishima3.pdf
(*2)平川一臣・中村有吾・西村裕一(2005):北海道太平洋沿岸の完新世巨大津波:2003 十勝沖地震津波との比較を含めて, 月刊地球号外,49,173-180.

(2018年5月31日 更新)