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落雷・突風

第20回  積乱雲の中では何が起こっているのか

執筆者

小林 文明
防衛大学校地球海洋学科教授 理学博士
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雲の中で生成される降水粒子

「落雷・突風」コラムも今回で20回となりました。記念すべき20回目は、雨(豪雨)、風(突風)、雷の原因となる積乱雲の内部構造にスポットを当てます。

毎年、突然の豪雨や降雹(こうひょう)が各地で観測され、真夏なのに氷の塊が降ってきて驚いた、という人も多いことでしょう。雲の発生からわずか10分足らずで降雨が始まるように、雲の中では驚くべき効率的な降水粒子の生成が行われているのです。では、どうして直径数十cmもの雹が出来上がるのでしょうか。今回は、雲の中のミクロな世界(雲物理)をのぞいてみましょう。

雲の中の“ミクロな物理現象”

一般に、夏の積乱雲(入道雲)は、強い日射により地表面が加熱され、軽くなった空気塊(くうきかい)が浮力を得て上昇気流が生じることで発生を始めます。空気塊は、上昇すると気圧が低下するので膨張しながら冷却されます。地上付近の空気塊はどんなに湿っていても相対湿度(一般的に言う湿度)は100%未満(未飽和)ですが、上昇しながら冷却され、ある高度(温度)に達すると、飽和(相対湿度100%)に達し、凝結(気体の水蒸気が液体の水滴に変化)が始まります。これが雲の発生です。雲の底が平らなのは、凝結高度以上の高さで雲粒(水滴)が形成され、目で見えるようになるためです。出来たての水滴(雲粒)の直径は10μm(ミクロン、1μm=1000分の1mm)程度であり、これが50~100μmの雲粒に成長していきます【図1】。

ここで重要なのは雲内の温度構造です。地上気温を30℃とすると、雲底(凝結高度)は高度1km程度(20℃)であり、0℃レベルは高度3km程度、-10℃レベルが高度5km程度、雲頂付近では-30℃を下回ります【図2】。

凝結した雲粒は、雲内の気温が氷点下になると凍る(固体になる)と思いがちですが、雲の中ではマイナスの気温(だいたい-30℃まで)でも凍結せずに液体のままで存在します。この状態を、過冷却といいます。つまり、積乱雲の中層内部は、過冷却水滴で満ちているのです。

降水の仕組み

雲の中で雲粒は過冷却のまま上昇しますが、気温が-50℃程度の対流圏界面(※)付近に達すると、凍結して氷晶(小さな氷の粒)になります。雲頂付近では上昇流がなくなり、氷晶は重力で落下を始めます。氷晶が、大量の過冷却雲粒が存在する積乱雲の中層に落下すると、周りの雲粒(過冷却水滴)は一気に凍結して(水蒸気が直接固体になり氷晶が成長するライミング)、雪の結晶として成長します。さらに雪結晶は落下しながら雲粒を捕捉します。この過程が、わずかな時間で氷晶が大きな雪の結晶(雪片)に成長する種明かしなのです。実際の雪の結晶をよく見ると、六角形の樹枝状結晶に、凍結した水滴(雲粒)が数多く付着しているのが分かります。雪片は、0℃レベルで融解して雨滴(直径1mm以上)になり、お互い衝突してより大きな雨滴に成長します(雨滴の併合)。冬季に、地上で雪になるか雨になるかを予報するのは難しいですが、夏でも冬でも、雲の中ではもともとは雪であり、それが溶けるか溶けないかの問題なのです。直径1mm程度の小さな雨滴は球形ですが、直径3mmを超えた大雨滴は空気抵抗により、へん平(お供え餅のような平たい形状)になります。直径5mmを超えると雨滴は分裂します。

(※)大気圏を構成する層のなかで、最も地表に近い対流圏と、すぐその上の成層圏との境界面。上空12kmくらいに存在する。

このように、地球の中緯度で発生する積乱雲は氷晶過程を含んだ降水の仕組みを有し、“冷たい雨(cold rain)”と呼ばれます。それに対して、熱帯の積乱雲は0℃より暖かい高度における現象であり、相対的に大きな雨滴(落下速度が速い)が小さな雨滴を捕捉して成長(雨滴の捕捉)するため、氷晶過程を含まない“暖かい雨(warm rain)”と呼ばれています。

巨大な雹の形成

雨滴は大きいものでも直径5mm程度なのに、氷の塊である雹(一般に、直径5mm以上の氷粒子を雹、5mm未満を霰(あられ)として分類します)は、どうして数十cmにまで成長できるのでしょうか。凍結水滴や霰が過冷却雲粒を捕捉して大きくなったものが雹ですが、雹の成長には2つの過程があります。1つは、過冷却雲粒が瞬時に凍結する場合(乾燥成長)で、もう1つは、表面温度が0 ℃まで上昇して過冷却水滴が時間をかけて凍結する場合(湿潤成長)です。実際の雹は、この2つの過程を繰り返して成長するために、雹の断面を見ると透明な層と不透明な層が年輪のように存在しています。

よく雹のでき方について、積乱雲の中でぐるぐると上昇・下降を何回も繰り返して成長するという説明がなされます。初期の小さな雹粒であれば、このような過程もあり得ますが、巨大な雹がそれほど簡単に上がったり下がったりできるとは思えません。巨大な雹を生むのが、特別な積乱雲「スーパーセル(単一巨大セル)」です。スーパーセル内では、強い上昇流と強い下降流が背中合わせで存在し(第2回コラム<すさまじい下降流、ダウンバースト>の【図1】(*1))、メソサイクロンと呼ばれる回転の中心に位置する上昇流はあまりにも強いため、たとえ雹粒ができてもその中心では吹き飛ばされてしまいます。

一方、雹は上昇流域から離れてしまうと、重力で落下します。しかし、上昇流の中心から少し離れた所、重力と上昇流がうまく釣り合って雹が漂っていられる場所では成長を続けます【図3】。さらに、スーパーセルでは雲自体が回転しているため、雹は上昇流のコア(中心部)の周りを回転しながら漂うことができます。雹は成長して重くなると落下しますが、上昇流のコアにより近い(上昇流がより速い)場所では、力が釣り合い落下しません。巨大なスーパーセルが発生すれば、上昇流も強く、落下せずに漂っている雹は結果として大きくなります。トルネードの近傍で降雹が観測されるのも、この構造によります。スーパーセルは、「トルネードストーム」だけでなく、「ヘイル(雹)ストーム」とも呼ばれています。

“雲をつかむ”話

これまで長い間“雲はつかめないもの”と考えられ、気象学では「いかに雲を正確に観測するか」が大きな課題でした。最新のフェーズドアレイレーダー(第8回コラム<竜巻予測の最前線>(*2))は、時間分解能(観測の時間間隔)が飛躍的に向上しただけでなく、感度も良くなり、雲粒子や氷晶からのエコーも捉えることが可能になりました【図4】。実際に発生した積乱雲の発達過程(左)とレーダーで観測したデータを3次元CGで表示(右)した結果を比べると、積乱雲の発生初期から上空の「かなとこ雲」に至るまで、ほぼ再現されていることが分かります。ようやく、雲をつかめるようになりつつあるのです。

(*1)第2回 すさまじい下降流、ダウンバースト/小林文明
(*2)第8回 竜巻予測の最前線/小林文明

(2018年2月28日 更新)