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地震全般・各地の地震活動

第18回  新しい南海トラフ巨大地震の評価と暫定的な対応策 ~後編~

執筆者

平田 直
東京大学地震研究所教授 地震研究所地震予知研究センター長
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暫定的な地震防災対策と新しい情報発表

本コラム(前編)で述べたことから、現在の科学的知見を防災対応に活かしていくという視点は、引き続き重要だと考えられます。そして、異常な現象を評価し、どのような防災対応を行うことが適切か、地方公共団体や企業等と合意形成を行いつつ検討した上で、国としてのガイドラインの提案や、具体的な防災計画を決めていく必要があります。そのためには、国、地方公共団体、民間企業、地域住民組織それぞれが、こうした事態に直面した時にするべきことを考えると同時に、私たち一人ひとりも、自分のこととしてとらえることが大切です。こうした合意形成は、速やかに行われなければいけませんが、実際にはしばらく時間がかかります。しかし、その前に、南海トラフで大地震の発生を示唆するような現象が発生する可能性もあるのです。

そこで、国は新しい防災体制ができるまでの間の暫定的な措置を決めました。気象庁は、2017年11月1日から、従来の「東海地震に関連する情報」に代わって、「南海トラフ地震に関連する情報」を発表します。この新しい情報発表のため、気象庁は「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」を開催します。発表される情報は、「定例」と「臨時」の二つです【表1】(*5)。

なお、【表1】に示されている「臨時」情報は、南海トラフ沿いで、本コラムの前編で述べた「ケース1」(隣の領域のM8クラス)または「ケース2」(M7クラス)の地震等が発生した場合や、東海地域に設置されているひずみ計で「ふだんとは異なる変化が観測された」場合に、発表されます。

内閣府(防災担当)は、気象庁から、南海トラフ沿いの大規模な地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まったという「南海トラフ地震に関連する情報」(臨時)が発表されたときは、関係省庁の職員を招集して「関係省庁災害警戒会議」を開催します。そして、関係省庁による今後の取り組みを確認し、国民に対して、今後の備えについて呼びかけを行う予定です。呼びかけは、南海トラフの大規模地震による被害が想定される地域の住民に対して、日頃からの地震への備えの再確認を促すものです。例えば、家具の固定、避難場所・避難経路の確認、家族との安否確認手段の取り決め、家庭における備蓄の確認などです(*6)。

科学の実力を活かし、社会全体で災害に備える

これらの気象庁と内閣府などの国の対応は、あくまで暫定的な措置です。静岡県も、暫定的な対応を決めました。今後、国は、異常な現象やそれに基づく防災対応の方向性等について、地方公共団体や民間企業、マスメディアに丁寧に説明し、認識の共有を図って行く必要があります。広域大規模災害の防災対応には、地域ごとでの策定、また民間企業での策定のための国としてのガイドラインを作る必要もあります。このために、静岡県、高知県、中部経済界をモデル地区として検討が進められる予定です。

今後は、「実際には地震が発生しないかもしれないが、地震が起きる可能性が高まった」という知見をどのように防災対策に活かしていくかを考えなければなりません。大震法に基づく対応に代わる新しい防災対応についての国民的な議論が行われることが重要です。地震発生の可能性と、地域の災害への脆(ぜい)弱性の程度によって、対応策は異なってきます(図6)。

現在の科学の実力を活かし、社会全体で災害に備えるために、国、地方公共団体、関係事業者、地域住民とで丁寧な議論を進め、防災対策の内容について合意形成を行っていく必要があります。国や専門家が決めたことに従うのではなく、住民一人ひとりが判断することが求められているのです。この議論を通じて、自然災害の多い我が国を、災害に強い社会に変えていくことができるのです。



「NHKそなえる防災」第18回 新しい南海トラフ巨大地震の評価と暫定的な対応策 ~前編~(平田直)を読む

参考文献:
(*5)気象庁(2017)、南海トラフ地震に関連する情報の種類と発表条件
http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/nteq/info_criterion.html
(*6)中央防災会議幹事会(2017)、「南海トラフ地震に関連する情報」が発表された際の政府の対応について(平成29年9月26日中央防災会議幹事会決定)
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/pdf/nankai_taiou.pdf

(2017年11月30日 更新)