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落雷・突風

第19回  検証:花火大会の落雷事故

執筆者

小林 文明
防衛大学校地球海洋学科教授 理学博士
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突然の雷雨に身を隠す場所がない

2017年8月19日に関東地方は雷雨に見舞われ、多摩川河川敷の運動公園(東京都世田谷区)で花火大会に来ていた男女7人が落雷で負傷しました。花火も雷も夏の風物詩とはいえ、楽しいはずの花火大会が中止になっただけでなく、突然の風雨と落雷に驚き恐怖の体験をされた方も多かったと思います。過去にも花火大会時の雨、風、雷によりさまざまな問題が生じています。今回は、この花火大会の事例を検証します。

急速に発達した巨大積乱雲

8月19日当日は朝から晴れて夏らしい日でした。午前中から各地で積雲、積乱雲の発生が確認できましたが、お昼の段階でこれほどの積乱雲が発達することは想像できなかったのではないでしょうか。その後、東京23区内では夕方にかけて天気が急変しました。多摩川河川敷の落雷事故(午後6時頃)前の午後5時34分に横須賀から観測された積乱雲を見ると、発達中の巨大な積乱雲が既に東京上空を覆っていたことが分かります【図1】。この積乱雲を遡ると、午後3時頃から東京北西部で湧き始め、午後4時頃になると東京23区北西部で急速に発達し、その後徐々に南下しました。

フェーズドアレイレーダー(第8回コラム<竜巻予測の最前線>(*1))で捉えた積乱雲の3次元エコーを見ると、エコー頂高度が15kmを超える非常に発達した積乱雲エコーがちょうど落雷事故現場に達していたことが分かります【図2】。この積乱雲の発達過程は、練馬豪雨(1999年7月21日)に見られた積乱雲(第3回コラム<局地的大雨・雷・竜巻を生む巨大積乱雲>の【写真2】(*2))とよく似ており、雲頂の「かなとこ雲」が急速に広がるのが特徴的でした。実際に、100mm/hを超える局地的な豪雨だけでなく、降雹(こうひょう)も都内で観測されました。

当日午後4時から午後6時の落雷位置を10分ごとに色分けして地図上に描くと、落雷は北西から南東にかけて時間とともに広がった様子が分かります【図3】。巨大積乱雲の形成は、落雷の集中ももたらし、都内の広範囲で落雷が頻発し、この日の関東南部では1万回を超える落雷が観測されました。

花火見物客に何が起こったか

落雷事故周辺の多摩川河川敷では、午後6時には既に多くの見物客が集まっていました。北の空から近づいてくる真っ黒な雷雲と雷放電を目の当たりにして退避行動を開始した人もいましたが、河川敷にとどまった人も少なくありませんでした。雷撃事故は午後6時頃、河川敷への落雷によって生じました。目撃証言から、運動公園のポールに雷撃があったと考えられ、このポールの近くにいた方が雷電流による被害(やけど)を受けたものとみられます。雷撃時における各人の姿勢は分かりませんが、多くの人が座っていたことを考慮すると、地面を伝わった雷電流が人体に流れた(例えば体育座りであれば、お尻と足先の間に電流が流れた)と推測され、電流が心臓を通らなかったために命に別状はなかったものと思われます。今回はポールが避雷針の役割を果たしたといえますが、直接人に落ちる可能性もあったわけです【図4】。さらに、河川敷で傘をさした人も数多くいましたが、これは大変危険ですので絶対にやめましょう(第5回コラム<雷から身を守るために>(*3))。

花火大会ではどこに身を隠す?

今回落雷事故のあった河川敷という場所は、海水浴場(海岸線)や山のりょう線などと同様に、周囲に逃げる場所がないという意味では危険な場所といえます。しかも花火大会という大きなイベントでは数万人規模の人が移動します。また、朝から場所取りをして離れるわけにはいかないという心理が働き避難が遅くなりがちで、大勢の人がいる中でスムーズな行動も期待できません。河川敷はもともと身を隠す場所が少なく、落雷だけでなく、竜巻などの突風や豪雨(河川の増水)の危険も高い場所です。当日、近くの橋の下で雨宿りをした人も見られました。とっさの判断としては致し方ありませんが、お勧めできる退避場所とはいえません。

ではどうすれば良いでしょうか。
(1)早めに河川敷を離れる(堤防を越えて街なかの建物の中へ)。
(2)リアルタイムの気象情報を常にチェックする(個人でできること)。
(3)一時中断、中止、避難誘導など、早めの決定・対応を行う(主催者の対応)。
(4)特定イベントに対するスマホアプリなど、さまざまな情報サービスの充実を図る(主催者およびイベント参加者へのメール配信など)。
つまり、参加者、主催者、行政(警察など)が天気をはじめ交通渋滞や人の移動などの情報を共有することが重要といえます【図5】。

過去にも被害のあった花火大会がありました。2013年の長野県諏訪湖の花火大会では、開始直後からの雷を伴う大雨のために花火大会が中止されましたが、交通機関も運転を見合わせ、高速道路も通行止めになりました。このため、一時6,000人を超える人が帰宅困難になり、急きょ用意された公共施設などで一夜を過ごした人も出ました。雨にぬれて低体温症になり、37人が病院で手当てを受ける影響が出ました。同じ年の隅田川花火大会でも直前の雷雨で中止になり、混乱を極めました。

花火大会だけでなく野外コンサート(第12回コラム<2012年8月18日落雷事故(大阪)>(*4))やお祭り、2020年の東京オリンピックなど、大勢の人が集まる場所での極端な気象(異常気象)に対する危機管理は、非常に重要です。

(*1)第8回 竜巻予測の最前線/小林文明
(*2)第3回 局地的大雨・雷・竜巻を生む巨大積乱雲/小林文明
(*3)第5回 雷から身を守るために/小林文明
(*4)第12回 2012年8月18日落雷事故(大阪)/小林文明

(2017年11月30日 更新)