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豪雨災害

第1回  豪雨災害からの“早期避難”実現に向けて 〜「XRAIN」を活用した早期予報への取り組み〜

執筆者

中北 英一
京都大学防災研究所 気象・水象災害研究部門 教授 工学博士
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はじめに

2017年7月に起きた九州北部豪雨災害は、梅雨前線が長時間にわたって停滞し、狭い範囲の地域に記録的な大雨を降らせたことが原因でした。「線状降水帯」と呼ばれる気象現象によって引き起こされた「局所的な集中豪雨」や、ゲリラ豪雨と呼ばれる「短時間の局地的豪雨」を、どのように早期に探知・予測し、私たちの「早期避難」に結び付けたら良いのでしょうか。

本コラムでは、「Xバンド偏波レーダーによる観測ネットワーク情報(XRAIN(エックスレイン)と記述)」を活用した「早期探知」や「降水予報」への取り組みを紹介しつつ、「少しでも早い避難行動の実現」を考えます。

ゲリラ豪雨災害とは?

2008年、ゲリラ豪雨による悲惨な災害が連続して起こりました。7月28日神戸市の都賀川で、突然の出水(鉄砲水)によって川辺にいた児童ら5人が死亡しました【写真2】。8月5日には東京都豊島区の雑司ヶ谷で、急激な増水により幹線下水道の工事中の作業員5人が死亡しました。

この二つの悲惨な災害は、予想をはるかに超えた急激な出水が原因でしたが、さらに積乱雲が突然発生し急激に発達して短時間豪雨をもたらしたこと、その豪雨が災害発生場所の上流にも降ったこと、そして上流に降った豪雨がすぐに出水するほど集水域の面積が小さかったこと、都市域であったため降った雨が瞬時に下水道網に流れ込んだこと、などの要因が重なって悲惨な災害となったのです。ゲリラ豪雨の発生も含めて、ある意味、都市ゆえの災害であったと言えるかも知れません。そして、悲惨さにがく然とした防災関係者に、5分、10分でも早い避難情報がどれほど重要かを認識させた災害でもありました。

「ゲリラ豪雨」という言葉は、気象庁では「局地的大雨」と呼んでいます。しかし私は、都市生活の日常の場で悲惨な災害を突然もたらすという、警告の意味で「ゲリラ豪雨」の方を多用しています。
この「ゲリラ豪雨」は、積乱雲が線上に並ぶ豪雨(線状降水帯)によって主にもたらされる梅雨時の集中豪雨とは違い、1個(シングルセル型雷雨)あるいは2、3個(マルチセル型雷雨)の積乱雲によってもたらされます。また、マルチセルがあたかも一つの巨大積乱雲のようになる場合(スーパーセル型雷雨)もあり、竜巻を伴います。「大気が不安定」な時に発生し、上昇気流によってはるか上空までモクモクと発達し、何十万トンという水を上空に生成・蓄積させ、やがてそれらを短時間の豪雨と強風、そして事前に起こる雷として、地上にもたらします。大気の破壊現象といってもよいくらいです。通常は、大気が不安定な時に、日射があたる山岳斜面で上昇気流が発生し、それが積乱雲に発達しながら都市域にも移動してきます。晴れている中でも、突然、単独の積乱雲が発生し急激に成長しますので気付きにくく、かつ予測が難しいのです。

ゲリラ豪雨のタマゴとその早期探知、危険性予測

このように、ゲリラ豪雨災害では5分、10分でも早い避難が必要で、そのためには少しでも早い豪雨の探知や予測が求められます。そんなことは可能でしょうか?

積乱雲ができるとき、まず、湿った空気が上昇して雲粒になります。この雲粒はミクロン単位の非常に小さいものですので、現在の気象レーダーでは残念ながら探知できません。さらに高度数キロまで上昇しますと、雲粒自体が集まって、はるかに大きなミリ単位の粒である雨粒や氷粒(あられ、雪や雹(ひょう)など)といった降水粒子が形成され始め、その段階になって初めてレーダーで探知されます。この降水粒子を「ゲリラ豪雨のタマゴ」と私たちは呼んでいます。このタマゴが探知されだしてからしばらくは、さらに多くの降水粒子がどんどん上空で急激に蓄積されてゆき、上昇気流で支えきれなくなった5~10分後に、上空の冷たい空気とともにドサーと落ちてきます【図1】。

