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台風の基礎知識

第8回  複雑な動きをする台風

執筆者

市澤 成介
元気象庁予報課長
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異例づくめだった2016年8月の台風

8月の台風は図1の太矢印で示すような経路を進むのが一般的ですが、2016年8月に日本の南海上に発生した6つの台風は全てが西日本に向かわず、北日本や東日本に向かっており、北海道にはそのうち3つが上陸し、東北地方には太平洋側からの上陸があるなど、異例づくめでした。

台風の動きは上空の大気の流れに左右されますが、2016年8月は平年とは異なった大気の流れが卓越したことが影響しています(図2)。この8月の台風は異常な経路が際立ちましたが、特に異様な経路を取った台風第10号の動きを見ることにします。

台風第10号の動き

台風第10号は日本の南海上で大きな円を描いた後、関東の東海上を北上し、東北地方に上陸しました(図3)。台風はその後、東北地方を横切り日本海に進みました。この台風の動きに大きな変化が起こったと見られる時期が、以下のようにありました。

(1)西から西南西進へと向きを変えた(19日午前9時)(図4-1)

熱帯低気圧10(その後台風第10号となる)は、関東の南東海上に達した頃、進路を西北西から次第に西南西へ変えました。この頃の熱帯低気圧10の上空の流れは、はるか東海上に中心を持つ高気圧の縁辺を北に向かう流れと、日本海から東シナ海を覆う高圧部(※)の南側を西寄りに向かう流れの分岐点付近にありました。熱帯低気圧10は、規模が小さかったため、西への流れに乗りましたが、後を追って北上した熱帯低気圧11は、西への流れではなく北に向かう流れに乗って北海道に向かいました。熱帯低気圧11は、流れの分岐点付近に達した時には発達して台風第11号となり、熱帯低気圧10より規模が大きくなったことで、上層の北に向かう流れに支配されたものとみられます。

(※)周囲よりも気圧が高い領域が広がっているが閉じた等圧線(等高度線)が描けないところを「高圧部」と呼ぶ。中心がどこにあるかが明瞭な場合は「高気圧」と呼ばれる。

(2)動きが止まり、やや南東に動いた(22日午前9時)(図4-2)

このころ、台風第10号は動きが遅くなっていました。同時刻に、東側には台風第9号が早い速度で北に向かっていました。2つの台風が接近すると、お互いの動きに影響を与えることがあります(藤原の効果という)。このときは、弱いながらも2つの台風が互いを引き合う動きをしたことで、台風第10号はほとんど動きが止まり、台風第9号はわずかに西に寄せられた程度で北上しました。これは台風第9号の勢力の方が強かったためです。この関係が解消した後、台風第10号は西の高圧部の縁に沿って南下を続けました。

(3)南大東島の南海上で停滞後、東への動きが始まった(26日午前9時)(図4-3)

台風第10号は大陸方面に中心を持つ高圧部の東縁をゆっくり南下しましたが、この流れが弱まったことで、24日頃からは南大東島の南海上でほとんど停滞を続けました。一方、南海上の高気圧の勢力が次第に強まって、この北縁を流れる東北東の流れが台風第10号に接近したことで、この後、台風はゆっくりと東北東への動きが始まりました。

(4)偏西風の流れが台風に接近(29日午前9時)(図4-4)

台風第10号が日本の南海上を北東に進んでいた頃、北緯40度以北を流れていた偏西風の流れに変化が起こり、東シナ海から西日本方面に大きく南下する蛇行が始まりました。この偏西風の大きな流れの変化によって台風第10号の進路に大きな変化が起こりました。この偏西風の流れが大きく蛇行したのは、カムチャッカ半島の南海上に中心を持つ大きな高気圧が偏西風の東への流れをブロックしたためで、その後の台風第10号の北上から西に向かう動きを支配したと見られます。

過去に異常な動きをした台風

台風第10号はいくつかの要因が重なって複雑な経路を取ったのですが、これまで日本列島に影響を与えた台風の中にも、複雑な動きをした台風は数多くあります。この中から特に異常な動きをした台風7207号を紹介します(図5)。

1972年7月、台風第7号は東シナ海で反時計回りに大きな円を描く異常な動きをしました。このような異常な動きが起こったのは、父島の東海上を北西進し、日本に上陸した台風第9号が関わっていました。勢力が強い2つの台風が接近すると、両者が互いに引き合うような動きをすることがあります。このときも台風第7号と台風第9号が1300kmほどの距離まで近づいた頃からお互いが影響して、台風第7号は反時計回りに南下し、台風第9号は加速して次第に接近しました。しかし、2つの台風が最も接近した後、台風第9号は上層の流れに乗って、台風第7号から離れる方向に移動したため、台風第7号も後を追うように北上に転じました。台風の動きは上層の流れのほかに、近傍に別の台風が接近したときには、こうした複雑な動きをすることがあるのです。

台風の進路予報の精度は向上している

2016年8月の台風第10号は複雑な動きをしましたが、進路予想が外れた訳ではありません。父島の西海上に進んだ28日午後9時の台風の進路予報は図6に示すように北東から北に向きを変え3日後には北西方向に向きを変える予報となっていました。図3の台風第10号の経路と比較すると、速度が若干異なったものの予報円の中に入っていることが判ります。

気象庁が発表する台風の進路予報の精度は図7に示すように確実に向上しています。台風の進路予報は、この予報誤差を考慮し70%の確率を示す予報円を使って発表しています。台風の進路予報を使うに当たっては、予報円中心だけでなく、予報円の大きさにも配慮することが大切です。

そのうえで、気象庁の発表する台風進路予報で、自分の町が台風の予報円に入るような状況となったときは、台風による影響が考えられます。風や雨に備えて早めに家の周りの点検を行い、最新の台風情報により早めの避難行動に結びつけてください。そして、台風の接近で風雨が強まる状況では、安全な場所への退避を終えた状態で身の安全を確保してください。

(2017年7月31日 更新)