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火災・防火対策

第8回  最近の物流関連施設火災からの教訓 ~社会の変化に伴う防火安全上の課題と対策~

執筆者

山田 常圭
前総務省消防庁 消防研究センター 所長
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物流施設で火災が起こるとどうなるか

一般に「火災による損害」といえば、火災に遭った建物や施設等、単体としての物的損害または人的被害を指すことが多いのですが、最近では、社会構造の高度化・複雑化に伴い、社会インフラの機能喪失による社会的な間接損害も無視できなくなってきています。

1件の火災が社会全体に多大な影響を及ぼすことが認識され始めたのは、日本坂トンネル火災(1979年)や世田谷電話局洞道(とうどう)ケーブル火災(1984年)といった、社会インフラ施設の火災がきっかけではなかったかと思います。前者では、我が国の物流の大動脈である東名高速道路が1週間通行止めになり、完全復旧までにさらに2か月を要し、日本経済に少なからぬ影響があったと考えられています。また後者では、世田谷電話局管内の加入電話9万回線を始め、関連する銀行のオンラインが使用不能となり、完全復旧までに1週間を要して多くの人々が不便を強いられました。こうしたインフラ施設の火災以外にも、タイヤ等自動車部品の工場火災によってサプライチェーン(*)が絶たれ、数万台の減産、経常利益で数百億の利益が逸失する事態も何件か報告され、民間企業では火災や地震等におけるBCP(事業継続計画)の重要性が認識されるようになってきました。

今日、私たちの日々の生活に無くてはならない食料品をはじめとする多種多様な物資は、さまざまな運輸手段や物流拠点を経て、我々の手元に届いています。このサプライチェーンのどこかで火災が発生すると、それがもたらす影響は大きなものとなります。今回は、私たちの生活を支える物流施設の火災事例をもとに、最近の社会変化に伴う防火安全上の課題と対策について紹介します。

(*)サプライチェーン:ある製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、販売、配送を経て、最終消費者に届くまでの全体的な流れのこと

大規模物流拠点施設での火災と今後の対策

ネット通販や宅配便による利便性の向上に伴い、家庭に居ながらにして品物が手に届く時代になってきました。しかし2017年2月、埼玉県で発生した大規模倉庫火災【写真1】では、物流を支える拠点施設での防火上のぜい弱性が明らかになりました。この建物は、幅240m・奥行き109mの3階建て、延べ面積は7万2,000平方メートルという大規模耐火建築物ですが、焼損床面積は糸魚川市街地火災(2016年)の焼失面積約4万平方メートル を上回る4万5,000平方メートルにも及びました。また出火から消防隊による鎮圧まで6日間、鎮火まで12日を要する、1棟の建物火災としては例を見ない大火災となりました。

この火災では、多くの防火シャッターで不作動や降下障害が起きたため防火区画が適切に形成されず、1階で発生した火災が2、3階全体に延焼拡大したこと、また外壁に開口部が少なく、屋外から内部への消防隊の進入や消火活動が著しく制約されたことなどが、大規模な火災となった大きな要因と考えられています(※1)。

建物火災の延焼拡大防止や避難安全計画では、「防火区画や安全区画によって空間を区切り、火災の影響を局限化する」ことが基本となりますが、物流施設では反対に「物の流れをスムーズにするため、一体化した空間を確保する」ことが重要となります。今後、大規模物流拠点施設の需要はますます増大していくと考えられるため、今回の火災を教訓に、物流施設においても、火災時に防火シャッターが確実に閉鎖する等、火災が拡大しないような対策がなされるよう期待しています。

なお、この火災では、多くの在館者がいたにもかかわらず、人的な被害が負傷者2人にとどまったのは不幸中の幸いでした。最近の物流倉庫は、機械による自動化が進んでいるとはいえ、多くの従業員が仕分けなどの作業に当たっています。建物内は多数のコンベヤーが複雑に配置されており、単純明快な避難経路の確保が困難なケースもあると考えられます。消防庁では、こうした大規模倉庫火災の教訓である、