私たちは、都賀川災害の際にも、通常観測の気象レーダーにより「ゲリラ豪雨のタマゴ」が探知されていたことを明らかにしました【図2】。

国土交通省は、2010年から順次、政令指定都市を中心に、時間的にも場所的にもきめ細かく(1分間隔で250mごと)、そして正確に豪雨を観測できる気象レーダー観測網を配備し、3次元観測を標準としたゲリラ豪雨災害への観測体制を強化しました。XRAINとよばれ、今ではその情報はホームページやスマートフォンで簡単に見ることができます。(※1)私たちはXRAINで観測された多数の事例を用いて、積乱雲が急激に成長する際には、地上に豪雨がもたらされるより20~30分前に「ゲリラ豪雨のタマゴ」が上空で出現すること、50mm以上の短時間豪雨がもたらされる場合はタマゴの段階からコマを回転させたような渦がほぼ確実に上空で確認されることを、明らかにしました。その後、国土交通省と共同で、「危険な短時間豪雨が来るぞ」という「XRAINを用いたゲリラ豪雨の早期探知・危険性予測」の実用化の取り組みを進め、大阪・神戸・京都を含む近畿地域において、豪雨警戒ランクを3段階で判定する手法を開発し、Web表示するシステムを構築しました。現在、気象庁や近畿地方の地方自治体を対象に試験配信が継続されています。

(※1) 国土交通省「川の防災情報」XRAIN GIS版
    http://www.river.go.jp/x/xmn0107010.php

ビデオカメラとさまざまな気象レーダーを用いて積乱雲内部を探る

何分後にどれくらいの短時間豪雨がもたらされるかを予測するためには、そのタマゴからどのように積乱雲が発達するかを知ることがとても大切です。そのために私たちは、モクモクと発達してゆく積乱雲内部の様子を、ビデオカメラなどを入れた箱(ゾンデ)をぶら下げた気球と、さまざまな気象レーダー(降水レーダーや雲レーダー)によって同時観測する基礎研究を、いくつかの大学・研究機関の研究者や学生と、世界に先駆けて2007年から沖縄で継続しています。XRAINで使用される最新の現場業務用気象レーダー(偏波レーダーといいます)は豪雨の強さ(降雨強度)だけでなく、上空に浮いている降水粒子があられか、雹(ひょう)か、雪か、などといった種類をも推測できます。また、積乱雲の中に入ったビデオカメラでは、降水粒子の種類が雲の中にどれくらいあるのか確認できます。雲粒から発達してどういった種類の降水粒子が順次できているかは、積乱雲がこれからまだ発達するのか、衰弱するのかを予測するのに大切な情報になります。

一方、いつどこでどのようにしてタマゴができるのかを理解することも、さらに早期の避難情報を出すために重要です。通常用いられている降水レーダーでは、「タマゴ」の前に生成されている雲粒は見ることはできませんので、より小さな粒子を見ることのできる雲レーダーや、雲ができる前に形成されている上昇気流を観測できるレーザーレーダー(ライダー)などを用いて、「タマゴ」がどのようにできるかの研究も開始しています。ビデオカメラも、雲粒が撮影できるものを新たに導入しています。雲レーダーによる研究では、これまでよりさらに10~20分早く、「タマゴ」や上昇気流の渦を探知できることが明らかになりつつあります【図3】。2012年からは都賀川豪雨災害のあった神戸でも観測を始めています。

私たちはどうすればよいでしょうか?

今回はゲリラ豪雨を中心にお話をしましたが、梅雨集中豪雨も含め、地球温暖化による豪雨災害の頻度は高くなると推測されています。大学・研究機関、国、自治体はゲリラ豪雨のさらなる早期探知のために、新たな最先端レーダー観測システムを導入して、早期予測や早期の避難勧告等につながる利用手法の開発に全力を注ぐでしょう。

しかし、一人ひとりが自分で判断し、自らより早期に避難することに勝る対処方法はありません。もちろん、レーダーによる観測情報や予測情報はその判断に重要な情報を与えてくれます。しかし、いくら技術が進歩しても、積乱雲や鉄砲水の発生という複雑な自然現象を相手にしている以上、100%の予報というのはありえません。自治体も避難勧告等を発表するタイミングを逃すことがあるかもしれません。

では、どうすればよいのでしょうか?
それは「危険な状態になることを自分で感じる力を養う」こと、そして「感じたら、自らの判断で避難する」しかありません。そのためには、「ゲリラ豪雨は突然やってくる」、「小さな河川では、上流で雨が降りだせば突然出水する」、「水の流れには想像を超える威力がある」、という認識をしっかり持つことが重要です。モクモクときたりゴロゴロときたら、あるいは上空が真っ黒になってきたり暑かったのにヒヤッとした冷たい風が吹いてきたら、もうすぐ豪雨が来るぞ、そんなことを世代を超えて、学校で、そして親が子に伝えてゆくことが大切です。自分の身は自分で守る。私も含めて、そんな覚悟が大切なのだと思います。

私が小学校低学年のころ、田舎の小河川で泳いで遊んでいるときには、モクモクときたりゴロゴロときたら川から離れるよう言い含められていたのを思い出します。あの時は、雷が危ないからそう言い含められていると思っていました。鉄砲水に対する注意も含まれていたのだとは当時は認識できていなかったような気がします。

(2017年9月30日 更新)