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土砂災害

第10回  中山間地域の土砂災害に備える ―九州北部豪雨災害を例として―

執筆者

池谷 浩
一般財団法人 砂防・地すべり技術センター 研究顧問
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平成29年7月九州北部豪雨災害の実態

2017年(平成29年)7月5日~6日にかけての「平成29年7月九州北部豪雨」と名付けられた豪雨により、福岡県と大分県の県境周辺を中心に土砂災害が発生しました。この災害の特徴は短時間に多量の雨が降ったことです。福岡県朝倉市黒川北小路公民館のデータによると、最大1時間雨量が124mm、24時間雨量は実に829mmでした。

これだけの雨が降れば山は崩れ、そこに生育している木々は流出します。事実、多量の土砂と流木が下流に流れ出て、大きな被害をもたらしました。国土交通省によると今回の災害で発生した土砂量は約1,000万立方メートル、流木量は約21万立方メートルと発表されています。

九州北部豪雨災害で顕在化したことがあります。それは今回の災害がいわゆる「中山間地域」(※)、すなわち高齢化が進み、集落への道路は山間部や斜面の近くを通るため、平野の道路に比べて土砂災害により通行止めとなる可能性の高い地域で発生したということです。この災害での死者37人のうち73%は65歳以上の高齢者であり、災害直後には孤立化した集落と連絡が取れないことが問題になるなど、まさに中山間地域の防災上の課題が浮き彫りになったのです。

そこで、全国の約70%を占める(農林水産省)と言われている中山間地域における土砂災害からの「安全と安心を確保する対策」を皆で考えることが、今必要となっています。

(※)中山間地域とは、平野の外縁部から山間地を指す(農林水産省)。

高齢者の安全を考える

一般的に、避難勧告などの防災情報は防災行政無線で伝達されます。しかし、強い雨音や雷鳴でその音がかき消されたり、情報源としてのテレビは停電で見られなくなったりすることがよくあります。ましてや1人暮らしや老夫婦2人の高齢者に、防災情報の音が聞こえず情報が伝わらないことは大いにありえます。また過去の事例では、情報は伝達されても、自分だけでは避難場所に行くことができない高齢者が存在したという事実も見逃せません。

我が国の高齢化は着実に進展していて、2016年10月1日現在で総人口に占める割合が27.3%(平成29年版高齢社会白書)となっています。中山間地域である今回の災害の被災地、福岡県東峰村(とうほうむら)の高齢化率は40.4%(2016年4月1日現在、福岡県)と全国平均を大きく上回っています。

これら高齢者が多く生活する中山間地域では、高齢者の安全と安心を確保するために確実に防災情報を伝えることが必要です。一つの方法として、お互いが顔見知りの住民同士による「避難しましょう」という声掛けがあります。別の地域ですが、過去の災害時に地区長さんによる声掛けが有効であった事例があります。また、この声掛け時に高齢者と一緒に避難場所に行くようにすると、自力では避難できにくい方も安心して避難することができます。地域住民のこれらの対応を支援するためにも、行政は避難準備・高齢者等避難開始の情報を適切に発令して高齢者の安全を守る努力をすることが大切です。

集落の孤立化を防ぐために

典型的な集落の孤立化は、う回路のない道路が土石流やがけ崩れなどにより通行不能になることで生じています。九州北部豪雨においても孤立化が発生し、ヘリコプターによる救助や消防団員による徒歩での住民救助の様子がテレビで放送されました。災害の状況によっては、住民の安否情報の確認ができなくなるなど、情報に関しても孤立化してしまう場合があります。すなわち「集落の孤立化をいかに防ぐか」が大切なのです。その対策の基本は、道路が通行不能となる前に住民の避難を終えることです。ここに具体的な対応策を提案しましょう。

【図2】は1982年(昭和57年)7月長崎大水害時に発生した現象と累積降雨量の関係を示したものです。大規模な土石流やがけ崩れが発生する前に、多くの道路冠水や落石などが起こっています。そこでこれらの現象をいわゆる前兆現象と捉え、集落へのう回路のない道路でいくつかのこれらの前兆現象が発生し、かつ今後も引き続き大雨が降り続くことが予想される場合には、その集落の住民の避難を早めに実施するというものです。また、万が一孤立化した場合に備えて、集落内に安全な場所を確保しておくとともに、住民の安否情報を確実に行政に伝達できるシステムを構築しておくことも必要です。

特に今後の大雨の予想には、気象庁の「危険度を色分けした時系列」の活用が有効です。この情報は、警報級、注意報級の現象が予想される時間帯をそれぞれ赤、黄色で表示するなど、危険度とその切迫度が一目で分かる色分け表示を行い、雨量、風速などの予想値も時間帯ごとに明示しています。また、警報に切り替える可能性が高い注意報についても、通常の注意報と視覚的に区別できる表示にしています。これにより、気象警報・注意報で発表する危険度や切迫度が視覚的に分かり、自らの地域に迫る危険の詳細を素早く把握することができます。

中山間地域における土砂災害に備える

最近の我が国の気象状況、特に雨の降り方を見ていると、思わぬところに思わぬ大雨が降っています。決して他人事ではありません。7月の九州北部豪雨でも気象庁の朝倉観測所において、10分間雨量、1時間雨量および日雨量すべての値で観測史上1位を更新しています(【表1】参照)。

特に中山間地域は住民の生活圏と山崩れなど土砂の発生源との距離が近いこともあって、土砂の移動は短時間で生活圏に到達します。言いかえれば、土砂災害を防ぐためにはハード対策の整備の必要性とともに、ソフト対策として住民の早めの避難が求められている地域なのです。その早めの避難の方策については、中央防災会議の総合的な土砂災害対策検討ワーキンググループによる「総合的な土砂災害対策の推進について」(2015年6月)において、「避難準備・高齢者等避難開始の情報は一般の人々に対して避難の準備を促すための情報という意味合いであるが、土砂災害警戒区域等の危険区域内に住む住民に対しては早めの自発的な避難を促す情報でもある」と提言されています。すなわち、早めに避難が必要な中山間地域の土砂災害の危険のあるところに住んでいる住民は、高齢者はもちろん一般の方々も、避難準備・高齢者等避難開始の情報を活用して安全のための行動をとることが期待されています。

このように中山間地域は土砂災害が発生した場合は厳しい状況を呈する場であることを理解し、ハード対策による地域の安全の確保とともに、地域での人々のつながりを高めていくこと、および防災意識の向上を図ることが求められています。そのためには行政、住民皆が防災の主役であることを認識して、地域の安全と安心を構築していくことが重要です。

(2017年9月30日 更新)