1.火災発見時は直ちに適切な通報
2.屋内消火栓設備または屋外消火栓設備を用いた確実な初期消火
3.従業員全員が円滑に避難できることを確認する避難訓練

の3点をもとにした、消防訓練を実施するためのリーフレット(※2)を作成しています。関係者の皆さんはぜひ参考にしていただきたいと思います。

大規模木造市場等の火災と地域コミュニティーの社会的責務

ネット通販の急速な利用拡大や郊外大規模店舗の増加の一方で、古くからある町なかの身近な商店街が、いわゆる「シャッター通り」と化して廃れていく傾向がうかがえます。防火安全上、特に気がかりなのは、以前から物流の末端で庶民の食卓を支えていた大規模木造市場や商店街の動向です。

安全管理の分野では、「ハインリッヒの法則(1件の大きな事故・災害の裏には、29件の軽微な事故・災害と、300件の事故・災害に至ったかもしれない危険な状態がある)」が知られていますが、市街地火災における防災上の観点でも、同様のことが言えるのではないかと思っています。

糸魚川市の大規模市街地火災(2016年)は、酒田大火(1976年)以来40年ぶりと言われていますが、国の検討会の報告書(※3)では、『全国どこでも木造の建築物が多い地域においては、強風下で火災が発生し今回のような大規模な火災になり得る』とされています。実際、糸魚川市街地火災ほどではないですが、稚内市(2000年)や城崎温泉(2015年)等、1街区を焼失する規模の火災は全国で多数発生しています。また2017年10月には、明石市の大蔵市場において、強風下で糸魚川市と類似した火災も発生しています【写真2】。

特に、老朽化した木造建物が密集している旧市場や商店街は、かつては地域の庶民の台所として親しまれ、地域コミュニティーの社交の場であったものが、世代交代とともに、市街地火災の火種となりうる以下のような火災リスクが高まっています。

1) 空き家の増加や住人の減少等の理由で、火災の発見通報が遅れがちであること
2) 短時間に、急速に隣棟に延焼拡大する危険が高いこと
3) 周辺道路が狭あいで消防活動が困難であること

実際、こうした旧市場等では、【表1】に示すようにここ10年に限っても多くの都市で類似した火災が発生しています。2000年に起きた稚内市の市街地火災では、強風下、旧市場で発生した火災が周辺街区にも延焼しました【写真3】。

旧市場等の木造密集地域においては、権利関係が複雑なものが多く、所有者や居住者の高齢化も進んでいるため、防火上安全性の高い住宅に直ちに建て替える方策は、非常に困難です。そのため防火対策には、地域の特性に根ざした長期的な防火戦略が不可欠だと考えられます。このような地域での防火対策においては、早期発見・初期消火が特に重要と考えられ、その取り組みが消防本部独自で行われています。

例えば北九州市では、市内にある6つの市場へのモデル事業(※4)として、無線連動型の火災感知器設置を用いた周辺住民との公助・共助の連携による見守り活動や、店舗関係者や近隣住民、さらには買い物客らが、いざというときに容易に初期消火活動ができる対策を推進しています【写真4】。市場等の関係者が自主的に火災予防に取り組む自助努力の必要性は言うまでもありませんが、市民を巻きこんだ草の根的な防火運動は、市街地火災の予防対策の要であると考えています。

新しい防火安全対策の必要性

火災は、映し鏡のように、その時々の社会変化に伴うひずみや課題をあぶり出すと言われています。今回紹介した物流関連施設においては、大規模物流拠点のような新しい様態の建物には新しい防火安全対策が必要になりますし、また一方で、社会に取り残され、老朽化した防火上ぜい弱な木造密集市場等では、公助・共助によるコミュニティー確保のための防火戦略が不可欠です。かつて地域の住民が慈しみ育んできた旧市場や商店街が、「もう古くなったから」と背を向けられるようなことになれば、その代償は想像以上に大きなものとなるのではないかと懸念しています。


(参考文献)
※1:消防庁「埼玉県三芳町倉庫火災を踏まえた防火対策及び消防活動のあり方に関する検討会報告書」平成29年6月
http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h29/miyoshimachi_souko_kasai/houkoku/houkokusyo.pdf
※2:消防庁「大規模倉庫における火災の教訓」平成30年1月
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList4_8_h29/pdf/leaflet.pdf
※3:消防庁「糸魚川市大規模火災を踏まえた今後の消防のあり方に関する検討会報告書」平成29年5月http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h29/itoigawa_daikibokasai/index.html
※4:北九州市消防局「木造市場等防火安全対策モデル事業 結果報告書」平成28年7月
http://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000742405.pdf

(2018年4月27日 更新)