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地震と建物の安全対策

第7回  数千年に一度の最大級地震に対する建物の対策(その3:逃げる必要のない建物とまちを目指して)

執筆者

久田 嘉章
工学院大学建築学部まちづくり学科 教授 工学博士
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逃げる必要のない建物とまちを目指す

最終回である今回はまとめとして、「逃げる必要のない建物とまち」の必要性を改めて確認します(文献1)。自分の家やまちは自分たちで守ることが大原則であり、特に巨大都市で大地震が発生すると、避難のスペースは絶対的に不足します。震災対策では、自助(自分で行う対策)として建物に高い耐震性能を持たせ、仮に被害が出た場合も共助(地域の人々との協力)による柔軟で速やかな災害対応を可能にする重要性を強調したいと思います(文献2)。

建物に高い耐震性能を持たせる

初めに、高い耐震性を持つ建物の重要性を改めて確認します。まず、【図1】は2階建て木造住宅の地震時の被害程度のイメージ図です。ここでは単純に、「一部損壊」、「半壊」、「全壊」、「倒壊」と4つに分類しています(詳細な説明は文献3を参照)。まず、被害程度が「一部損壊」では建物が修復可能で、避難も不要です。次の「半壊」の程度でも修復は可能ですが、被害状況によっては取り壊す必要が出てきます。さらに「全壊」では「取り壊し」と、その後の避難生活の場の確保が必須となります。最後の「倒壊」の程度では、死亡する危険性が高いため、何としても避ける必要があります。

次に【図2(a)~(c)】に示すように、耐震性の優劣の違いによる建物被害の状態と震災時に必要な対応について見てみましょう(文献4、5を参照)。まず【図2(a)】は、最低基準である現行の耐震基準(1981年改正による建築基準法)による被害関数です。横軸に震度を、縦軸に倒壊、全壊、半壊以上、および一部損壊~無被害の各確率を、それぞれ示しています。

図の見方ですが、例えば自分のまちに震度6.5の地震が起きたと想定します。全体の60%程度の建物は一部損壊までの被害(青色の範囲)にとどまりますが、残りの建物のうち20%程度が半壊の被害(黄色の範囲)を、十数%程度が全壊の被害(ピンク色の範囲)を、そして数%の建物が倒壊に至る被害(灰色の範囲)をうける可能性があることを、それぞれ示しています。

また同図には地震の際に必要な対応として、自助と共助での対応が可能な範囲と、公助(地域外からの救援や避難場所・避難所への避難など行政・公的機関によるサポート)が必要となる範囲も、震度とそれによる被害程度と連動させて点線で示しています。さらに震度と地震の発生確率の目安として、数年~数十年に一度程度の地震(まれな中小地震)、数百年に一度程度の地震(ごくまれな大地震)、数千年に一度程度の地震(活断層帯の地震や海溝型の超巨大地震などの極大地震)も付記しています。

【図2(a)】の現行の基準では、一般に震度6弱程度(数十年に一度程度の中地震)までは被害も小さく、自助で対応可能ですが、震度6強程度から被害が急激に増大します。地域内で多数の建物が全半壊する可能性があり、初期消火や救援救護活動などの共助による対応が重要になります。さらに震度7になると大半の建物に甚大な被害が生じ、公助による救援や地域外での避難生活などが必要となります。

次に【図2(b)】では、現行基準に照らし合わせた「耐震性に劣る老朽化した建物など」の被害関数と、必要となる対応を示します。【図2(a)】に比べて、被害率の曲線が全体的に上方に移動し、同じ震度でもより甚大な被害となり、厳しい状況に迫られることが分かります。例えば、震度6弱程度でも地域内で多数の被害が生じるため、共助の必要性が高まります。さらに震度6強程度から大半の建物の被害が全半壊以上となり、公助が無いと対応が極めて困難になります。現実の問題として大震災時に速やかな公助は期待できませんので、非常に深刻な状況です。何とか生き残っても、多くの建物が取り壊され、避難所や仮設住宅での長く厳しい生活を余儀なくされることとなり、災害関連死が増加し続けます。さらには、まちの復旧に膨大な時間と経費が必要になります。

最後に【図2(c)】では、現行基準よりも耐震性に優れた建物(耐震等級3や余裕度検証を行った免震・制振建物など。文献3を参照)の被害関数と必要な対応を示します。この場合は震度6強程度でもほとんど被害が出ず、自助で対応可能であり、建物から逃げる必要がありません。仮に震度7となってもほとんどの建物は無事なので、自助と共助で対応が可能であり、まちからの避難も不要です(※)。建物の耐震性の向上にかかる経費は、一般に「建設費に対して数%程度」と言われています。土地代と建設費を合計した額を考えますと、その費用対効果に注目していただきたいと思います。

(※)耐震等級3の建物(現行基準の1.5倍の地震荷重に耐えられる建物)の被害調査として、熊本地震の報告があります(文献5)。震度7の揺れを2度も経験した益城町(ましきまち)では、耐震等級3の建物16棟のうち、14棟は無被害、2棟が一部損壊でした。

災害時における柔軟で迅速な対応を可能にする

「逃げる必要のない建物とまち」の実現には、建物の耐震対策に加えて、安全な室内対策と十分な備蓄(1週間程度の水と食糧、トイレ対策など)も重要です(文献2)。一方、どんなに十分な対策を行なったとしても、「絶対に逃げない」という選択肢はあり得ないことにも注意してください。改めて地域のハザードマップや被害想定を確認し、木造密集市街地での延焼火災や、津波、風水害などの危険性を調べ、地域の最悪の被害状況をイメージしておくようお願いします。避難勧告・指示が出た場合なども想定し、いつ、どこに、どのような経路で避難したらよいのか、必ず確認してください。

災害は想定外の連続であり、状況に応じた柔軟かつ迅速な対応が必要になります(文献5)。地震の規模や発生時期、被害の様相を正確に予測することは不可能ですが、被害程度に応じた対策の準備は事前に行うことはできます。例えば、自分のまちや会社で負傷者が1人の場合と、10人、100人の場合では、対応が大きく変わることが想定できると思います。ぜひ所属する自治会や自衛消防組織の活動として、出火時の対策や、傷病者、要救助者の救助対策など、必要と考えられる被害想定の項目を挙げて、どの程度までは自助で、どこから共助や公助が必要になるのか事前に検討し、活動計画を策定してください。そして防災訓練などを利用してその効果や改善点を検証し(文献7)、「逃げる必要のない、自分たちで守る建物とまち」を目指していただきたいと思います。

参考文献
1)日本建築学会編:逃げないですむ建物とまちをつくる~大都市を襲う地震等の自然災害とその対策~、技報堂出版、2015年
2)久田嘉章:第2回「建物と人の生活を守る震災対策(その1:建物の耐震性能の向上策)」2015年12月
3)久田嘉章:第6回「数千年に一度の最大級地震に対する建物の対策(その2:活断層近傍の建物対策)」2017年5月
4)気象庁、第1章 計測震度と被害との関係について、震度に関する検討会 報告、2009年3月、http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/study-panel/shindo-kentokai/
5)国土交通省、熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書について、2016年9月、http://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000633.html
6)久田嘉章:第4回「建物と人の生活を守る震災対策(その3:2016年熊本地震の教訓と対策例)」2016年6月
7)久田嘉章:第3回「建物と人の生活を守る震災対策(その2:災害対応力の向上策)」2016年2月

(2017年9月30日 更新)