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日本の火山活動

第16回  草津白根山の噴火 ~突然の噴火が意味するもの~

執筆者

藤井 敏嗣
東京大学名誉教授 前火山噴火予知連絡会会長
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本白根山、突然の噴火

2018年1月23日、突然、草津白根山が噴火し、火口から飛来した噴石に当たって1人の自衛官が亡くなったほか、11人が重軽傷を負いました。

この噴火は、もともと地下の浅い所にあって安定していた熱水だまりが何らかのきっかけで不安定化し、熱水が一挙に水蒸気化して、体積が急膨張したために生じた水蒸気噴火であったと考えられます。地下深くからマグマが上昇して、地下水を加熱したというたぐいのものではありません。

映像では小規模な「火砕サージ(*1)」と呼ばれる、火山灰が斜面に沿って高速で流下する現象も確認されました。雪をとかすこともなく、樹木を燃やすこともなかったので、ごく低温のサージだったようです【写真1】。

(*1)火砕サージ:噴火によって放出された高温の火山ガスと細かい火山灰とが混合した砂嵐のような現象

噴火は短時間で終わり、雪面に落下した噴石が雪をとかすこともなかったので、地下の熱水だまりもおそらく規模が小さく、温度もあまり高くなかったものと思われます。火口から立ち昇った噴煙もそれほど高く上がらなかったので、比較的低温であったことを示しています。

この噴火では本白根山の鏡池火口付近に新たに作られた火口群から、火山灰や噴石が放出されました。割れ目に沿った複数の火口からの噴火で、この割れ目も少なくとも2か所に発生したようです【図1】【図2】。

今回の新しくできた火口は、スキー場のコースから数百mしか離れていませんでした。このため、火口から飛び出した噴石の直撃によって犠牲者が出たわけですが、一部の噴石はスキー客が乗った運行中のゴンドラをも襲い、窓を壊してゴンドラ内に飛び込みました【写真2】。

この噴火が衝撃的だったのは、噴火場所が、気象庁が重点的に監視観測していた白根山の湯釜火口付近ではなく、これまで3000年以上活動がないと思われていた本白根山であったことです。本白根山では、これまで噴気が見られたこともなく、直下での地震活動もなかったのです。しかし白根山では、湯釜付近でたびたび噴火が起きてきました。最も新しい噴火は1983年でしたが、その後も時折、直下での地震活動や熱異常の拡大などが認められていました。

気象庁が監視している火山

気象庁によれば、草津白根山では噴火記録のある湯釜を重点的に監視していたため、本白根山での噴火は想定外だったとしていますが、実はこの点に、わが国の火山防災の問題があるといえます。

気象庁は最近100年程度の間に噴火したことがあるか、あるいは地震活動などを観測したことのある火山を常時観測火山として、24時間体制で監視しています。つまり、地震計などの近代観測装置が開発されて以降、異常が観測された火山を要注意火山としているのです。全国に50あり、草津白根山もその一つです【図3】。

本白根山を重視していなかったとはいえ、湯釜の活動を監視している地震計は本白根山の北2km以内にあったのです。しかし、それほど遠くないこの距離でも、今回の噴火の前兆となる異常現象、すなわち火山性微動を観測したのが噴火の数分前でしかなかったことは、水蒸気噴火の前兆をとらえることの難しさを示しています。

ほとんどの常時観測火山では、気象庁の観測点は火口から3km程度は離れていますから、他の火山でも、本白根山のように水蒸気噴火が突然起こる可能性がありえます。

さらに、わが国には111の活火山がありますが、北方領土や海底火山を除くと90近くです。これらの火山で噴火が起こると日本国民が影響を受ける可能性がありますが、常時観測火山以外には気象庁の火山観測点は置かれていません。つまり40弱の火山は無監視状態なのです。

このような火山に対して、気象庁は「日本中に張り巡らされた地震調査観測用の地震計のデータを利用して監視している」とこれまで説明してきました。しかし、これらの地震計は、ほとんどが火山から10km以上離れているのです。本白根山の突然の噴火を経験した今となっては、10km離れた地震計で火山噴火を監視できるといわれても納得できません。「噴火規模が非常に大きい場合」は何らかの現象を捉えることが可能だとしても、今回のような「比較的小規模の水蒸気噴火」では、噴火したことすら分からないはずです。

火山観測の充実を

水蒸気噴火に対する防災のあり方については、抜本的に見直すべきです。
水蒸気噴火の予知が困難であることを前提に、登山客やスキー客が火口近くにまで接近する可能性がある火山では、突然の噴火に備えて、まず火口周辺にシェルターなどの一時的避難場所を用意することが重要です。既存の山小屋などの屋根を強化して、避難場所の機能を持たせることも考えられます。

そして、すべての火山に少なくとも1か所は地震計や傾斜計、火口カメラなどを備えた観測点を設置し、水蒸気噴火やマグマ噴火を問わず、最低限の対応として「噴火したという事実」をキャッチし損ねないようにする必要があります。

火山の寿命は、人間の寿命の数千倍から1万倍程度あります。その間に火山が、数百年~数千年程度休んで、また活動を再開することも珍しくありません。地震計が発明されて以降の100年程度静かだからといって、安心だということにはならないのです。

本来なら、地質調査によって、全ての活火山の噴火履歴を洗い直して、個々の火山の噴火様式の特徴や噴火の頻度を理解したうえで、それに応じた観測体制をとるべきなのです。火山の噴火履歴については、これまで大学などの研究者の個人的興味による調査に任せてきました。これでは、何年たっても全ての火山の詳しい活動履歴など分かるはずもありません。

阪神・淡路大震災の後で、地震本部は100以上の活断層の活動履歴を計画的なトレンチ調査(*2)により解析し、活断層の活動時期やそれによって引き起こされる地震の評価に活用しています。

この活断層調査と同じように、国が責任をもって、全ての活火山の噴火履歴をボーリングやトレンチ調査によって詳細に解析し、適切な観測体制を再構築すべきでしょう。

(*2)断層(面)を横切る方向に細長い溝を掘り、地層を露出させて行われる調査

発表されなかった噴火速報

この噴火でもう一つ問題となったのは、噴火速報が出されなかったことです。噴火速報は、御嶽山噴火の後、気象庁が発表することになった新たな火山情報です。噴火が発生してから出される情報なので、噴火に直面している火口周辺の登山客などには間に合わないかもしれませんが、噴火速報は本来、後続の登山客に危険を知らせるものなのです。

噴火が発生すると、気象庁は火山観測報を出すことになっていますが、噴煙の高さなどを測定する必要があり、発表までに数十分は時間がかかります。そのため、噴火したという事実だけを迅速に伝えるために、噴火速報が考えられたのです【図4】。

今回の噴火は幸いにして短時間で収まりましたが、噴火は次第に大きくなることもよくあります。噴火直後に発生の事実を知らせることは、被害を最小限に抑えるために有効なのです。気象庁には、噴火速報を速やかに発表できる仕組みを確立してほしいものです。

(2018年3月30日 更新)